Pousse
私は呆気にとられ、笑い出す葵さんをただ呆然と見詰めるしか無かった。
「……そ、その後どうなったんですか。皆さん」
まるで子どものような、然し悪役のように高らかに笑う彼女は、何だか不思議な人だった。
笑い過ぎて目の端に薄ら涙を浮かべ、それを拭いながら「すみません」と葵さんは言った。
「Aさんに雷が落ちました。」
「……はい?雷?」
「はい、雷です。」
(んん?雷?どういうことだ?)と脈絡のないことを言われ困惑している私を解っていて、葵さんは話を続けた。
「私、不思議な能力を持っているんです。他人には言えないような。」
「と、言いますと……?」
「私、実は人間で言うところの『人知を超えた能力者』みたいなんです。そういう人のことを『霊能力者』だとか『サイコキネシス』みたいな風にいうことが多いんでしょうけど。」
急にオカルトチックな話になったが、私もそういう話は好きなので俄然聞く。
「で、何故雷は落ちたんです?」
「……そうですね、『私が落とした』と言うより、私に憑いてる『水神・龍神様が私の代わりに落とした』って感じですかね。あまりにもAさんとDさんの行いが宜しくなかったので、私が怒ったことによって、私に憑いている神様がどうやら雷を落としてAさんDさんの家を火事に至らしめたみたいなんです。」
嘲ることはしてはいけないと解っていても、嗤ってしまうしかより他はなかった。
「そ、そんなこと、っ、できちゃうんですか?ヤバいですねっ、」
「いやぁ、AさんDさんが同時刻に全然別に住んでるのに、遠隔で念を飛ばしてしまったことに私も罪悪感は感じたんですけど、もうね、それ以上に可笑しくって。」
ここに他者が居れば、きっとこんなことで笑っている私たちを見て、その人たちは私たちを「サイコパス」だと罵るだろう。
でもきっと、罵られてもいい。だってそれだけのことをした人たちなのだから。
『人を呪わば穴二つ』などと言うが、彼ら彼女らは『無意識の、人を呪わば穴二つ』をしてしまったが故に食らってしまった雷なのかもしれない。
「紅茶、とても美味しかったです。……話も美味しかったからかもですが。」
時刻は真夜中の零時を回った。
私は流石に、と帰路を急ぐ。
「またのお越しをお待ちしております。こんな下世話な話でしたけれど、お付き合いしてくださって嬉しかったです。」
葵さんは来た時の人形のような顔を、少し人の心に触れた人間味をもったような顔に変えてほくそ笑んだ。
いつの間にか雨が降っていた。真夏の通り雨だ。
「ああ、急がなければ、……この雨も龍神様の気まぐれだろうか。」
そんなことを思いながら、夜の闇の薄暗い光の中、私は小さくまた笑った。




