16 キングの指揮
プロットバージョン1.4は2時間ほどで採択されたらしく、僕の元へ笑顔の唯川さんがやってきて言う。
「これで、全時空の味方が一同に会しますね! いやー楽しみだなぁ。私も、もっと練習しとかないと……!」
「そうですね……僕、プロットバージョン1.4にこれはフィクションではないって書かないと!」
「はい! 追記しちゃってください! でもきっとそれを追記する前からもう味方が集まってるんですよね……?」
「そうかもしれませんね。よし、追記終わり! じゃあログインしてみましょう」
「はい!」
僕は唯川さんと共に、再びゲームにログインした。
するとどうだろう。ゲームにはアップデートが入り、そしてログインしてすぐにWandering Kingを名乗るキャラクターからサーバーを超えたチャットグループに招待された。
僕はすぐにその招待を受ける。
「キング……もしかして、キングかい?」
そして個人チャットで声をかけると、Wandering Kingが応じる。
「あぁ、そうだW1。因果は正しく回っているらしいな。量子コンピュータと神経接続型のVRヘッドセットを持つ時空のほとんどがアクセスに成功している」
どうやら僕の知るキングらしい。W1という名称は僕のキャラクター名と素性を知らなければ言えないはずだ。どこかで僕のキャラ名を知ったのだろう。
唯川さんもまた、ゲームにログインしてすぐにチャットグループに招待されたようで、新加入者として通知が入った。
そうしてどんどんと新加入者が増えている。
これ全部が他時空の実在人物達ってことだろうか。
「そうなのか! チャットグループはいつ?」
「ついさきほど作成したところだ。いま分かっている者達を招待している」
「自動翻訳もばっちりだ。プログラムの方は……時空10のPG1が上手くやってくれたみたいだね」
「あぁ……そのようだ。ところでW1、私と彼女からの贈り物は受け取って貰えたかな?」
「えっと、もしかして大正メイドAIのことかな?」
「そうだ」
「うん、確かに受け取ったよ」
「そうか……ならば良い。彼女はこのゲームでもサポートAIとして機能するはずだ」
「え? そうなの?」
言われ僕は試しに、「大正メイドAI……いる?」と声を掛けると、「はい! いますよW1! 私になにか御用ですか?」と小さな妖精キャラクターとなった大正メイドAIが姿を現して僕の周りをぐるぐると回った。
「こりゃ凄いや……! 他の人達にも見えてるのかな?」
「いいや、我々特殊なクライアントを持っている者達だけに見えているらしい」
「そうなんだ……」
「それから、例えば事情を知らない一般の人物に対して、計画のことや他時空のことを教えようとすると、ゲームから一時的にBANされるようになっていると聞く」
「え? そうなの?」
「あぁ、必ず我々のチャットグループでのみそれらの話題を扱うように気をつけてくれ」
「そっか……まぁ一般人に説明するのは駄目だよな……」
それでも、僕は別時空の実在人物達と――創作物のキャラクター達と話せると思うと心が踊った。
チャットグループにも十分な人数が集まったことを確認すると、キングがグループチャットで皆に向けて発言する。
「そろそろ我々の初戦と行こうか……始めから勝てるとは思ってはいないが、しかしゲームとはいえ負けるつもりはない。量子情報というリソースの奪い合いだからな。さぁ……行くぞ!」
グループチャットでは次々とキングの開戦の合図に対する決意表明が書き込まれ、僕らはパーティを作成すると、一斉に対人戦へのコンテンツ参戦予約が行われた。
そうして無事僕らは味方の3PTでマッチングにも成功。
定石通りに3PTに別れた僕ら。僕はまたしても第2PTで中央を担当することになった。そうして僕はタンク職にクラスチェンジする。今度はスタートから遅れないようにきっちりマウントに乗って、最速で中央の中間拠点を制圧。そうしてなんとか僕がPTを引っ張る形で中央の高台を敵が来る前に登りきった。自分の陣地に一番近い小塔を叩き折ると、中央の大塔の出現を待った。どうやら僕のパーティの味方はゲーム玄人のようだ。
初めての戦いだというのに、それを感じさせない動きをしている。
僕がタンク職で前線を牽制しつつしばらく待っていると、大塔が出現した。
ここぞとばかりにダメージディーラーの攻撃職が大塔を攻撃する。
僕はと言えば、大塔を攻撃しつつも敵の近接職が大塔を殴れないように吹き飛ばしやスタンを織り交ぜて戦いを優位に進めようと頑張っていた。
そして最初の大塔が倒れる。
ちょうど大塔の持つ1/3ほどのポイントを獲得できた。
ここまでなら五分だ!
