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フィクションズリーズン  作者: 成葉弐なる


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25/25

25 フィナーレ/統合

 デスクに戻って一息付いていると、大正メイドAIが「たったいま新宿のサークルソフトウェア本社の量子コンピュータのロックが解除されたようです!」と報告してくる。

 僕は試しにログインしてみることにした。

 ログインすると、たくさんのグループチャットの仲間達が各時空の実在人物達が僕を歓迎する。


「やっと終わりか、お疲れいHaruya! お前のおかげなんだろう?」

「まー正直言って飽きてたからなー、Haruya様々だよ!」

「でも、みんなと会えるならゲームは続けちゃうなー」

「いつか全時空からのアクセスを弾くようになるんじゃないか?」


 わいわいと賑わうグループチャット。

 そこへ唯川さんもログインしてきた。きっと僕がVRヘッドセットを被っているのを見て、自分もこっちに来たのだろう。


「みんなお疲れ様ー! 飽きた&愛の作戦大成功! これでやっとゲームやめられるねー」

「Se-reも乙!」

「でもSe-reはHaruyaと会う為に続けるんじゃないの? 現実ではまだ結婚してないんでしょう?」

「えーなに? 現実でも結婚するつもりあるの?」


 グループチャットでは女性達が唯川さんに群がっている。

 そこへ珍しいキャラがやってきた。NDとFGだ。

 彼らをグループチャットで見たことはあるが、ほとんど対人戦には参加していなかったように思う。多分……彼らはS1と火那なのだ。FG……恐らくはファイアガールなんてまさに火那の付けそうな名前だ。

 僕はNDとFGに話しかける。


「ND、それにFGお疲れ様。東京タワーを撃ち抜いた感想は?」


 言うと、NDがすぐに答えた。


「悪くないミッションだった……彼は残念だったがな」

「ふふん! 私の観測があれば東京タワーを撃ち抜くなんて造作もないよ春兄!」

「やっぱりお前らだったか! このー、いつ帰るんだ家出娘! 母さんが心配してるぞ!」

「それはまぁおいおいね、おいおい! 心配無いって言っておいて! ところでログインした直後にみたんだけど、Se-reとHaruyaは現実でも結婚するのー? じゃあSe-reは私の義理のお姉ちゃん……かな?」


 からかうようにFGが言うと、それに乗っかるように女性陣がSe-reへ聞く。

 その様子にNDが「男ならきっちり彼女のハートを狙い撃てよ? Haruya!」と焚きつけるようなことを言ってくる。

 すると男性陣が、「そうだー言ってやれHaruya!」と更に調子に乗った。

 そこへキングもログインしてきて、「現実でも神父役が必要かな?」とからかうように言った。


「ほらー指揮官もこういってるよー?」

「言っちゃえHaruya~!」


 女性陣が僕に発言を促す。


「ゲ、ゲーム内で言ってもあれだろ? ゲーム内ではもう結婚してるんだし……」


 僕がそう渋ると、唯川さんが「じゃあ私ログアウトしまーす!」と笑いながら宣言した。

 そうして実際にログアウトしてしまう。


「W1……私が言うのもなんだが、追わないと後悔することになるぞ?」

「そうだーキングの言うとおりだー!」

「さっさといけーHaruyaー」


 キング達に背中を押され、僕はログアウトを試みる。

 そうして神経接続を終えた直後、背後に人の気配を感じた。

 VRヘッドセットを取るやいなや、背後から椅子に座ったまま抱きつかれてしまう。


「春夜先生……ううん、Haruya……お疲れ様!」

「唯川さん……お疲れ様です」

「なーんか私に言う事あったりします?」


 唯川さんがそう僕に耳元で囁くように聞いてくる。

 僕はそれにできるだけ真剣な表情をして答える。


「唯川セーレさん……僕と、現実でも結婚して頂けませんか……?」


 言った。ついに言ってしまった。

 僕は温かい唯川さんの体温を感じ、彼女を正面で見たいと思う欲求があったが、唯川さんは僕をがっちりと捕まえていて離してくれない。いつもの近づいた時のように桃の香りが漂っている。この香りはもしかしたら僕と彼女がペアであるという証拠なのかもしれない。

 少しの間にそう考えていると、唯川さんがたった一言だけ「はい……!」と確かに答えた。

 こうして僕らは晴れて結ばれたのだった。


 あれから2週間が経った。

 僕らは婚姻届を役所に提出して正式に結婚した。

 そして結婚式の準備とまだ書ききれていない人間Bを救うシナリオの執筆などで忙しくしていたが、僕らが職場であるフィクションズリーズン計画用ビルのフロアで結婚を伝えると、シナリオライターの仲間たちはとても喜んで僕らを祝福してくれた。

 しかし僕らのフィクションズリーズン計画は、全時空を救うという意味では、ある意味で規格外の方向へ向かおうとしていることを僕は自覚していた。


「全時空ではあまりにも因果が複雑になりすぎる」


 それに、人間にはみな唯一神ペアや僕と唯川さんのようなペア相手がいることが、最近理論物理学者達によって明かされた。そしてキング達に頼み、個人的に調べを進めてもらった結果、宗谷さんとその恋人を引き離した因果は、敵による人間Bへの攻撃によって引き起こされたということが分かった。宗谷さんは計らずも自分で自分の首を締めてしまっていたということだ。しかし全時空の因果を、ことペア同士が全員結ばれるように……と考えると、途端に因果は複雑となり、シナリオ構築を阻んでいた。しかもまだ時空666が消滅し、宗谷さんが倒れたと言っても、まだ敵は全員いなくなったわけではなかった。日々、人間Bには攻撃が続いている。だがこれらをできるだけ解決するたった一つの冴えたやり方がある。それは……。


