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『西国最強の夫婦まかり通る! 〜旦那様は今日も素敵です〜』  作者: 平子 天陽


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9/31

鍋開戦

こんにちは! あまはる です!

この物語を手に取っていただきありがとうございます。

※本作は史実を元にしたフィクションです。

 実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を

 多く含みます。

いっかい深呼吸~(^^)

更新は21:00です♪


 柳河は筑後の中央に位置する。


 肥前からも来やすい。

 筑前からも来やすい。

 水路が張り巡らされ、水運も盛んだ。

 薩摩から来る者にとっても比較的集まりやすい土地だった。


 もっとも。


 その利点を活かして敵味方を集め、鍋を開こうとする者は誾千代くらいである。


 ◇


 当日。


 宗茂は柳河の屋敷の前に立っていた。

 本当に来るのだろうか。

 未だに半信半疑だった。


 すると。


「おう!」


 豪快な声が響く。

 龍造寺隆信だった。


 熊のような大男が堂々と門をくぐってくる。

 後ろには家臣たち。

 そして大量の荷物。


「おじちゃん!」


 誾千代が駆け寄る。


「久しぶり!」


「元気そうたいな」


「うん!」


 宗茂は黙った。

 本当に来た。


「土産もあるぞ」


 龍造寺が包みを差し出す。


「ぼたもち!」


 誾千代の顔がぱっと明るくなる。


「ありがとう!」


「好きやろ?」


「大好き!」


 完全に親戚だった。


 その時。


 再び外が騒がしくなる。


「おーい!」


 勢いよく入ってきたのは島津義弘だった。


「義弘ちゃん! 元気だった?」


 誾千代がすぐに反応する。


「おうよ!」


 義弘は笑う。


「義久兄さんも、来たがってたんだけどよ」


「ほんと?」


「ああ。誾千代ちゃんにに会いたがってた」


 少し間をおいて、義弘は肩をすくめる。


「ただな……あの人、引きこもりだからよ。どうしても家から出れなかったらしい」


「そっかぁ」


 誾千代はあっさり頷く。


「でも大丈夫!」


「……大丈夫?」


 義弘が聞き返す。


「義久ちゃんとはね、文通友達だから」


 誾千代はにこっと笑った。


「今日の鍋のこと、あとでちゃんと書いて送る!」


 その言葉を聞いて、義弘は笑った。


「それより、薩摩から来たんで腹減ったわ!」


「遠いとこ大変だったね!」


「遠いことは大変じゃねぇ、腹だ腹がへった」


 雑な会話が成立している。

 その後ろで歳久が静かに息を吐いた。


「……やっと着きましたね」


「歳久ちゃん、疲れてる」


 誾千代が言う。

 歳久は小さく頷く。


「義弘兄さんが張り切りすぎましてね。こちらも巻き込まれました」


「おい」


 義弘が振り返る。

 家久がぽつりと言う。


「歳久兄さん、何もしてないのに疲れてる」


「言うな」


 そのやり取りを横目に、宗茂は黙っている。


(嫁の交友関係が謎すぎる)


 その時、


 義弘が龍造寺を見る。


 龍造寺も義弘を見る。


 一瞬だけ空気が張る。

 宗茂の背筋も伸びた。


 だが。


「おう」


「久しぶりたいな」


 終わった。

 普通だった。


 宗茂には、それが一番理解できなかった。


「じゃあ鍋しよう!」


 誾千代の一声で全員が動き始める。

 誰も異論を唱えない。

 宗茂だけが、まだ現実についていけていなかった。


 ◇


「これ持ってきた!」


 誾千代が嬉しそうに並べる。


 ごまさば。

 明太子。

 もつ。


「おいしいもの全部持ってきた!」


 本人は大満足だった。


 義弘も荷物を開く。


「薩摩の黒豚だ」


 どん。


「鰹だ」


 どん。


「桜島大根だ」


 どん。


 量がおかしい。


「全部入れるのですか」


 歳久が聞く。


「全部だ」


 義弘が笑う。


 龍造寺も負けていなかった。


「肥前の名物たい」


 どさりと並べられる。


 わらすぼの干物。

 むつごろうの干物。


 宗茂は黙った。


 家久も黙った。


 歳久も黙った。


 魚らしい。


 だが。


 見た目はどちらかと言えばエイリアンだった。


「これは食べ物ですか」


 家久が真顔で聞く。


「食べ物たい」


 龍造寺も真顔だった。


「本当に?」


「本当たい」


 龍造寺は言い切った。


 ◇


 鍋は、すでに“料理”という段階を越えていた。


 鍋がぐつぐつと音を立て始める。

 各自が持ち寄った食材が、次々と投入されていった。

 その場に、もはや料理のルールはない。


 あるのはただ、「どこに何が沈んでいるか分からない鍋」だけだった。


「そろそろいいんじゃない?」


 誾千代(ぎんちよ)が覗き込む。


「もう食えるだろ」


 義弘が箸を構える。


「見た目はもう関係ないですね」


 歳久が静かに言う。


「見た目の段階は最初に終わってる」


 家久が即答する。


 ◇


 歳久は、静かに鍋の縁を見つめていた。


(配置としては……この角度で投入されている)


 龍造寺の動き。

 落下位置。

 沈む速度。

 すべてを一度計算する。


(この辺りが危険物の可能性が高い)


 危険物を避け、

 慎重に箸を伸ばす。


 その瞬間。


「そんな馬鹿な」


 歳久の手が止まった。


 引き当てたのは、わらすぼ。

 見た目だけで、

 すべての理性を破壊する形状だった。


(なぜ、ここでこれが出る)


 計算は完全に外れていた。


 ◇


 一方。


 義弘は、なぜか張り切っていた。


「こういう時は肉だろ」


 勢いよく箸を入れる。

 引き上げる。


「……また大根か」


 桜島大根。

 もう一度入れる。


 また大根。


「おかしいだろ、これ」


「日頃の行いですね」


 歳久が静かに言う。


「お前、今わらすぼ引いてただろ」


「聞こえません」


 ◇


 一方、家久は逆だった。


「ここはモツの流れですね」


 迷いなく箸を入れる。


「……当たりです」


「まただ」


 歳久が呟く。

 家久は小さく頷く。


「この鍋、読みやすい」


「どこがですか」


 歳久は本気で叫んだ。


 ◇


 そして。

 誾千代だけは違った。


「これもおいしい!」


「これも!」


「全部おいしい!」


 何を引いても嬉しそうだった。


 義弘が笑う。


 龍造寺も笑う。


 家久は黙々とモツを回収する。


 歳久は四度目のわらすぼを引き当てていた。


 宗茂は鍋を見つめる。


 島津。

 龍造寺。

 立花。


 本来なら同じ席にいるはずのない者たちが笑っている。


 鍋を囲んで。

 普通に。

 楽しそうに。


 宗茂には、やはり意味が分からなかった。


「旦那様!」


 誾千代が笑う。


「おいしいよ!」


 差し出された椀を見る。

 中身は判別不能だった。


 宗茂は静かに目を閉じる。


 そして食べた。

 意外と美味かった。


 それが一番納得できなかった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次回より戦国っぽくなってきます(^^)

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