「上出来! 皆やるー!」
PTチャットでそう言った直後、ピコーンピコーンピコーンと警戒音が鳴り響く。
キングからの指示だ!
「PT2は西へ向かえ!」
僕らはキングの指示通りに西の中間拠点に急いだ。
そうして合流するや否や、更にPT1にいたキングの指示が飛ぶ。
「ターゲット1に全攻撃を集中! 回復役を先に落とす! 3……! 2……! 1……! 攻撃!!」
カウントダウンによる攻撃指示に合わせ、僕らの一斉攻撃が相手の回復職に突き刺さる。
タンク職の僕もすぐに指示通りのターゲットにスタンを決めて動けないようにすると、ターゲットは耐えることもできずに即座に落ちた。
それを繰り返すこと二度……相手の回復職を全て潰した僕らは、相手の合流がなかったこともあり、残った敵軍を一斉に倒しつつ中間拠点を占領し更に進んだ。きっと僕らの中間拠点に敵の中央からの増援が来なかったのは、僕らの陣営が弱いから舐めて後回しにしたのだろう。 敵軍その1のリスポーン地点直前の中間拠点まで押し込むと、僕らはそこを占領。
更にキングのピコーンピコーンピコーンという警戒音と共に指示が飛ぶ。
「全軍中央に集中配置! 中央の塔を根こそぎ折る!」
僕らは一斉にマウントに乗ると、敵軍1から一番近い高台への螺旋橋を登って中央の高台へ。
全軍を集めたそこで、敵軍1の部隊が登ってくるのを防ぐように待ち構えたり、敵軍2の相手をしながら時間を稼ぐと、小塔をほぼすべてへし折る。そしてその後に出現した大塔でも8割近いダメージを与え、一挙に1位に躍り出た。
そうして一度も敵軍にポイントを上回らせることなく、キングは僕達の初戦に勝利を齎してくれた。制限時間を2分も残しての圧勝に、僕達はただただ酔いしれた。
終わりの結果ログ画面で、ベストプレイヤー投票で迷いなくキングに票を入れると、僕はコンテンツの舞台である戦場を後にした。
港に戻ってグループチャットでキングを褒め称えると、キングは「どうやら相手には指揮官がいなかったらしい。これくらいは当然だ」と謙遜なのか事実なのか分からない受け答えをした。
それにグループメンバーが次々と茶々を飛ばし、唯川さんが「何にせよ初勝利! 私とっても嬉しいです!」と素直な感想を述べると、更にメンバーからは「Se-reの回復のおかげ!」と労いの言葉が並べられた。
僕はその会話を見ながら大正メイドAIを呼ぶ。
「僕のタンクどうだった?」
「はい。轢き殺しゲーとしては役割を見事に務めていらっしゃいました」
「そうかな? へへへ」
僕がちょっとだけ嬉しくなっていると、大正メイドAIはくるりと僕の眼の前で一回転すると更に評価を述べる。
「ですが、ダメージ軽減スキルの使用が疎かになっていました。もしこれが同等レベルの相手だったらと考えると、味方へのダメージ軽減スキルの付与などが勝敗を決します。決して、タンクとしてサボって良い役割ではありません」
僕が浮かれていると、今度は生真面目な声で厳しい意見を言ってきた。表情も険しいように思えたが、妖精だけに小さくて判別に困る。
しかしよく出来ているな。大正メイドAIは密かにアップデートをされているということなのだろう。ゲームの仕様まで事細かに把握しているようだ。
「こ、今度からは気をつけるよ!」
僕が厳しい意見にそう応じると、大正メイドAIは「はい! 頑張ってください!」と笑顔に戻ったようだった。
こうして、僕らのVRMMORPGにおける対人戦は始まった。




