13 VRMMORPG
「え? どうしたんですか? いきなり……」
唯川さんが唖然とした表情を浮かべ、僕は急いで自身のスマホを開いた。
そして公共放送局のホームページを開く。
日本政府が緊急記者会見との見出しのニュースを見つけた。
再生する。ライブ放送のようだ。音量を上げる。
「えー、本日。日本政府はサークルソフトウェアと事業提携を行う閣議決定を行いました。今後、みなさんに供給されるベーシックインカムの最低限の部分を除き、その余剰分の分配を全てサークルソフトウェアの運営するゲーム、VRMMORPGにおける対人戦の結果で決定することとなりました……また今後の政府の政策の決定につきましても、この対人戦の成績上位者の意見を汲むものとします。詳細につきましては資料をご覧ください。また議会には明日付けで法案を提出、即時可決後、即時施行されるものとします」
官房長官の発表に、僕達は度肝を抜かれる。
何を……何を言ってるんだ!?
「はぁ!? VRMMORPGの対人戦の結果でベーシックインカムを分配するだって!?」
「それだけじゃないですよ! 政府の政策決定に関しても成績上位者の意見を汲むって……!」
僕と唯川さんは驚きでお互いに顔を見合わせた。
こんなシナリオは僕らのシナリオにはない。間違いなくないのだ。
「与党はマジでこの馬鹿げた政策を議会に通すつもりなんですか!? 唯川さん!?」
「いえ……私にも情報は上がってきていません!」
唯川さんは明らかに困惑してる。
僕は急いで自分のデスクに戻ると、なんとかこの馬鹿げた状況を抑制するシナリオを書けないか模索しようとPC画面の電源を付けた。
「あ! W1さん。因果の計算終わりましたー!」
「それはいいけど、いまこっちの時空じゃ大変なことになってるんだ! サークルソフトウェアとVRMMORPGに関しての因果を検索できるかい?」
「はい! お任せください!」
大正メイドAIに急いで命じると、結果はすぐに出た。
「あーどうやら人間Bさんの命令が可決実行されたようです」
「は? 人間Bの命令が可決実行ってどういうこと……?」
「残念ですが、これ以上は極秘事項になります。アクセス権を要請しますか?」
「する! するよ!」
「少々お待ち下さい……ただいま要請を処理中です……はい! アクセスはW1さんの時空の権利者達によって賛成多数で承認されました」
「それで!? 一体どういうこと!?」
「はい。人間Bには現在、魂と同化した絶対命令権限が唯一神様によって付与されています。その命令の一環で、W1さんの時空でサークルソフトウェアと政府の提携が行われたようです」
は? 絶対命令権限だって!? それに唯一神様!? 一体どういうことだ!?
「絶対命令権限について説明……できる!?」
「はい。絶対命令権限とは、その名の通りの絶対命令権です。全時空全存在に対して命令を発行、現在では量子コンピュータと量子脳を持つ者達の議決によって、その命令の実行可否が判断されています」
「は? じゃあ僕らの時空で起きてるこのおかしな事態は一体!?」
僕が声を荒げて質問すると、大正メイドAIは答える。
「人間Bさんによって、揉め事を全てVRMMORPGの対人戦で決定せよとの命令が出されました。そして唯一神様の101%票によって可決されました。ですから、W1さんの時空ではベーシックインカムの分配などの問題や政策決定に関して、対人戦で決定するようになったとのことです。この他全時空における量子情報のリソースの取り合いなどでも件の対人戦が採用されています。これは近年サークルソフトウェアが開発するゲームが、全時空に接続可能な量子コンピュータを用いたゲームであったことなどに起因し、決定されたようです」
「そんな馬鹿な……だからサークルソフトウェアのVRMMORPGではNPC殺しが大罪だったっていうのか!? 実在する世界だったと……?」
僕もプレイしたことはあるが、システムで厳重にNPCへの――亜人種含めた人族への攻撃は禁止されていた。僕は対人戦はあまりやったことがないが、これもまた殺しが禁止されていたのかもしれない。
だがそれはいい。
問題は唯一神様が101%票で決定したらしいということだ。
絶対命令権限と合わせて、僕に伏せられていた因果とはこのことか!
あまりにも大きな中二病全開の設定に頭が捩れそうになる。
しかし、ならば人間Bは自らの絶対命令権限で、即時の救済を唯一神様に願えばいいんじゃないのか?
