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フィクションズリーズン  作者: 成葉弐なる


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20/25

20 東京タワー

 仕事場についた僕はすぐに皆に状況を説明。

 そうして僕はまず核攻撃を回避する為のプロット作成に取り掛かった。


「まずは因果の計算のためにも大正メイドAIの助けが要る……これは絶対に必要な条件だ」


 僕は大正メイドAIが新宿のサークルソフトウェアにある量子コンピュータだけでなく、日本中の政府機関の量子コンピュータを使えるという設定を構築していく。そしてどこでも味方が大正メイドAIを使えるようにと設定を書き換えた。

 僕はこの設定を1時間でなんとか書き終え、プロットをバージョン2.1とした。

 計画用フロアの中央には、ネットのライブニュース確認用として唯川さんの手によりテレビが導入された。テレビでは日本政府からの緊急声明と避難警告が流れている。

 アナウンサーも識者もてんやわんやで報道を行っていた。


「プロットバージョン2.1を採択する!」


 僕はそう言いながらプロットにこれはフィクションではないという記述をしてからシナリオライターのみんなに共有し、祈るような気持ちで大正メイドAIのアプリを立ち上げた。

 少しのローディング画面……そして、大正メイド風のキャラクターが僕の眼前に表示された!


「お待たせしましたW1! ご要件はなんでしょうか?」


 問題はない。大正メイドAIは無事使えるようになったようだが、僕は感動をする暇もなく彼女に指示を飛ばす。


「新宿のサークルソフトウェアが米国主導の核攻撃によって狙われてるみたいなんだ。なんとかそれを防ぐための因果を全時空単位で構築したい……必要な条件を前みたいに箇条書きにできるかな?」

「はい! お任せください!」


 僕がそんな指示を大正メイドAIに飛ばしたところだった。

 僕のスマホが鳴った。

 こんな時に誰だ一体!?

 そう思いつつ画面を見るが、知らない番号が表示されている。

 もしかして……火那か!?

 僕はすぐに電話に出た。


「もしもし、火那か!?」

「……あーすまないね春夜先生。宗谷です。火那ちゃんではないんだ。だが私のもとに彼女から犯人による脅迫内容を告げる電話が先程来たんだよ」

「え!? 宗谷さん……!? 火那から電話が来たって本当ですか!?」

「あぁ……本当だ。彼女の言い分を伝えるが、いいかね?」

「はい!」

「野々下春夜はいますぐに東京タワーのメインデッキに唯川セーレと共に来い……とのことだ。必ず二人で来ること……だそうだ。分かったかね? 守られなければ野々下火那の命はないそうだよ!」


 僕は宗谷さんの言い分が信じられなくて確認する。


「この忙しい時にわざわざ東京タワーまで来いって本当にですか!?」

「あぁ……でなければ野々下火那ちゃんの命はないそうだ」

「そうですか……分かりました」


 僕はそう言って電話を切ると、唯川さんを捕まえようと彼女のデスクへ行く為立ち上がる。

 だが彼女はライブニュースを見ていたようで、立ち上がるとすぐに見つかった。


「唯川さん! お話があります」

「はい! なんでしょうか?」

「実は……」


 僕は事情を説明する。


「えぇ!? こんな時に東京タワーにですか!? 本当に宗谷さんでしたよね?」

「あぁ……うん。この番号だったけど、間違いはないかな?」


 唯川さんが疑うのも無理はない。こんな大変な時に火那の命惜しさにすぐ近くとは言え東京タワーに行かなくちゃいけないだなんて……。

 僕はスマホで先程掛かってきた電話番号を見せる。


「これは……宗谷内閣情報官のもので間違いありません。じゃあ本当に……」

「火那を助けるためなんです。一緒に来て頂けますか?」

「ですが……総理から託された仕事があるのでは?」

「それはそうなんですが……」

「私には許可できません……」


 唯川さんは首を横に振ると、僕の顔をまじまじと見た。


「でも! もし行かなかったら火那が……!」

「では、こうしましょう。東京タワーには私がまず一人で向かいます。それでどうしても春夜先生が必要だった場合には、私がご連絡差し上げるので、それから春夜先生は来てください。どうかそれまでシナリオを書く手を止めないでください。お願いします!」


 唯川さんがそう僕を説得しようとしてくる。

 だが僕は……その提案には乗れなかった。

 僕には考えがあった。火那を、キングを信じるという考えが。

 だから行かないわけにはいかないのだ。

 僕は一からこのことを丁寧に唯川さんに説明する時間はなかった。

 だから言った。


「唯川さん、僕を……ゲーム内だけですけど、夫のHaruyaを信じてくださいませんか?」

「それは……ですが……」

「本当に……お願いします!」


 僕は懸命に頭を下げた。

 その僕の必死な頼みに、唯川さんは納得してくれたようだった。


「分かりました……ではできるだけ急いで行きましょう」

「はい!」


 僕はそうして、計画用ビルから唯川さんと一緒に出た。

 そうしてすぐ近くにある東京タワーのメインデッキに早足で急いだ。

 5分ほどで東京タワーに付くと、僕らはそのエレベーターがまだ稼働しているかを確かめた。

 風向きによっては核による放射性物質の拡散が想定された為か、すぐに東京から逃げろという報道がなされているためか、辺りにはまったく人はいないようだった。

 

