15 対人戦
浦安から東京タワー近くの計画用ビルまで1時間ほどかけて帰ると、僕はデスクに向かった。
大正メイドAIが僕を検知したようで報告してくる。
「ゲームのインストール、10分ほど前に終わっています!」
大正メイドAIはどうやらPCに関することを把握しているらしい。
「あぁ……君もつけっぱなしだったか……誰か勝手に君と話したりしなかったかい?」
「はい! 誰もカメラで認識しませんでしたよ?」
「そうか、ならいんだ」
僕はリュックからVRヘッドセットを取り出すと、デスクのPCにケーブルで接続した。
「VRヘッドセット……認識完了です! ゲームを開始しますか?」
大正メイドAIが聞いてきて、僕はそれに「あぁ、始めてくれ」と答えた。
そうしてヘッドセットを被る。
神経接続型VRヘッドセットはすぐに僕の現実における神経活動を抑制。
画面にはゲームのログイン画面が表示された。
僕はゲームにログインすると、早速対人戦の行われる街の港にワープした。
港には多数のプレイヤーがワープしてきていて、コンテンツ実装直後が思い出される。
そして数々のプレイヤーがワープしてくる様子に、僕はキングの言っていたことを思い出す。時空666で観測の為にブラックホールに飲み込まれた単独で量子テレポーテーションを行える存在とは、もしかしたらこのゲームのキャラクターかもしれない……そう漠然と思うのだった。
するとVRヘッドセットの通知が鳴った。
どうやら連携してある僕のスマホに連絡が入ったらしい。
来ていた通知を開くと、唯川さんからだった。
サーバーをどこにしたら良いか迷っているらしい。
それにボイスコマンドで、僕のサーバー名を唯川さんに教えると、しばらくしてキャラクター名が返ってきた。メールに表示された彼女のキャラ名は【Se-re】だ。本名を使うなんて僕と同じだなと思いながら、僕は対人戦コンテンツが解放されるまでにやるべきメインクエストを教えた。
唯川さんからはOKという返事だけが来た。
たぶんメインクエストには30分はかかるはずだ。唯川さんと合流する前に、一戦交えてみるのも良いだろう。
最近はあまりやってなかったので、腕が鈍っていないといいが……。
参戦受付へと向かう。
「ベーシックインカム分配目的のプレイヤー用のギルド作りました! 一緒にたんまり儲けませんかー?」
そんなギルド勧誘の声が聞こえる中、僕は受付で参戦予約をした。
プレイヤー数が増えたからかすぐにコンテンツ突入準備の案内が来る。
僕は参戦ボタンを押した。
コンテンツ参戦が承認され、ワープして戦場へと着く。
開戦前の自陣には24人のプレイヤーが集められていた。
これが三陣営ある。基本的には陣取り合戦だ。
本陣の他に6つの中間拠点が設けられ、それらを奪い維持することでポイントが入る。
それら拠点維持ポイントと、戦いの生死によるポイントの取り合いによって勝敗は決定される。
「よろしくお願いします」
僕は入ってすぐに組むことになった味方に挨拶をする。
挨拶は大事だ。挨拶に応じない輩をキックするなんて風潮もあると聞いたことがあった。基本的に殺伐としている対人戦だったが、ベーシックインカムの配分がかかっているとなればなおさら殺伐としてしまっているだろう。
しかしそれでも挨拶を返して来ない人もいて、これは駄目かも知れない……と思う僕だった。
また定番の戦略として、僕は第2PTとなった為に僕らのPTは中央を担当することになった。戦場の中央の高台には塔が定期的に出現し、それへのダメージ割合に応じて非常に大きなポイントが配分される仕様だ。戦いの趨勢を大きく決める要素として、第2PTには重責がのしかかる。
そんなことを考えていると、戦いの開始を告げる鈍い角笛が鳴った。
僕は鳥型マウントに乗ると、中央の中間拠点を第2PTの皆と制圧後、中央高台の頂上へ向けて螺旋状の橋を登っていく。
しかし制圧の動きが遅い。
僕を始めとして、角笛がなる前に前のめりに進行方向に進む準備をしていなかったプレイヤーが中間拠点に乗るのが遅れたのが制圧の動きが遅い理由だろう。
内心僕はやってしまったと思っていた。
高台の頂上に着く頃には、その失敗の代償が明確に僕らのPTを襲った。
橋を登りきった高台の僕らの方の入口に、既に敵の陣営のプレイヤーが数キャラ来ていた。
そして敵の職業は近接職とタンク職だ。
「まずい! それ以上前に進んじゃ駄目だ!」
僕はPTチャットで注意を促すが、聞いていないプレイヤーが橋を登りきって相手のプレイヤーへと攻撃を仕掛ける。しかし……。
すぐに先頭の味方プレイヤーがふっ飛ばされて、高台から落とされてしまう。敵に吹き飛ばし効果を持つスキルを使われたのだ。高台からの落下はすなわち死を意味する。高台から吹き飛ばされて落ちたプレイヤーはすぐにリスポン地点の自陣に戻されてしまった。
先頭の味方プレイヤーが落下死したことで、人数的に不利を強いられた僕らは、まだ敵に残っている吹き飛ばしスキルを警戒して、高台を登る為の橋から前に進めずにいた。
そして中央の高台には塔が出現する。
敵プレイヤーはここぞとばかりに僕らの陣に近い小塔を破壊していく。
僕らはそれを見逃し、遅れてなんとか高台に登った。
直後、大きな塔が高台の中央に出現する。
