鍋開戦
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます。
※本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を
多く含みます。
いっかい深呼吸~(^^)
更新は21:00です♪
柳河は筑後の中央に位置する。
肥前からも来やすい。
筑前からも来やすい。
水路が張り巡らされ、水運も盛んだ。
薩摩から来る者にとっても比較的集まりやすい土地だった。
もっとも。
その利点を活かして敵味方を集め、鍋を開こうとする者は誾千代くらいである。
◇
当日。
宗茂は柳河の屋敷の前に立っていた。
本当に来るのだろうか。
未だに半信半疑だった。
すると。
「おう!」
豪快な声が響く。
龍造寺隆信だった。
熊のような大男が堂々と門をくぐってくる。
後ろには家臣たち。
そして大量の荷物。
「おじちゃん!」
誾千代が駆け寄る。
「久しぶり!」
「元気そうたいな」
「うん!」
宗茂は黙った。
本当に来た。
「土産もあるぞ」
龍造寺が包みを差し出す。
「ぼたもち!」
誾千代の顔がぱっと明るくなる。
「ありがとう!」
「好きやろ?」
「大好き!」
完全に親戚だった。
その時。
再び外が騒がしくなる。
「おーい!」
勢いよく入ってきたのは島津義弘だった。
「義弘ちゃん! 元気だった?」
誾千代がすぐに反応する。
「おうよ!」
義弘は笑う。
「義久兄さんも、来たがってたんだけどよ」
「ほんと?」
「ああ。誾千代ちゃんにに会いたがってた」
少し間をおいて、義弘は肩をすくめる。
「ただな……あの人、引きこもりだからよ。どうしても家から出れなかったらしい」
「そっかぁ」
誾千代はあっさり頷く。
「でも大丈夫!」
「……大丈夫?」
義弘が聞き返す。
「義久ちゃんとはね、文通友達だから」
誾千代はにこっと笑った。
「今日の鍋のこと、あとでちゃんと書いて送る!」
その言葉を聞いて、義弘は笑った。
「それより、薩摩から来たんで腹減ったわ!」
「遠いとこ大変だったね!」
「遠いことは大変じゃねぇ、腹だ腹がへった」
雑な会話が成立している。
その後ろで歳久が静かに息を吐いた。
「……やっと着きましたね」
「歳久ちゃん、疲れてる」
誾千代が言う。
歳久は小さく頷く。
「義弘兄さんが張り切りすぎましてね。こちらも巻き込まれました」
「おい」
義弘が振り返る。
家久がぽつりと言う。
「歳久兄さん、何もしてないのに疲れてる」
「言うな」
そのやり取りを横目に、宗茂は黙っている。
(嫁の交友関係が謎すぎる)
その時、
義弘が龍造寺を見る。
龍造寺も義弘を見る。
一瞬だけ空気が張る。
宗茂の背筋も伸びた。
だが。
「おう」
「久しぶりたいな」
終わった。
普通だった。
宗茂には、それが一番理解できなかった。
「じゃあ鍋しよう!」
誾千代の一声で全員が動き始める。
誰も異論を唱えない。
宗茂だけが、まだ現実についていけていなかった。
◇
「これ持ってきた!」
誾千代が嬉しそうに並べる。
ごまさば。
明太子。
もつ。
「おいしいもの全部持ってきた!」
本人は大満足だった。
義弘も荷物を開く。
「薩摩の黒豚だ」
どん。
「鰹だ」
どん。
「桜島大根だ」
どん。
量がおかしい。
「全部入れるのですか」
歳久が聞く。
「全部だ」
義弘が笑う。
龍造寺も負けていなかった。
「肥前の名物たい」
どさりと並べられる。
わらすぼの干物。
むつごろうの干物。
宗茂は黙った。
家久も黙った。
歳久も黙った。
魚らしい。
だが。
見た目はどちらかと言えばエイリアンだった。
「これは食べ物ですか」
家久が真顔で聞く。
「食べ物たい」
龍造寺も真顔だった。
「本当に?」
「本当たい」
龍造寺は言い切った。
◇
鍋は、すでに“料理”という段階を越えていた。
鍋がぐつぐつと音を立て始める。
各自が持ち寄った食材が、次々と投入されていった。
その場に、もはや料理のルールはない。
あるのはただ、「どこに何が沈んでいるか分からない鍋」だけだった。
「そろそろいいんじゃない?」
誾千代が覗き込む。
「もう食えるだろ」
義弘が箸を構える。
「見た目はもう関係ないですね」
歳久が静かに言う。
「見た目の段階は最初に終わってる」
家久が即答する。
◇
歳久は、静かに鍋の縁を見つめていた。
(配置としては……この角度で投入されている)
龍造寺の動き。
落下位置。
沈む速度。
すべてを一度計算する。
(この辺りが危険物の可能性が高い)
危険物を避け、
慎重に箸を伸ばす。
その瞬間。
「そんな馬鹿な」
歳久の手が止まった。
引き当てたのは、わらすぼ。
見た目だけで、
すべての理性を破壊する形状だった。
(なぜ、ここでこれが出る)
計算は完全に外れていた。
◇
一方。
義弘は、なぜか張り切っていた。
「こういう時は肉だろ」
勢いよく箸を入れる。
引き上げる。
「……また大根か」
桜島大根。
もう一度入れる。
また大根。
「おかしいだろ、これ」
「日頃の行いですね」
歳久が静かに言う。
「お前、今わらすぼ引いてただろ」
「聞こえません」
◇
一方、家久は逆だった。
「ここはモツの流れですね」
迷いなく箸を入れる。
「……当たりです」
「まただ」
歳久が呟く。
家久は小さく頷く。
「この鍋、読みやすい」
「どこがですか」
歳久は本気で叫んだ。
◇
そして。
誾千代だけは違った。
「これもおいしい!」
「これも!」
「全部おいしい!」
何を引いても嬉しそうだった。
義弘が笑う。
龍造寺も笑う。
家久は黙々とモツを回収する。
歳久は四度目のわらすぼを引き当てていた。
宗茂は鍋を見つめる。
島津。
龍造寺。
立花。
本来なら同じ席にいるはずのない者たちが笑っている。
鍋を囲んで。
普通に。
楽しそうに。
宗茂には、やはり意味が分からなかった。
「旦那様!」
誾千代が笑う。
「おいしいよ!」
差し出された椀を見る。
中身は判別不能だった。
宗茂は静かに目を閉じる。
そして食べた。
意外と美味かった。
それが一番納得できなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次回より戦国っぽくなってきます(^^)