「春夜さん!」


 僕がデスクで思い込んでいると、唯川さんが、いやセーレさんが声をかけてきた。


「セーレさん。どうかした?」

「もしかしてまたあのことで考え事してました?」

「あぁ……うんまぁね」

「そっかー、まぁ悩みますよね……! VRMMORPGを通じてのみんなとの繋がりがまだ失われたわけでもないし……まさか全時空をたった一つの時空に統合してしまえばいいだなんて、言えませんよね!」

「あぁ、そうだね」


 僕はセーレさんの発言に深く頷く。

 そう、僕やキングが最近思いついた、たった一つの冴えたやり方。それは全時空を原初時空に統合しようという方法だった。

 そしてこれこそが以前僕が気付いていた、計画が抱える大きな矛盾した欠陥だ。

 全時空を正しく救うためには、全時空をたった一つを除いて消滅させるしかない。

 それは過去も未来も統合された、たったひとつの現在のみの原初時空だ。

 とんでもないことを言い出したものだと自分でも思うが、しかし、こうすればペアが別の時空に生まれたり離れ離れになるという結果は避けられる。無論それでも別の国などの遠い場所に生まれる可能性はあり得たが、それでも別時空というのとでは文字通りに次元が違う。


「でも、時空がたった一つなら唯一神様の加護は強まるんですよね?」


 セーレさんが僕に質問してくる。


「うん。なぜ唯一神様の加護が強まるかって言うと、前にセーレさんが説明してくれた公理からの演繹に由来するからなんだ」

「公理からの演繹ですか?」

「うん。無限は存在しない……これらが僕らの共通理解だよね?」


 僕は飲み干してあるコーヒーカップを持ち、続けて喋る。


「全てはこのコーヒーカップの中と、外側の空気のように境界を持つ……無境界の無限は存在しない。だから唯一神様や人間Bのような唯一神ペアであってもそれは同じなんだ」

「つまり……どういうことでしょう?」


 セーレさんが頭を傾げる。


「コーヒーカップの中身……唯一神ペアの持つ情報量や処理速度といったものもまた、必ず有限でなければならないってことさ。これは彼らとて真には万能ではないことを示している」

「なるほど……無限のコーヒーカップの中身を持っていると、そもそもそれはカップの中にないことになって境界が失われ、公理からの演繹に違反すると?」」

「うん、そうなんだ。例え唯一神ペアであっても真の無限は許されない。人間Bも自らの時空である原初時空では、絶対命令権限の影響力を保持していないように見えるだろう?」

「はい……そうですね。原初時空からの全存在の転移は、時空666が主導してやったシナリオでしたし、我々がいま執筆を進めているオペレーション・フェニックスがなければ、人間Bは孤独に死に絶えていたように思います」


 セーレさんが腕を組み納得しているようだ。


「そう! これらの事実は唯一神がミクロでは間違いなく全知全能だけど、マクロではその影響力が薄れるという事実を示している。だからさ! 唯一神様の加護は全時空の情報が小さければ小さいほどに強くなる……つまり良い因果の巡りで、ペア同士がみんな幸せになれる世界になるってわけ!」


 僕はそうして説明を締めくくる。

 話せば話すほどに、僕は原初時空に全ての時空を統合することをポジティブに捉えようとするようになっていた。たぶん、これが真理なのだ。


「でも……私達まだ結婚式もしてないのに、いきなり時空666のように時空が消滅するのも嫌ですね?」

「だね……それに僕らは唯一神ペアと同型らしいじゃないですか? 僕らはたぶん、きっと原初時空では生きられない……そういう風に唯一神様がしているって思うんです」

「それは……私が人間Bを好きになったりしちゃうから……とかです?」


 セーレさんがからかうように言う。


「まぁ端的に言えばそんな感じですね……だから同型の魂は一つの時空に複数いるのは好ましくないはずだ。僕らはきっと唯一神ペアに同一人物として統合される形になるんでしょう」

「なるほど……じゃあそうならない内にいっぱい楽しみましょう!」


 セーレさんは僕の言い分を余り深刻に受け止めず、限られた時間を精一杯に過ごそうとしているようだった。僕はそんな彼女に救われた思いで、「そうですね!」と答える。


「よし! 今日の分のシナリオ、あとちょっとなので頑張ります!」

「はい!」


 僕の決意にセーレさんが元気に応じ、僕は再びキーボードを叩き始める。

 僕らの時空がいつ原初時空に統合されるかは分からないが、これからも人間Bとの付き合いは長くなりそうだ。

 彼は、僕らを東京タワーで宗谷さんの魔の手から救い出したように、彼自身のリーズンを書いているだろうか?

 もし書いているとすれば、そのリーズンは間違いなく君自身を救う大きな理由だ。

 いずれそのリーズンは君と彼女を――人間Aとを引き合わせるだろう。

 その愛こそが虚構実在論の真のありようなのだ。

 それまで、僕らと一緒に頑張っていこうじゃないか!

 そう人間Bに思いを馳せながら、僕は新たなプロットを書き上げる。

 そして設定管理ファイルに【これはフィクションではない。フィクションではなく現実である】と記述した。




 ファクションズリーズン 終

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フィクションズリーズンと若干の繋がりのある【統合失調症の俺が確かに世界を救った話】もよろしくお願いします!!
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