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女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第二章 アインホルン聖国の神学校

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神学校の施設

 一限目は神学校の校内と敷地内の案内をしてくれるらしい。

 かなり広いので、急ぎ足で進んでいくようだ。

 校舎は三階建てで、一学年の教室は三階である。

 二階は二学年の教室、一階は食堂や講堂、礼拝室に購買部、自習室など、生徒達で共有するスペースと職員室、校長室などがあるようだ。図書室だけは三階にあるようだ。昼休みのみの利用が許可されているという。今は二学年の生徒が授業で使っているということで、各々見に行くようにと言われた。

 ゆっくり校内を見学するという、親切な案内ではない。

 ブラザー・マテオは軽く走っているのと同じくらいの速さで歩いていた。

 ついていく生徒のほとんどは肩で息をしつつついてきている。

 平然としているのはブラザー・マテオと、騎士である私、それからユリウスくらいか。

 昨日、顔色を悪くし、今にも倒れそうな様子でいたのに、意外にも体力はあるようだ。

 もしかしたらあのときは極めて特殊な状況だったのかもしれない。

 人が殺到するという状況に、心的外傷を抱えている可能性がある。

 その辺はセンシティブな問題だろうから、触れないようしておこう。

 背後でぜーはーと辛そうな息づかいが聞こえる。

 振り返った先にいたのはホィンだった。


「ホィン、大丈夫ですか? ブラザー・マテオに、もう少しゆっくり歩くように言ってきましょうか?」

「だ、大丈夫! 体力が、ちょっぴり足りてないだけだから」


  なんでも幼少期から織機しょっきに向かって機織はたおりをする遊びしかしていなかったらしい。フィンやヘィンが誘っても、頑なに織機の前から動かなかったようだ。

 そんな機織りが大好きなホィンが家業を継げずに聖職者になるなんて、なんとも歯がゆく思ってしまう。

 長子を優遇する風潮に、嫌気が差しそうになった。

 何はともあれ、ホィンは頑張るというので、気にかけつつ進むことにした。


 校内の案内は終わったようで、続いて敷地内を回るようだ。

 南側には畑があるらしい。

 野菜類の他に、リンゴやブドウなどを栽培していて、秋になれば収穫。その後、ワインを作って売るようだ。

 他にもパン工房や飴工房、酪農工房などもあるという。

 売り上げは養育院の子ども達に向けて寄付するのだとか。

 中央にそびえ立つのは、神学校の敷地内すべてに鐘の音を響かせる鐘塔しょとうである。内部は螺旋階段になっていて、担当の神父がわざわざ上って鳴らしているようだ。

 北には鶏舎に牛舎があるという。上級生が交代で世話をしているらしい。

 下級生は畑の世話を担うようだ。

 そして――。


「アルヴィ、あれはなんだろう?」


 ホィンが木々が鬱蒼うっそうと生えた中に、石造りの建築物を発見したようだ。

 私はホィンが指差す方向を、目を凝らしてみてみた。


「ああ、本当に何かあるようです。よく気づきましたね」

「昔から目だけはいいんだ」


 職人の多くは作業で目を酷使するあまり、視力が悪くなる。

 けれどもホィンは幼少期から機織りを趣味としているが、目は悪くならないらしい。

 職人の誰もが羨むような視力だろう。


「どうした?」


 立ち止まって木々が茂った方向を見つめる私達が不思議に思ったのか、ユリウスが声をかけてくる。


「いえ、あちらに石造りの建物が見えたものですから」

「ああ、たしかにあるな」


 ブラザー・マテオはすでに通過してしまった。

 敷地内にある施設はすべて案内すると言っていたのに。


「聞きにいこうか」


 ユリウスが走るので、私とホィンもあとに続いた。


「ブラザー・マテオ、少し待ってほしい」

「どうした? 優等生シュトレーバーユリウス・フォン・アイスフェルト」


 ユリウスは遅れてやってきたホィンを振り返り、自分で言うように促した。


「あの、あっちの木々が生い茂っているほうに、石造りの建物を発見したんだけれど」

劣等生フェアザーガーホィン・ヴェーバーよ、あれは気にしなくていい」


 ホィンが返事をしようとした瞬間、ユリウスが一歩前に出て、鋭い声で疑問を投げかける。


「ブラザー・マテオ、それはなぜだろうか? 神学校に入学したのだから、敷地内にある建物はすべて案内すべきだろう」

「まあ、優等生シュトレーバーユリウス・フォン・アイスフェルトの言うことも一理ある」


 ホィンに対してはきっぱり断ったのに、ユリウスが物申せば意見を聞き入れるなんて。

 神父すら、優等生シュトレーバー劣等生フェアザーガーの扱いに差をつけるようだ。


 ブラザー・マテオは生徒を引き連れ、石造りの建物のほうへと案内する。

 周辺は太陽光が差し込まず、ひんやりしていた。

 それに湿気でじめっとしていて、少し不気味な雰囲気だった。

 ホィンは私の上着の端を握り、怖々とした様子でついてくる。


「うう、やっぱり見たいだなんて言わなきゃよかった」

「大丈夫ですよ」


 なんて話している間に、先頭を歩くブラザー・マテオが立ち止まる。

  石造りの建物は蔦が張っている上に苔むしており、手入れが行き届いているようには見えなかった。

 クラスメイトの一人が質問を投げかける。


「ブラザー・マテオ、これは便所ですか?」


 的外れな言葉に、クラスメイト達はくすくす笑っていた。

 私のすぐ後ろで、ホィンが「絶対に違うよお」なんて言っている。


 ブラザー・マテオは皆に背を向けて歩き始め、石造りの建物の扉に手をかざす。

 どうやら聖術か何かをかけているようで、自動で開いた。

 石造りの建物から、冷たく強い風がビュービューと吹きすさぶ。

 なぜ、このような風が? なんて考えていたら、ブラザー・マテオが振り返って言った。


「これは霊廟れいびょうだ」 

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