24 飽きた&愛の作戦
PCに向き合った僕は、大正メイドAIに確認を取る。
「核攻撃を防ぐために必要な条件……因果の計算は済んでるね?」
「はい! 済んでいます! いま各時空の条件を箇条書きにしますね!」
大正メイドAIがさっと条件を箇条書きで表示してくれる。
僕はそれを見て、必死に因果を組み立ててシナリオを考えていくが、しかしそう簡単に核攻撃を防ぐシナリオが思いつかない。
バンカーバスターは日本の在日米軍基地には装備がないはずだ。僕はそう読んでいた。
そうなれば、グアムの米軍基地辺りから直接爆撃機が発進するはずだ。
もう時間的猶予はあまりないかもしれない。
「けど、爆撃機を投入する前に、制空権が確保できていないと駄目だよね……だったら最低でもその1時間前には在日米軍基地から制空権を確保するために出撃があるはずだ……」
だがもう時間がない。戦争を――核攻撃を防ぐためにはどうすればいい!?
「キングから通信です!」
大正メイドAIが知らせてくれ、焦った様子のキングが話し始める。
「W1できるだけ急いでくれ……様々な因果がサークルソフトウェアという場所を起点に暴走しつつある。具体的には、各時空にあるサークルソフトウェアに量子情報が集まり過ぎていることで問題を来しているようだ」
キングは焦った様子でそう説明する。
「問題って、具体的には!?」
「W1、君らの時空では米軍が新宿本社を襲撃して量子コンピュータを抑えているというが、他の全てのサークルソフトウェアのある時空でそうとは限らない。サークルソフトウェアが全時空を支配するような動きを見せている時空もあると聞く」
それは……大変に不味い。
サークルソフトウェアは量子情報の分配だけでなく、分配手数料として上前を跳ねるようなこともやっていたはずだ。つまり、全時空的にサークルソフトウェアという存在に量子情報が集まりすぎているのだ。
調子に乗って全時空支配に乗り出そうとするような時空があってもおかしくはない。
「北米は既に米軍に抑えられていると思うが、もしかしたら、日本以外の欧州とオセアニアのサークルソフトウェアのデータセンターにも核攻撃が行われる可能性が出てきた……」
「そんなまさか……!? なんとかならないの!?」
「無理だ……全時空的に因果が暴走しすぎている……」
キングが諦めるようなことを言うなんて珍しい。だがそれだけ状況が切羽詰まっているということだろう。
「たった今、ある時空でサークルソフトウェアの欧州データセンターのあるフィンランド首都ヘルシンキに核が降ったという報せを受けた……W1急げ! 各時空の因果が明確な結果を伴う暴走を開始した!」
「え? ヘルシンキに核が……!?」
それが別の時空とはいえ、由々しき事態だ。
僕らの時空でもいつそうなるかわからない。
「詳細は分かっていないが……全時空支配を目論むサークルソフトウェアがある時空の、人間Bへの干渉の結果のようだ……待て、これはまだ良い! 人間Bの絶対命令権限による事象のようだ。人間Bと唯一神様は間違いを犯さないはずだ……彼らを信じよう!」
キングが僕を励ますように言う。
だが僕には、暴走しすぎているこのサークルソフトウェアを起点とした因果を制御するようなプロットなんて書けそうにない……。
「春夜先生……なんとか頑張ってください!」
唯川さんがいつの間にか背後に来ていて、僕を応援してくれる。
僕は思考を巡らせた。
そして考えた結果……僕は考えるのを辞めた。
別に諦めたというわけではない。
こうなれば、僕らはもっと根源的な部分に立ち返るべきなのだ。
すなわちサークルソフトウェアが攻撃されることになった要因……それはVRMMORPGにおける代理戦争にある。
ならばこれを終わらせさえすれば、各時空における因果の暴走を防げるのではないか?
僕はすぐに調整を開始した。プロットを弄る。
具体的には、人間Bを説得する!
彼が絶対命令権限によって始めた代理戦争なのだ。
彼がやめると言えば、そう絶対命令権限で命じれば、代理戦争は止まる気がした。
そして代理戦争が終われば、核攻撃だってその必要性が大きく失われる!
「皆さん! 聞いて下さい! 各時空の主要キャラクターのシナリオ変更をお願いします。具体的には、人間Bに対して、『もうこのゲームには飽きた』ということを伝えるようにしてください! よろしくお願いします!
