飲み会オールスターズ☆
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます!
本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
生暖かい目で見てくださいm(__)m
「十時」
「はい」
「暇だね」
「暇ですなあ」
誾千代と十時は並んで、小田原城を眺めていた。
今日も今日とて、門は閉じている。
「魚、獲りに行こうか」
「行きますか」
話は早かった。
◇
小田原は海に近い。
誾千代と十時は海へ出た。
戦をしに、九州からはるばる相模まで来た。
だが、今日握っているのは槍ではない。
竿だった。
「来た!」
「姫さん、引いてます!」
「分かってる!」
「そっち! そっちです!」
「分かってるって!」
魚が跳ねた。
誾千代が竿を引く。
「獲れた!」
「おお!」
十時も負けじと竿を上げる。
「こっちも来ましたぞ!」
何をしているのかと覗きに来た兵が、一人、二人と竿を持ち始めた。
暇を持て余していた兵たちまで加わり、いつの間にかちょっとした漁になった。
そして――。
「いやあ、大漁、大漁!」
十時が籠を覗き込んだ。
「鯵に鯖……こりゃあ、食いきれませんな」
「みんなで食べればいいよ」
「そうしますか!」
獲った魚は、当然食べる。
立花の陣の近くに火が起こされた。
魚に塩を振り、串を打つ。
火の周りへ、ずらりと並べる。
やがて皮がぱりぱりと焼け始めた。
脂が落ちる。
じゅっ、と音を立てて炭が爆ぜた。
塩を振った魚の焼ける香ばしい匂いが、辺り一面に広がっていく。
「いい匂い」
「こりゃあ、酒が欲しくなりますなあ」
十時が言った、その時だった。
「あるぞ」
二人が振り向く。
小野鎮幸が、酒樽を抱えて立っていた。
「小野!」
「これだけ魚があれば、酒も要るだろう」
「さすが小野殿!」
十時が嬉しそうに立ち上がった。
「薦野は?」
「来るそうだ」
戦場である。
間違いなく、戦場である。
だが立花の陣では、魚が焼け、酒の支度が始まっていた。
◇
その頃。
少し離れた数寄屋では、まったく違う時間が流れていた。
千利休が茶を点てている。
湯の音。
茶筅の音。
静かな空気の中、豊臣秀吉をはじめ、名だたる武将たちが座していた。
徳川家康。
細川幽斎。
細川忠興。
蒲生氏郷。
上杉景勝。
利休が静かに茶を点てる。
その時。
風が吹いた。
ふわり。
何かが香った。
家康の手が止まった。
忠興が、わずかに鼻を動かす。
氏郷も顔を上げる。
秀吉の眉が動いた。
利休だけは、何事もなかったように茶を点てている。
また風が吹いた。
今度は、はっきり分かった。
魚だった。
炭火で焼かれた魚の香ばしい匂いが、風に乗って数寄屋まで届いている。
静寂。
誰も何も言わない。
ここは茶席である。
ぐう。
小さな音がした。
全員が止まった。
誰の腹だ。
誰も顔を上げない。
利休が静かに茶を点てる。
ぐうう。
今度は、少し長かった。
秀吉がちらりと家康を見る。
家康が首を振った。
忠興が下を向く。
氏郷の肩がわずかに揺れている。
利休が茶碗を置いた。
「……よい香りですな」
とうとう言った。
秀吉が笑った。
「利休も気づいておったか」
「魚でございますな」
「魚じゃな」
張り詰めていた茶席の空気が、少しだけほどけた。
◇
茶会が終わる頃には、立花の陣の魚もちょうど食べ頃になっていた。
「お、やってるな」
声がした。
誾千代が振り向く。
「角のおじさん!」
「誰が角のおじさんだ」
本多忠勝だった。
その隣には前田利家もいる。
「やはりお主らか」
「食べる?」
「もらおう」
早い。
忠勝が腰を下ろした。
利家もその隣へ座る。
十時が焼けた魚を一本渡した。
「熱いですぞ」
「分かっておる」
利家が一口食べる。
「……うまいな」
「でしょ?」
誾千代が嬉しそうに笑った。
「酒もありますぞ」
小野が酒樽を示した。
「ほう」
利家の顔がほころぶ。
「それはありがたい」
小野が酒を注ぐ。
忠勝も盃を差し出した。
「俺にも頼む」
「もちろんです」
そこへ、また人影がやって来た。
「ずいぶん楽しそうだな」
先ほど茶会に出席していた徳川家康だった。
その手には、盃がある。
「魚食べる?」
「いただこう」
家康はそう言うと、当たり前のように腰を下ろした。
小野が酒を勧める。
