薩摩の鬼たち
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます。
※本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
深く考えないでください。
21:00に更新します(^^♪
天正十年。
九州の勢力図は大きく変わりつつあった。
北部では大友家がなお名門として君臨している。
肥前では龍造寺家が勢力を広げていた。
だが。
今、最も勢いがあったのは南だった。
薩摩。
島津家である。
◇
九州南部。
薩摩。
長男・島津義久。
島津家当主。
戦略、外交、統率を担う総大将。
戦場で槍を振るうより、地図の前に座っている方が恐ろしい男だった。
次男・島津義弘。
百戦錬磨の猛将。
幾度も死地を潜り抜け、敵陣を打ち破ってきた戦の鬼。
三男・島津歳久。
政務と調略を担う知将。
冷静な判断力で兄たちを支えている。
四男・島津家久。
電撃戦を得意とする天才肌の武将。
四兄弟はそれぞれ異なる才能を持ちながら、島津家を支えていた。
その中心にいる義久は――
現在、文机へ突っ伏していた。
「兄上」
歳久が静かに声を掛ける。
「……」
「兄上」
「聞こえている」
低い声だった。
義久はゆっくり顔を上げる。
四十を越えているとは思えないほど端正な顔立ち。
太い眉。
切れ長の目。
武将にしては驚くほど色白だった。
日差しの下より、本の前にいる時間の方が圧倒的に長いからである。
派手さはない。
だが静かに座っているだけで、人を従わせる空気があった。
島津家当主。
九州屈指の大名。
その男が今は少しやつれていた。
昨日。
義久は珍しく城下へ出た。
理由は二つ。
誾千代へ送る甘味を選ぶこと。
そして。
博多から入ったという新しい兵法書を見ることだった。
極度の引きこもり体質の義久が外出した結果。
半日で体調を崩した。
「外に出たことは後悔はしていない」
義久が頬杖をつく。
「していないのですか」
歳久が即座に聞き返した。
「甘味は良い物が買えた」
「そうですか」
「兵法書も手に入った」
「そうですか」
「ただ疲れた」
「でしょうね」
歳久はため息をつく。
兄は昔からこうだった。
興味のあることには動く。
だが体力が続かない。
結果だけ見ると毎回こうなる。
「私はやはり部屋の中が向いている」
義久が真顔で言う。
「皆そう思っております」
歳久も真顔で返した。
その時だった。
襖が開く。
「義久兄さん」
入ってきたのは次男・義弘だった。
大柄な体。
日に焼けた肌。
鋭い目。
だがその奥には、人好きのする温かさもある。
豪胆に見えて、人を見る目を持つ男だった。
百戦錬磨。
その言葉がよく似合う。
義弘の後ろから、家久も姿を見せる。
「文が来たぞ」
義弘が一通の手紙を差し出した。
義久の視線が動く。
「誾千代殿からか」
「そうだ」
義久は文を受け取る。
静かに目を通した。
数行。
そして。
わずかに口元が緩む。
歳久は見なかったことにした。
「なんて書いてあるんだ?」
義弘が聞く。
「鍋をするそうだ」
「鍋?」
「鍋だ」
義久は文を畳んだ。
「誾千代殿が友人たちを招集するらしい」
「友人?」
「龍造寺隆信殿も来るそうだ」
一瞬。
部屋が静かになった。
「……龍造寺殿が?」
歳久が確認する。
「うむ」
「我らも誘われている」
今度は歳久が黙った。
家久も黙っている。
「敵も味方も関係なく呼んでいるのですね」
歳久が静かに言う。
「そうらしい」
「なるほど」
義弘が笑った。
「相変わらず面白ぇな、あの娘は」
歳久がため息をつく。
「普通の発想ではありません」
「だから人が集まるんだろう」
義弘は穏やかに笑った。
義久も否定しない。
誾千代は昔からそういう人間だった。
身分も。
立場も。
常識も。
気にしない。
だから人が集まる。
「義久兄さんも来るか?」
義弘が聞く。
義久は少しだけ黙った。
「……行きたいのは山々だ」
「なら来ればいい」
「昨日、半日外へ出ただけでこのザマだ」
「ああ……」
義弘が納得したように頷く。
「具合悪くなるもんな」
「なる」
義久は文へ視線を落とした。
「誾千代殿にはよろしく伝えてくれ」
「自分で言えればいいんだけどな」
義弘が笑う。
「言えれば苦労はせん」
義久は真顔だった。
島津家。
九州最強と呼ばれる一族の朝は、今日もいつも通りだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました♪
長男:島津義久
次男:島津義弘
三男:島津歳久
四男:島津家久