僕はフロアに集まっていたシナリオライター達にそうW1として頼む。
そうして自身の担当するシナリオでも、ゲームにVRMMORPGの対人戦に飽きたということを人間Bに伝えるように書き始めた。
人間Bは唯一神ペアだ。それはそうだ。
だがしかし、同時に人間でもある。
ならば、複数の味方からのこの説得には応じてくれるはずだ……!
僕はそうして書いて書いて書きまくった。
ある者は単純に飽きたと言い、ある者は秋田県と捩り、ある者は対人戦もうやりたくないーと率直な心情を吐露させる。
そう、僕らはもうVRMMORPGの対人戦には飽き飽きしているんだ……人間B!
だがしかし、それだけでは駄目だった。
キングが報告してくる。
「W1。かなり人間Bへの説得は成功しているようだが、それだけでは駄目だ! どうやら彼はサークルソフトウェアの暴走によって世界支配が行われ、その結果として人間Aや唯一神様を失うという可能性を心配しているらしい」
「そんな……今になって唯一神様の化身が人間Aであることに気付いてると……?」
「あぁ、そのようだ……いや、我々が知ったのが今というだけで、人間Bはもう少し前に気付いていたらしい……だがこれでは……彼の妄想にとって、各国によるサークルソフトウェアへの核攻撃だけが解決策になり得てしまう……!」
キングが引き続き焦っている。
だがそんなことをさせるわけには行かない。
僕は因果を精査する。
そして唯一神様か人間Aと直接、人間Bが話を出来れば、特に唯一神様から人間Bに大丈夫だよと言ってもらえれば、人間Bの妄想を制御できる可能性を思いついた。
だが敵によって、いま人間Aや唯一神様と人間Bの量子脳の直接通信はかなり邪魔されている。禄に喋れないかもしれない。それでもやってみる価値はある!
これには全時空の味方の協力が要る。だがプロットやサブシナリオを書いている余裕はない!
「キング、緊急プロットを採択する!」
「いいだろう、内容を言え! 私が緊急プロットに基づき、直接全時空を指揮する!」
キングが僕にそう宣言し、僕は緊急プロットを語り始めた。
「まず敵によって人間Bへ行われている通信妨害……特に唯一神様との通信妨害を遮断するように各時空で動いてくれ! その上で直接僕らから唯一神様にお願いをするんだ! 人間Bと直接話して、大丈夫だからと説得してくれと! その上で僕らは僕らで人間Aと唯一神様の保護を全時空で実行するんだ! これは愛の作戦だ!」
「了解した……! その緊急プロット……全時空で採択するぞ!」
キングが言い放ち、僕は現実でもシナリオライター達に同様の指示を飛ばす。
僕達は再度、書いて書いて書きまくった。
30分ほどかけてそんなシナリオを書き連ねた結果は確かにやってきた。
キングが大正メイドAIを通した通信で報告してくれる。
「いままさに、人間BがVRMMORPGの対人戦による代理戦争を終わらせる絶対命令を出したぞW1!」
キングは興奮でか、さすがに彼でも嬉しさを隠しきれていない声だ。
「本当かい!?」
「あぁ……私の元へも彼は確認に来た。言ってやったよ。もう対人戦の指揮官はこりごりだし、唯一神様と人間Aは大丈夫だとな!」
キングが珍しく本当の心情を述べているように聞こえる。
キングも正直に言って飽きていたのだろう。そりゃあ勝率9割でほぼライバルなしとなれば、そうもなろうものだ。僕はキングに尊敬の念を向けると共に、「お疲れ様でした!」とねぎらった。それが合図だった。
「春夜先生! 米軍による新宿サークルソフトウェアの占領、解除され始めたみたいです! それに合わせ、米国が声明を発表したようです! いまテレビで米大統領が会見してます!」
唯川さんが教えてくれ、僕らはテレビに集まった。
「あと少しのところで、日本政府の努力の結果、核戦争は回避された! 新宿のサークルソフトウェアの占領も順次解除されるだろう! 我々は平和を手に入れたのだ! 関係各位の尽力に感謝する!」
米大統領が演説で問題の解決を表明している。関係各位とはきっと僕らや全時空における実在人物を指すのだろう。
そうして……僕らは平和を手に入れた。
この結果は僕らにとっての必然と人間Bの愛が、飽きたという事実と人間Aと唯一神様の安全だけが齎したのだ。




