23 逮捕
「春夜先生……残念ですが、早く戻ってシナリオを書いていただかないと……」
「はい……分かってます! 行きましょう唯川さん」
唯川さんに言われ、僕は宗谷雅彦の遺体を残して立ち上がる。
そして僕はメインデッキの割れたガラスの方向に大きく手を振り一礼した。
どこから狙撃されたのかはっきりとはしなかったが、きっとあの西側にある大きなビルのどこかからだろう。
火那とS1のこの数カ月間の共同生活を思うと、なんだかちょっと微笑ましくなる。
S1の彼にはかつて妹がいた。設定的にその妹を助けることは今のところできていないが、しかしこの数ヶ月の間、彼は新たな妹ができたかのように感じていたのではないだろうか。
そう思うと火那とS1という新たな相棒同士の関係性に、よく書けているじゃないか人間Bと言いたくなる気持ちだった。
そんなことを考えながら、僕は東京タワーメインデッキから降りていった。
東京タワーから計画用ビルの入口に戻ると、僕と唯川さんは数十人によって包囲された。
そうして顔を見せたのは、時空警察の難波警部だ。
「よくもまぁこんなシナリオを書いて、平気な顔をしていられるな! 野々下春夜!」
「難波警部……」
「どういうことですか難波警部……!?」
唯川さんが難波警部に食ってかかる。
「どうもこうも、あんたらを第一級時空犯罪の容疑者として逮捕させてもらう! おい……!」
難波警部がそう言うと、僕の前には資料が提示された。
「計画用プロットバージョン2.0……!?」
僕が言うと、唯川さんも資料を覗き込む。
しかし資料では僕らにとって都合の悪い部分のみが抜粋されている。米国主導の核攻撃であることや、僕らは悪くないという主張を行えるような部分が巧妙に抜かれていた。
「やはり覚えがあるか……米時空警察本部からの要請に間違いはないようだな!」
「時空警察本部がこれを……?」
唯川さんが確認する。
「あぁ、唯川さん、あんたのとこの宗谷内閣情報官がこれをリークしたと聞いている。さっき西側から銃声が聞こえたように思うが、あんたらまさか……!?」
難波クリス警部が僕らに睨みを効かせる。
「それは誤解です! 宗谷内閣情報官こそが時空犯罪者の裏切り者です!」
僕が主張するが、どうやら信じてもらえていないようだ。
待てよ……大正メイドAIはもしかしたら宗谷さんとの会話を録音しているのではないだろうか? 僕がキングならそうする。そうしなければ、唯川さんが一方的に悪者になってしまうからだ。僕はスマホを開くと、大正メイドAIに命じた。
「さっきのやり取りの録音があったら再生してくれるかい?」
「はい! あります! かしこまりました!」
そうして宗谷さんの声が再生される。
難波クリス警部は信じられないといった様子でそれを聞いていた。
聞き終わった警部は、僕らの眼を順々にまっすぐ見据える。
少しは信じてもらえただろうか。
「これが作り物の可能性もある! なにせAIが出してきた証拠だ! 信じられると思うか?」
「よく調べていただければ……それから総理に確認を取ってください。僕には総理から与えられた重要な任務がある!」
「そうは言うがね! この国の一大事にそうそう総理大臣なんて捕まるものか! お前は我々に無理を言っている! そうやって煙に巻くつもりじゃないだろうな!?」
難波警部がそう言って、僕らを解放したくなさそうにしていると、そこへ騒動を聞きつけたのか名塚薫さんがビルのエレベーターから降りてきた。
「名塚先輩!」
唯川さんが名塚さんの名を頼るように呼ぶ。
「どうやら面倒事に巻き込まれているようね……難波警部。彼には総理大臣から与えられた密命があります。いますぐに解放していただきたい。なんでしたら内閣官房の方へご確認頂いてもよろしいですよ? 私が仲介致します」
「できるものならやっていただきたいものですなぁ!」
難波警部がそう言い、名塚さんが自身のスマホを手に取った。
「はい……名塚です。はい……春夜先生が時空警察に捕まっていまして、時空警察の警部の説得をしていただきたく……ちょうど総理がいらっしゃる? それならば話が早いです。ビデオ通話でもよろしいですか?」
名塚さんがそう言うと、ビデオ通話が開始された。
どうやら総理が直接映っているらしい。
スマホが難波警部に渡される。
「これは……総理……!」
難波警部は驚いた様子でビデオ通話を開始する。
「難波警部と言ったかな? 我々のW1を野々下春夜さん達をいますぐに解放してもらいたい。彼は国の安全に関わる重大な密命を帯びています。時空警察本部からの言い分もあるでしょうが、何卒いまはご自重していただきたく……」
総理が難波警部を説得すると、難波警部は「これは……AIではありませんな?」と確認をすると、総理が笑い、名塚さんが「ご心配でしたら内閣官房を直接訪れては……?」と促した。
「一時的な処置です! しかしやはり時空犯罪者である可能性が拭えません! 私らが直接付いていてもいいというならば譲歩しましょう!」
難波警部は自分にできる最大の譲歩を行ったようだ。
「構いませんよ……名塚くん、ではそのように頼みます」
「はい総理。お任せください」
総理とのビデオ通話はそうして終わった。
「では、ご案内します。どうぞ」
名塚さんが先導し、難波警部ら時空警察官3人を伴い、僕らは計画用フロアへと向かうエレベーターに乗り込んだ。
「先輩……助かりました……」
唯川さんがお礼を述べると、名塚さんは「いえ、AIを通じてキングから事情連絡を受けただけよ」と教えてくれた。
「キングから連絡を?」
僕が聞く。キングには本当に世話になりっぱなしだ。
「えぇ……宗谷さんのことと、彼らがビルの入口で困っているようだ、と。それにしてもセーレ、貴方、相変わらず詰めが甘いわね」
「それは……内閣情報官付きの先輩にだけは言われたくないです!」
「なに言ってるの。私が注意したから宗谷内閣情報官はあなた達にAIを渡さざるをえなくなったんでしょう? 私のおかげよ?」
名塚さんがそう言ってぽんぽんと自身の胸を軽く二度叩く。
「二人はもしかして内調に入る前からお知り合いで?」
僕が聞くと、唯川さんが首肯する。
「はい! 法学部の先輩なんです! 同じサークルで学生時代はお世話になりました」
唯川さんがそう答え、「まぁそんなところです。着きました」と名塚さんが先導して計画用フロアに入っていく。
「春夜先生! 心配しましたよ! さぁ指示をください!」
自分のデスクに向かう途中、佐藤レオンさんに声を掛けられる。
佐藤さんのキャラであるS1には火那共々本当にお世話になっている。
一度でも裏切り者として佐藤さんを疑ってしまった自分を恥じる思いだ。
「はい! お待たせしました!」
挨拶をしながら自分のデスクへと辿り着くと、PCに向き合う。