遅れてきた上に人数に劣る僕達は、小塔を破壊することができなかったばかりか、大塔へ与えるダメージも人数差ゆえに少なくなってしまう。
遠距離物理攻撃職だった僕は、多少のダメージを大塔に与えることはできたが、しかしやはり人数差と遅れたゆえに序盤の趨勢は決している。
このまま続けば負けが決まったかのようなものだ。
そうして最初の中央の塔の取り合いを終えた僕らは、ばらばらに左右の中間拠点で戦う味方の援軍に向かった。
だが、これでは駄目なのだ……。
僕には分かっていた。
僕の向かった自陣東の中間拠点には、僕同様に敵の援軍が7名ほど押し寄せていた。
対してこちらの増援は3名。
15対11という人数差で押し切られると、僕らは自陣東の中間拠点を失った。
同様に自陣西の中間拠点でも接戦の末破れた僕らの陣営は、自陣前の1拠点を残し全ての拠点を敵の2陣営に占拠されてしまう。
中央の塔でのポイントに加え、中間拠点占領によるポイント差がじわりじわりと開いていく。
僕らの陣営は圧倒的劣勢だ。
そうこうしている内に中央の高台に2回目の塔が出現する時間となった。
僕は事前に塔の出現を予期して中央の高台に登り始めていたが、しかし付いてくる第2PTの味方が3人しかいない。これでは……。
僕の予期した通りに、再び高台入口まで敵近接職に押し切られると、僕らは橋の途中まで後退を余儀なくされた。
そうしてそんなことを同じように繰り返し繰り返し、制限時間の20分が経過してしまった。
僕らの陣営は結局巻き返すことが全く出来ず、最後には自陣前の中間拠点まで取られてリスポーン地点でリスキルされるまでに追い詰められていた。当然結果は第三位。最下位だ。
僕は自身の開幕初動の遅れのミスもさることながら、自陣営の弱さに一人静かに嘆いていた。
ワープで対人戦用の港街に戻された僕は、一人呟く。
「駄目だ……この陣営弱すぎるのもあるけど、僕自身も相当腕が鈍ってる……」
まず第一に初動が遅れてしまうようでは意識が足りない。
それに加え、僕は自分で陣営チャットを使い指揮をしようともしなかった。
だが一度も僕はこのゲームの対人戦で指揮を行ったことがない。
指揮にはプレイヤースキルも大事だが、指揮のチャットを常に陣営チャットで垂れ流しつつ戦うというマルチタスクの処理速度が求められる。
僕が反省をしていると、唯川さんからのメールがまた届いた。
どの陣営に属せばいいのかという内容だ。
僕は迷った。僕の陣営は現時点では相当に弱い。
果たして唯川さんを巻き込んでもいいものか……。
僕は素直にそのことを唯川さんに伝える。そして陣営選択は彼女の意思に委ねた。
するとフレンド申請が飛んでくる。相手はSe-re。唯川さんだ。
そうして個人チャットが来た。
「あー! やっとフレンド申請できました! よろしくお願いします。春夜先生!」
「よろしく唯川さん」
「それで陣営選択なんですけど、私は春夜先生と一緒が良いので一緒にしました!」
「え……? いいんですか? でもそれじゃあマジで勝てませんよ?」
僕が心配して唯川さんに声を掛けると、「別に私、ベーシックインカムの配分が減っても内調からもお給料頂いているのでどうということはないです! それに……内調チームは皆一緒が良いと思ったので……! それに春夜先生! 全時空の人間Bを救う時空同盟はみんな同じサーバーの同じ陣営にしてはどうでしょうか?」
唯川さんがそう提案してくる。
確かに、人の少ないであろう現状負け続けの陣営の方が、仲間を集めた場合には都合が良いのかもしれない。そう思った。
だがしかし、この時空のサークルソフトウェアの量子コンピュータに全時空からのアクセスを集中させても良いものだろうか? その点だけが気になった。
「良いですね。じゃあ僕、そのようにシナリオを書きます」
「はい! 私はちょっと試しに一戦だけやってみます」
「そうですか……ぼろ負けするかもしれませんが、落ち込まないでくださいね」
僕はそう彼女を気遣うと、ゲームからログアウトした。
そうしてプロット及びメインシナリオに、日本サーバーの僕の所属する陣営へのVRMMORPGでの参戦シナリオを追記していく。そうして30分ほどで書き上げ、少女Cが時空666を消滅させるまでに必要な因果と合わせ、プロットバージョン1.4とした。
きっと採択されるはずだ。
僕は唯川さんのデスクに向かうと、「唯川さん。プロットバージョン1.4。よろしくお願いします」とVRヘッドセットを付けている唯川さんに言った。
唯川さんは僕の声を検知したのか、VRヘッドセットを外すと、「はー! 負けです! 負け! てか結構難しいゲームなんですね……さすがは対人戦」とちょうど一戦終わったところのようだった。
「プロットバージョン1.4ですね! お預かりします!」
プロットの文書ファイルを渡すと、僕は「唯川さんは何でやってたんです?」と聞いてみた。
すると彼女は「回復職ですね……」と答え、「敵の援軍が来た途端。味方がばたばたと死んでいくのでびっくりしました」と感想を述べる。
きっと僕と同じように負け戦場だったのだろう。
それで回復職のせいにされていなければいいが……。
「そうなんですね……まぁ味方が増えるまではこの調子が続くかもしれませんが、頑張りましょう!」
僕はそんな慰めの言葉をかけると、唯川さんが宗谷さんの元へ向かうのを見送った。