「一献いかがです」
「かたじけない」
盃に酒が注がれる。
十時が、その光景をぼんやり眺めた。
本多忠勝や前田利家や徳川家康と一緒に魚を食うことになるとは思っていなかった。
その時だった。
誾千代が、ふと顔を上げた。
「十時」
「はい?」
「あれ何?」
誾千代が指した先を、十時も見る。
少し離れた道を、一人の若い男が歩いていた。
片目を覆い、身にまとっているのは白装束。
その後ろには、数人の供が続いている。
宴会には目もくれない。
ひどく真剣な顔で、まっすぐ秀吉の本陣へ向かっていた。
「……白装束ですなあ」
「白装束って、死ぬ時に着るやつだよね?」
「まあ、そうですな」
「なんで?」
「さあ……?」
誾千代と十時は、そろって首を傾げた。
「おい、そこの二人!」
突然、後ろから声が飛んだ。
振り返ると、忠勝が盃を片手に二人を見ている。
隣では利家も、すっかり上機嫌になっていた。
「何?」
「こっちへ来い!」
「なんで?」
「俺たちが槍の戦い方について、ありがたーい話をしてやる」
利家も大きく頷く。
「滅多に聞ける話ではないぞ。心して聞け」
「えー!」
誾千代が露骨に嫌な顔をした。
「座学は嫌い!」
「誰が座学と言った!」
「だって二人とも座ってる」
「そういう意味ではない!」
白装束の若者は、そのまま秀吉の本陣へと消えていった。
誾千代はもう見ていなかった。
さらに。
「殿だけ先に行かれるとは」
細川忠興が姿を見せた。
その後ろには蒲生氏郷。
上杉景勝までいる。
「いっぱい来た」
「来ましたなあ……」
魚が足りなくなりそうだった。
「もっと焼こう」
「焼きましょう」
兵たちが追加の魚を火へ並べる。
酒が回る。
笑い声が増える。
いつの間にか、ただの焼き魚は宴会になっていた。
◇
「ずいぶん賑やかですな」
また一人、宴席へやって来た。
誾千代が振り向く。
「あ!」
知っている顔だった。
「くろちゃん!」
「誾千代ちゃん」
黒田官兵衛が楽しそうに笑った。
「またまた、面白い付き合いをしているな」
「魚食べる?」
「そのつもりで来た」
官兵衛が手にしていた包みを持ち上げる。
「甘い物もあるぞ」
「ほんと!?」
「牡丹餅だ」
「食べる!」
「魚を食べてからにしなさい」
「はーい」
その時だった。
「甘味をいただかれるのでしたら、お茶もあった方がよろしいでしょう」
穏やかな声がした。
官兵衛が振り向く。
「利休殿」
千利休が立っていた。
「よろしいのか?」
「ええ」
利休は静かに笑った。
「せっかくですから、私も一服いただきましょう」
「利休さんも魚食べる?」
「もちろん」
誾千代が嬉しそうに牡丹餅を持ち上げた。
「私、お茶好きだよ」
「それは何より」
「牡丹餅と一緒に飲むお茶は最高だよね」
「……」
利休が一瞬だけ黙った。
それから笑った。
「では、とびきりの一服を」
◇
「……何ですか、これ」
遅れてやって来た薦野増時が、立ち尽くしていた。
「魚焼いてる」
「それは見れば分かります」
薦野の目が、宴席をゆっくりと巡る。
本多忠勝。
前田利家。
徳川家康。
細川忠興。
蒲生氏郷。
上杉景勝。
黒田官兵衛。
その横では、千利休が茶を点てている。
薦野はもう一度、誾千代を見た。
「……なんで、こんなことになってるんです?」
「みんな来た」
「……そうですか」
「薦野も食べる?」
「……食べます」
薦野が黙って目を閉じた。
もう考えるのをやめた。
◇
夕刻。
宗茂が立花の陣へ戻ってきた。
妙に騒がしい。
笑い声がする。
酒の匂いがする。
魚の焼ける匂いもする。
宗茂は足を止めた。
幔幕の向こうを見る。
各大名が上機嫌で酒を酌み交わしていた。
宗茂は黙った。
「旦那様!」
誾千代が気づいて、手を振った。
「魚あるよ!」
宗茂はもう一度、宴席を見た。
朝、陣を出た時には。
こんな宴会はなかった。
「……何をした」
「魚焼いた」
宗茂は集まった面々を見る。
それから、誾千代を見る。
しばらく黙っていた。
どうして魚を焼いただけで、こうなるのか。
やはり。
宗茂には、いまだによく分からなかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
更新は21時です( ᴗ ᴗ)⁾⁾
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