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女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第二章 アインホルン聖国の神学校

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夜を迎えて

 ひとまず、今回のことはブラザー・マテオに相談したほうがいい。

 明日も先ほどのような勢いでクラスメイト達が話しかけてきたら、学業に大きな支障が出るだろう。落ち着いて勉強もできないはずだ。


「それもそうだな」

「お付き合いしましょうか?」

「いいや、いい。一人で行ける」


 ユリウスは改めて私に感謝の言葉を伝えると、しっかりした足取りで職員室のほうへと向かっていった。

 なんだか彼は造り物のようで冷たい印象があったが、話してみるとそんなことはなかった。

 見た目で勝手に判断してはいけないな、と思ったわけである。


 寮に戻ると、賑やかなルームメイトが私のことを笑顔で迎えてくれた。


「おかえり、アルヴィ!」

「ただいま戻りました」


 皆でパウウルの寝台を座り、今日あったことを話す。


「首席の二人、かっこよかったよねえ」


 ホィンの言葉に、皆もこくこく頷く。


「ヨハン・フォン・ドライヤーだっけ? あいつ、なかなか良い奴でさ」


 なんでも新入生代表の挨拶をしたヨハンは、パウウルの隣の席だったらしい。

 

「話しかけたら、快く応じてくれてさ。他の優等生シュトレーバーと違って、ぜんぜん偉ぶっていないんだ」


 フィンの隣も優等生シュトレーバーだったようだが、劣等生フェアザーガーであるフィンを見下すような態度を取っていたという。


「一年間、席替えはないようだから、上手くやっていけるか不安だよ」


 ヘィンは隣が同じ劣等生フェアザーガーだったようだが、優等生シュトレーバーに話しかけるのに夢中で会話の一つもなかったという。


「おかしいよ、あんなふうに優等生シュトレーバーだの、劣等生フェアザーガーだの決めつけるなんてさ」


 そんなことを言いたくなるヘィンの気持ちはよくわかる。

 けれども神学校における優等生シュトレーバー劣等生フェアザーガーの関係は、社会の縮図と言っても過言ではない。

 皆が平等な社会、というのは実現が難しいことなのだ。

 重苦しいような空気になる中、パウウルは十字架飾りローゼン・クランツを摘まみあげて、ぷっと噴きだすように笑う。


「これ、あまりにも造りが優等生シュトレーバーの物と違っていて、笑ってしまったんだよな」


 パウウルは十字架の中は空洞なんじゃないか、なんて言い出す。

 たしかにそう思えるくらい、軽い素材でできているのだ。


優等生シュトレーバー十字架飾りローゼン・クランツは重たそうだから、肩こりしなくていいかもしれないな!」


 パウウルの前向きな言葉に、救われるような気持ちとなった。

 と、劣等生フェアザーガーの酷い扱いの話で盛り上がっている間に、食事の時間が迫りつつあることに気付く。

 フィンは急がないとと皆を急かし、ヘィンはお腹空いたと叫ぶ、ホィンは私にホームルームのあと大丈夫だったか聞いてきた。

 パウウルが何かあったのか? と心配してくれたが、今は食堂に行くのが先だろう。

 遅刻をすれば食事抜きだ。

 私もお腹がペコペコなので、三階から階段を一気に下って、食堂を目指したのだった。


 本日のメニューは、パン粥にマッシュポテト、ニンジンのポタージュ。

 断食が近いからか、だんだん食事がペースト状になってきた。

 食べることができるだけありがたい。

 そんなことを思いつつ平らげた。


 食事のあとは、奉仕の時間である。

 部屋の掃除を終えたあと、寮の地下にある礼拝室で挽課ばんかと呼ばれる夜の祈りを捧げる。

 それが終わったら、お風呂で身を清める時間だ。

 心配していた入浴については完全個室な上に、宿より湯量が多かったので、余裕で洗い終えることができた。皆、時間に追われて他人を気にしている余裕なんてないのだろう。 続いて奉仕の時間となる。私達に振り分けられたのは、食堂での食器洗い。

