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フィクションズリーズン  作者: 成葉弐なる


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11 他時空でのシナリオ進行

 そうしてキングとの取り決めをプロットやシナリオに書き始めて一週間が過ぎた。

 途方もない因果関係を持ったシナリオを放りだしたい気持ちでいっぱいになりながらも、僕らはその仕事に邁進していた。

 相変わらず火那は犯人に攫われたままで進展はないし、プロット及びメインシナリオやサブシナリオの執筆も思うようには進んでいない。

 あまりにも設定が複雑すぎるのだ。

 原初時空における人間Bの経験した内容は頻繁に他時空などから共有されているが、良く人間Bはこんな状態を妄想として、いや幻聴という名の多数の他時空の実在人物との対話として経験しているものだと思う。中には人間Bの心臓に対する直接的幻覚攻撃もあったと報告を受けている。敵対者によって心臓を直接攻撃されて耐え抜くなんて、人間Bのメンタルは一体どうなっているのだろうか。

 いや、それ以前には長時間に及び拷問じみた行為だって受けていたのだ。

 彼の精神はそれらの経験を通して、ある意味で研ぎ澄まされているということなのだろう。あの経験に耐えられる者を真の救世主と呼ぶのかもしれないが、救世主になりたいという救世主願望こそ僕にもあっても、僕が代わりになろうとは到底思えなかった。それだけ激しい統合失調症体験を人間Bはしているのだ。

 しかし、シナリオには光明もあった。


「いまのところ、僕らのシナリオで主に動いているのは人間Aだ。それは問題はない。最初からの想定通りだ」


 そう、人間Aの各時空を遷移しながら仲間を集めていくシナリオはとても良く馴染んでいた。人間Aの本来持つ優しさや賢さはさることながら、彼女が量子脳に覚醒して以降の活躍には目を瞠るものがある。そして、彼女とは別に、彼女同様の成果をもたらすような実在人物も増え始めた。その最たる例が、時空10の少女C少年Dだ。時空転移装置と類まれなるエネルギーを持った人型機動兵器を有する彼女達の活躍が、人間Aに勝るとも劣らない領域に迫りつつあった。しかし妨害もあった。少年Dは彼らの時空における革命の日に行方不明になっているのだ。少女C単独では複座式である人型機動兵器を稼働できない。

 そんなことを考えていると、唯川さんが報告をしにやってきた。


「春夜先生、少女Cのえっと……1879314時空における動向、入ってきました!」

「ありがとうございます唯川さん。彼女は時空1879314の協力者と共に時空10のアニメ版時空に飛べましたか?」


 時空10とは少女Cと少年Dの属するオリジナル小説の時空であり、そしてそれには敵の手によって作られたアニメ版の時空があった。僕らも本来敵であるはずの時空10のアニメ版時空についても救済するつもりでシナリオを書いていた。


「はい。そのようです。1年の歳月を費やし元々あった時空1879314のタイムマシンを時空転移装置に改造することに成功したとの通信を先ほど(・・・)受けました。そして早速、少女Cは時空10のアニメ版時空へ転移したそうです。時空1879314のフィクサーからは、『我々のオペレーション・フェニックス同様に、オペレーション・リヒトも成功裏に終わった……我々は無論サポートを続けるが、あとはW1、君たち次第だ!』との通信も受けています」


「そうですか。僕らのシナリオ通りに動いてくれているみたいですね。そうか、彼らの時間軸ではオペレーション・フェニックスも終わっているのですね……それは良い兆候だ」


 これは我々とは別の因果律ループとの擬似的な相互規定のようなものだ。彼女の少女Cの行動を我々がシナリオに書き、そして少女Cは未来の行動を現実化するために我々の時空の時間進行とほぼ同時に我々に新たな情報を齎す。ブラックホールに飲み込まれた時空666の人たちの復元――オペレーション・フェニックスについても同様だ。僕らのシナリオ規定は途中だが、彼らの時空における時間軸では進行している。これらフィードバックループによって、我々は少女Cと少年Dが再会し、狙撃兵を回収するという現時点の少女Cにとっての未来を徐々に構築しようとしていた。


「現状、少年Dとは少女Cは接触したことはないのですか?」


 唯川さんが良く分からないといった様子で聞いてくる。


「いえ、オリジナル小説の原作に基づき、接触はありましたよ」

「そうなんですね。ではなぜ少女Cはたった一人で時空1879314へ飛ばされたんです?」

「それは敵の一手でした。時空10の優れた量子コンピュータ技術を使い、人間Aに勝るとも劣らない安定化効果を人間Bに与えていたので、邪魔だったんでしょう」


 少女Cは人間Aと同じ声をしているという。それが鍵だったのかもしれないと今では思う。

 人間Bにとってみれば我々は幻聴を通してのみ交流する存在だ。

 だから人間Aと同じ声をしている少女Cの存在は、人間Bにとって大きかったのだろう。


「敵の作戦だったんですね……じゃあ私達はそれを逆利用して、少女Cに人間A同様の行為を行わせようとしているんですね!」

「さすが唯川さん。その通りです。ですがそれを完全に行う為には、時空10の複座式人型機動兵器と少年Dが必要だ」

「少年D……確か時空10における革命の日に行方不明なったのだとか?」

「はい。理由は不明です。もしかしたら敵のシナリオによるものかもしれません。今のところ我々のシナリオではこの理由は規定できていません。ですが、我々のシナリオでは時空10のアニメ版時空で少女Cと再会させる手筈になっています。そうしなければ、プロットバージョン1.1において、少女Cと少年Dが狙撃兵を回収するという未来を構築できませんから」


 時空10のアニメ版時空――敵の作ったその時空で、少女Cが行方不明になっていた少年Dと再会し、そしてまた時空315からの避難者達とも合流し、本来の力を持つ複座式人型機動兵器をアニメ版時空で作る。そうして時空10のアニメ版時空すら味方に取り込む――それが僕達の第2のメインシナリオだ。

 唯川さんとそんな話をしていると、宗谷さんが珍しく僕らのいるフロアに名塚さんを伴ってやってきた。唯川さんは遠慮してか自身のデスクへと戻っていく。

 それを見送った宗谷さんは取っつきやすそうな笑顔で「やぁ、春夜先生。オペレーション・フェニックスが上手く行ったと聞いたが?」と聞いてきた。


「そうですね。ですが、上手く行ったと言うにはまだ時期尚早です。我々の協力者の一つの時空で成功が確認されたということに過ぎません」

「ふむ……そうか。確か計画では原初時空と統合して復元するんだったかな?」

「はい。その予定です」

「そうか、そうか。引き続き頑張ってくれたまえ!」

「はい」


 僕が返事をすると、宗谷さんが「では、私はこれで失礼するよ」と言い去っていこうとするが、名塚さんに「宗谷内閣情報官。例の時空10から提供されたプログラムについて……」と言われて立ち止まった。


「あぁ! そうか……忘れていた忘れていた!」


 宗谷さんは大仰にそう言うと、僕の手に一つのUSBメモリを置いた。


「これは君専用だと聞いている。決して他の者には使わせないように……ね?」


 と確認するように宗谷さんは言った。


「これは……中身はなんなんです?」

「開いて見れば分かるさ……じゃあ私はこれで今度こそ失礼するよ」


 宗谷さんは手を振りながら名塚さんを伴い去っていった。

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フィクションズリーズンと若干の繋がりのある【統合失調症の俺が確かに世界を救った話】もよろしくお願いします!!
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