【ホラー】#2/灯油タンク
【灰の世界に転がる赤】
ゾンビが人間の人口を遥かに上回ってしまった世界。
男は、ハンドガンを持ちながら全速力で走っていた。
後ろには、同様にものすごい勢いで走って来る大量のゾンビたち。
裏道に逃げても、建物の屋上へ行っても、ビルからビルへ飛んでもしつこく追いかけてくる。
なんなら飛んだ時にくるりと回転し、見事に着地するスタイリッシュなヤツまでいる。
「俺の知ってるゾンビじゃねぇぞッ! クソがッッ!!」
悪態をつきながら必死に逃げる男。
そして、遂に男は一本道の大通りに出てしまい、単純な走るスピードと体力で勝負しなければならない状態となってしまった。
それでもひたすら走るしかない。生きるために。
すると、一縷の望みが前方に転がっていた。
暗く重い空も、高いビルも、朽ちた車や瓦礫も、全てが灰色の風景の中、差し色のように目立つ赤い灯油タンク。
何故そんな物がここに落ちているかなんて男にはどうでもよかった。
男はわざとらしく灯油タンクの上を跳んで通り過ぎる。
追いかけてきているゾンビたちも男同様に通過しようとした時──突然男が立ち止まって振り返り、ハンドガンの銃口を灯油タンクに狙い定めた。
引き金を引く。
この時の男はゾーンに入っていた。周りがスローモーションに見える。
何もかもが静かで、こんな静寂、男には何十年ぶりだった。
銃弾が外れるなんて、微塵も思わなかった。
撃つ前からその脳裏には、灯油タンクと弾丸が接触し、大爆発が起きて周辺のゾンビが吹き飛ばされる光景が見えていた。
その隙にこの地獄の逃走劇から逃げ切れる。
根拠のない、けれど絶対的な確信があった。
イメージ通り、弾が灯油タンクに命中。
男は爆発に備え体に力を入れる。
──カコォンッ!
虚しい音を立てた灯油タンクは宙を舞い、見事に吹っ飛んでゾンビの群れの中へと消えていった。
「……クソが──」
力が抜けた男の真横から、いつの間にか急接近していたゾンビが歯をむき出して襲いかかってきた。