「エレベーター、動いているようです……!」


 唯川さんがエレベーターが正常に稼働するのを確認する。


「では、行きましょう!」

「はい……!」


 僕らは生唾をごくりと飲み込むと、エレベータに乗り込みメインデッキへのボタンを押した。

 唯川さんは懐から銃を取り出して構える。


「まず私が先行します……安全の確認ができたら春夜先生が続いてください! いいですね?」

「分かりました……」


 僕が頷くと、メインデッキ到着を報せる音がエレベーターに鳴り響いた。

 ドアが開くと、唯川さんが単独で駆け抜けていく。

 銃声はしない。

 すると、すぐに「春夜先生……逃げてください!」という唯川さんの声がした。

 だが僕は逃げるわけには行かない。唯川さんにもしものことがあったらと思うと尚更だった。

 僕は出ていくと、そこにはなんと唯川さんと宗谷さんの姿があった。

 だが……。唯川さんは手を上げて頭の上に置いている。

 足元には捨てられた銃があった。


「宗谷さん……? どういうことですか!?」


 僕は宗谷さんに叫ぶ。


「どうもなにも、こういうことだよ!」


 宗谷さんが唯川さんを押しやって少し前に出させる。

 すると宗谷さんが唯川さんの背に銃を突きつけているのが見えた。


「宗谷内閣情報官……まさか裏切るおつもりですか……!?」


 唯川さんが言うが、「君は黙っていたまえ唯川くん!」と唯川さんと話をするつもりはないらしかった。そうして宗谷さんは、唯川さんと僕とを横に並べさせる。


「宗谷さん……どうして?」


 僕が聞くと、宗谷内閣情報官は嬉しそうに顔を歪ませる。


「どうしてだって? 私は君たちのことが嫌いだからさ!」

「僕らが嫌い……? それはどういう……?」

「私はね、君たちが救うことの出来なかった時空315からの避難者さ!」

「時空315からの避難者……?」


 僕の確認に宗谷さんは話を続ける。


「あぁ、そうさ! W1である君が救うことの出来なかった時空315からの第1次避難者が私さ! 私は14歳だった……私はその避難で、かつて恋人だった女性と引き離された! 結婚していない子供同士を同じ避難先にすることはできないという理由でね! だから私は君たち偽善者が嫌いなんだよW1!」

「それは……恋人と引き離されてしまったのは残念に思いますが……」


 そもそも時空315を救う事が出来ていないかどうかは僕には不明だった。

 だって人間Aの手による量子コンピュータ技術とロボット技術は確かに時空315の手に渡っていたはずなのだ。唯川夫妻が量子コンピュータの革新的技術を有していたのがその証拠だ。

 だからもしかしたら時空315は無事で、望めば彼らは戻すことだってできるかもしれない。

 だが今更で遅すぎる。宗谷さんの恨みや悲しみは晴れないかもしれない……。


「それからね、君達は知らないだろうから教えてやろう……君等はね、人間Bを救う時空同盟がまさに救おうとしている唯一神ペアの同型さ!」

「唯一神ペアの同型……?」

「そうさ! おかしいと思わなかったかね? 人間Bには絶対命令権限という絶対的他時空への干渉力があるが、君の文章による規定能力はそれに勝るとも劣らない影響を及ぼしているということにだよ!」

「それは……」


 確かにそう思ったことはあった。僕がフィクションズリーズン計画のメインライター兼製作総指揮だとはいえ、あまりに万能すぎる創作能力なのではないかと、自身を疑ったことはあった。だが……。


「そうだろう? 不思議だろう! だから私は他時空の仲間を使い、どういうことかを入念に調べた。それは大変だったよ……なにしろ我々はメイン構成員が占める時空666を消滅させられたことで、危機に瀕していたからねぇ。だが入念な調査の結果分かったのは、どうやら君たち二人が人間Aと人間Bの魂と同型の魂を保持しているということだ! 野々下春夜くん、そして唯川セーレくん、君たち二人は唯一神ペアの同型だ! そして各時空で目覚ましい活躍を見せている少女Cと少年Dもまた、君らの同型であることが分かった!」