そうすれば僕らがこうして馬鹿げた因果律のシナリオを書かなくたって良くなるじゃないか。
そんな考えが浮かんで馬鹿馬鹿しくなってしまう。
だがどうやら僕には、なんとかしてこの対人戦で人間Bを救う時空同盟が勝てるようなシナリオを書く役目があると気付いた。
本当に馬鹿馬鹿しくなってしまうが、これは本当に存在するVRMMORPGの時空を代理戦場とした全時空を巻き込む戦いなのだ。決して、敗れるわけにはいかない。
恐らくは僕達同盟の司令官はキングが務めるのだろう。
僕はキングに連絡が取れないか聞くことにした。
「メイドさん。キングと連絡は取れるかい?」
「……申し訳ありません。キングとの直接連絡は私の権限を遥かに超えています。キングから連絡をするように要請することは可能ですし、彼が私に通信をしてくれれば中継は可能ですが、どうしますか?」
「じゃあ、僕に通信するよう要請してくれ。彼と話はしなくちゃならない……!」
「はい! かしこまりました。キングに連絡するよう、各時空を通してお伝えしておきます」
そうして連絡を待つこと30分ほど。
僕の元にキングからの連絡がやってきた。
唯川さんがいつものようにヘッドセットを持って来てくれる。
僕は至って平静を装い、ヘッドセットを付けるとデスクに座り話し始めた。
「キング! 聞こえるかい?」
「あぁ聞こえているW1。厄介なことになったな」
「厄介なんてものじゃないよ。ベーシックインカムの余剰分の取り合いだけならまだしも、ウチの時空じゃ政策決定まで対人戦で決めるって言うじゃないか!」
「そうか……そんなことになっていたか。我々の時空では政治における揉め事は少ないから、そのような事態にはなっていないが……しかし私も同盟の全時空からの要請で、先程からVRMMORPGの手ほどきを受けている。だがなW1、私は指揮官として参戦することはできるが全ての戦場で……とはいかない」
「僕もあまり詳しくないんだけど、味方になってくれるプロゲーマーを集めるってシナリオでいいよな?」
「いや……それだけでは問題がある。政策の決定まで左右するとなると、信用のおける人物でなければならない……」
「じゃあ……ポリグラフを使って、政治信条をチェックするまでしなきゃ駄目か……分かった。じゃあそういうシナリオを全時空で書かせるよ」
「それでいい」
「それから、確認したい。唯一神様についてだ」
「あぁ……その話になると思っていた」
キングがそう言い、僕はデスクでキーボードを叩く。
プロットに追記する内容はこうだ。【人間Bを全時空全存在の協力を以て抹殺する】。
しかし、僕のキーボードを叩く手は途中で動かなくなってしまった。
どうやら腕が吊ってしまったらしい。
やはり……。
「いま人間Bを全時空全存在の協力を以て抹殺するって書こうとしたんだけど、急に腕が吊ったよ……これって……」
「そうか……恐らくは唯一神様による制限だろう」
キングは僕のした行動を咎めることなく、あっさりとそう言った。
「唯一神様って一体なにものなんだ?」
「我々に分かっているのは、それは絶対命令権限を始めとした万物を決定する議決に対して、101%票を投じることができる存在……そして人間Aがその化身である……というだけだ」
「人間Aがその化身であるって、人間Bは気付いているのか?」
「さぁ、どうだろう。現状私に入っている情報では人間Bは人間Aと唯一神様の関連性には気付いていないと思うが……」
「君も彼に隠しているってことかい?」
「その通りだ。人間Bには敢えて人間Aが唯一神様であるということは伏せている。だがそれも時間の問題だろう。彼は彼の力で、あるいは我々の協力でそれに気付くはずだ。それこそが人間Bの役割だから。その過程こそが原初の神を規定するための全時空に及ぶ二者相互規定なんだろう」
キングは諦めるような態度でそう言うと、「さぁ、対人戦の対策に移ろう」と言って通信を切った。僕はキングの言い残した、原初の神を規定するための全時空に及ぶ二者相互規定という言葉が頭から離れなくなっていたが、しかし僕が彼らのシナリオをある程度書いているのだと思うと、先程吊った手が震えて、しばらくの間、動かせないでいた。