 他には洗濯に朝食の仕込み手伝い、便所掃除、蔵書整理など、さまざまな作業があるようだ。

 最後に部屋で終課しゅうかと呼ばれる一日の最後の祈りを各部屋で行い、黙想をしたのちに就寝時間となる。

 皆、部屋に戻ったらお喋りしようぜ! なんて言っていたのに、奉仕作業が思いのほかいそがしかったからかくたくただった。

 パウウルは限界だと言って、眠ってしまった。

 三つ子も同様に。

 私もカーテンを閉め、眠りに就く。

 いろいろあった、長い一日だった。


 ◇◇◇


 翌朝――五時に鳴り響く鐘の音でハッと目覚める。

 寝台に座って念祷ねんとうを捧げ、神に感謝したのだった。

 二度目の鐘が鳴る。祈りの時間を知らせるものなのだろうか、まだ眠っている者への牽制のように思えてならない。

 フィンがヘィンとホィンを起こす声が聞こえる。

 長男は大変だな、と思ってしまった。

 他人を気にしている場合ではなかった。

 急いで着替えをし、髪を梳って整えた。

 脱いだ寝間着は部屋の外に置かれているかごの中へ。

シーツと枕カバーの交換は三日に一度なので、今日はこのままでいいようだ。

 ここで隣から物音がまったく聞こえないことに気付く。

 カーテンを少し開いてパウウルに声をかけたが、寝間着姿のまま、ぼんやり寝台に座っていた。


「パウウル、寝坊と遅刻は一ヶ月の便所掃除ですよ!」


 それを聞いた瞬間、パウウルはカッと目を見開く。


「うわあ!! 一ヶ月連続の便所掃除は嫌だ!!」

「だったら急いでくださいね」

「ああ、アルヴィ、ありがとう」


 一階の洗面所で顔を洗い、歯を磨く。

 これらの身だしなみも、一杯の桶の水で終えなければならない。

 量配分に気をつけつつ、身なりを整えたのだった。

食堂で朝食をいただく。時間が決まっていて、下級生が食べたあと、上級生の時間となるのだ。

 上級生が待っているので、急いで食べなければならない。

 メニューは野菜スープと豆のペースト。

 食べた者から登校するようにと言われる。

 パウウルや三つ子達と一緒に登校したかったのだが、落ち合って行くのは難しそうだ。

 そんなわけで、一人で太陽寮をあとにすることとなった。


 教室に行くとブラザー・マテオがいて、黒板に書いてあることをしっかり読むようにと言われる。

 そこには〝劣等生フェアザーガー優等生シュトレーバーに声をかけることを禁じる。話しかけられたときのみ、応じるように〟とあった。

 ユリウスが昨日の騒動をブラザー・マテオに相談した結果だろう。

 劣等生フェアザーガーのクラスメイトは不満そうな様子だった。

 その一方、早々に登校しているユリウス以外の優等生シュトレーバーは、優雅に読書をしていた。

 ユリウスはまだ来ていないようだ。

 もしかしたら欠席するのかもしれない。

 ホィンは時間ギリギリにやってきたからか、ブラザー・マテオの姿にギョッとしていた。

 声をかけられ、さらに怖がるような様子を見せる。

 その用事がただ黒板を読むようにと言われただけだったので、安堵の表情を見せていた。

 黒板の内容を読んだホィンはまっすぐ私のもとにやってくる。


「昨日のこと、問題になっていたんだね」

「そのようだ」


 そういえばこの件について就寝前に話すつもりだったのに、皆くたくたになって眠ってしまったのである。


「すごかったね。騎士様みたいに優等生シュトレーバーのユリウス君を助けてさ! とってもかっこよかったよ!」


 それが本業ですので、とは口が裂けでも言えない。

 

「今日はお休みなのかな……あ!」


 ホームルーム開始の鐘が鳴るのと同時に、ユリウスがやってきた。

 傍にいたホィンと入れ替わるように着席する。

 朝の挨拶くらいはしてもいいのか。

 なんて考えていたら、ユリウスのほうから声をかけてくれた。


「おはよう」

「おはようございます」


 昨日、まっ青だった顔色は、すっかりよくなっているようだった。


「昨日は本当に助かった。いつか借りを返さないといけないな」


 ユリウスに対して借りを作ったつもりはないのだが、律儀な性格なのかとても気にしているようだった。


「いえいえ。困ったときはお互いさまですので」


 そんな言葉を返すと、珍獣を見るような眼差しを向けられた。

 変なことは言っていないはずだが。

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