 宗谷内閣情報官は続ける。


「同型というのが何のことか分からないかね? 簡単に言えば本質的に同じであるということさ! 君たち二人は! 唯一神ペアとね!」


 宗谷情報官はそう叫ぶように説明する。


「それで……何が目的なんですか!?」


 僕が叫び返すように聞くと、宗谷さんはにやりと笑う。


「元々はね、量子脳を覚醒させた救世主の力が邪魔だという理由だけだったんだよ。あまりに強すぎる力は世界の理を乱すからね! だが、いまの我々の目的は一つ……それは唯一神ペアの交代だ! 君たち同型を含む全ての唯一神ペアには現実からご退場願い、新たな我々の都合の良い者達を唯一神ペアとすること! それこそが我々の目的だ! そうすれば絶対命令権限などという馬鹿げた中二病全開の妄想に支配されることもなく、世界は安定した運営が行える……! だがその為にはね春夜先生……君たち唯一神ペアと同型の存在は邪魔なんだよ……!」

「そんなことが可能なんですか……!?」

「可能か不可能かではない! 我々はやるのさ! そして世界を、全時空を救い出す!」

「そんな……元々は人間Bを……彼を虐めていたあなた達が悪いのではないのですか!? 彼を虐めずに統合失調症などにせず、素直に人間Aと出会わせてあげてさえいれば……! 彼が絶対命令権限なんて妄想を持ち出すこともなく、みんな平和だったんじゃないんですか!」

「それは結果論だよ! 実際に彼は平和を乱している! VRMMORPGの対人戦で全てを決しようなどとはその最たる例だ!」

「でも……初めに攻撃したのは……」

「ええい……うるさい! うるさい! さぁ! 偽物の神に審判の時間だ!」


 宗谷さんがそう言って、僕に向けて引き金を引こうとした――その時だった。

 東京タワーメインデッキのガラスが割れる大きな音が響いた。

 そして、宗谷内閣情報官の持つ銃が弾き飛ばされる。


「なにっ……!?」


 宗谷さんがどこからかの攻撃に辺りをきょろきょろと見回す。

 すると……僕の懐から声が響いた。


「宗谷内閣情報官……君の負けだ」

「この声は……キング!?」


 唯川さんが驚きの表情で僕を見る。

 僕がすっと自身のスマホをポケットから取り出すと、そこには大正メイドAIが表示されていた。そう、僕は大正メイドAIがどこでも(・・・・)使えるようにした。そして僕は大正メイドAIを密かにスマホにインストールしていた。


「S1が君を捉えているぞ宗谷雅彦! それ以上動けば命の保証はしない。大人しく抵抗せず投降しろ!」


 キングによる降伏勧告に続けて声がする。


「やっほ春兄! 見えてるよー観測手ってやつ? は私が担当してます! 以上! 実は誘拐されたフリをしてキングとS1に協力していた火那でしたー」


 全く、火那のやつ今頃になって連絡をくれるとは……。

 そう、やはり僕も思っていた通り、火那は本当は誘拐されてなどいなかった。

 火那は僕を強制的に動かすための強硬手段としてキングによって使われていたのだ。

 つまり、火那を誘拐したという人物こそがS1。おそらくはSniper1であり、僕が佐藤レオンさんとの設定改変によって助けた狙撃兵だろう。

 火那は事情を知らされた上で彼らに積極的に協力していた味方というわけだ。

 そして、僕はこのことを一切シナリオに書いていない。

 きっと佐藤レオンさんも同じだろう。

 僕は火那が本当は誘拐されていないという真相に気付いたとき、敢えて自身のリーズンを書くことを放棄した。

 このシナリオを書いたのはきっと人間B、彼だ。

 彼が僕のリーズンを書いたのだろう。

 これこそが僕の仕掛けた罠だ。

 僕は彼と、あるいは宗谷さんの言うように僕と唯川さんのペアが、唯一神ペアと擬似的な二者相互規定のようなことをすることで、この状況を作り上げることに成功したのだろう。


「宗谷さん……投降してはくれませんか? 僕らは貴方であっても別に死んで欲しいわけじゃない」


 僕がそう宗谷さんを諭すように言い、唯川さんは自身の銃を拾いにゆっくりと向かう。

 そして銃を拾い上げた唯川さんが、宗谷さんに告げる。


「宗谷雅彦内閣情報官……! 国家反逆罪です! 一緒に来て頂けますか?」


 唯川さんが銃を向けると、宗谷さんは「フフフフフ! ハハハハハハ! まさかあの時、渡すのを渋ったAIを使って私を追い詰めるとはね……」と笑うと、間を置いて弾き飛ばされた銃を拾いに行くと、僕達に襲いかかろうとした。

 だがしかし、再びガラスが割れる音がし、そして唯川さんも発砲し、宗谷さんの胸は穿たれる。

 着弾の衝撃で銃を手放した宗谷さんに、僕は近づいていき屈んだ。


「なぜ……なぜですか宗谷さん……」

「……ふふふ、言ったはずだ。私は君等が嫌いだとね……」


 血を吐きながらそれだけ言うと、宗谷雅彦は意識を失ったようだった。

 間近で起きた死に、これが僕らの選択だと分かっていても、彼が本当に死ぬ必要性があったのかが分からず、僕は混乱していた。

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フィクションズリーズンと若干の繋がりのある【統合失調症の俺が確かに世界を救った話】もよろしくお願いします!!
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