戦に来たのに暇だった
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます!
本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
生暖かい目で見てくださいm(__)m
天正十八年(一五九〇年)。
豊臣秀吉は、全国の大名に出陣を命じた。
相手は、関東に広大な領地を持つ北条氏。
北条氏政・氏直父子が秀吉の命に従わず、ついに討伐が決まったのである。
その命は、柳河の立花家にも届いた。
「小田原?」
誾千代が首を傾げた。
「ああ」
宗茂は書状から目を上げた。
「どこ、それ」
「相模だ」
誾千代は、ますます分からない顔をした。
◇
立花勢は柳河を発った。
筑後を出て、豊前へ。
海を渡り、瀬戸内を東へ進む。
畿内を抜け、さらに東海道を進んだ。
そして――相模。
小田原へ着いた誾千代は、目の前に広がる光景に息を呑んだ。
「……すごい」
見渡す限り、陣だった。
丘の上にも。
街道沿いにも。
川の向こうにも。
旗が立ち、幔幕が張られ、兵が行き交っている。
馬が繋がれ、荷駄が列をなし、あちこちから炊事の煙が上がっていた。
鍋をかき回す者がいる。
槍を手入れする者がいる。
馬に水を飲ませる者がいる。
荷を運ぶ者、薪を抱える者、声を張り上げて兵を呼ぶ者。
一つの陣を抜けても、また次の陣がある。
その向こうにも、さらに陣が続いていた。
見たことのない旗も多い。
秀吉がこの戦のために動かした兵は、二十万を超える。
すべてが小田原に集まっているわけではない。
北条方の支城へ向かった軍もあれば、海から包囲する水軍もいる。
それでも、これまで誾千代が見たどの戦よりも大きかった。
「町みたい」
「町より大きい」
宗茂の視線は、その先へ向いていた。
小田原城。
関東に勢力を広げてきた北条氏の本拠である。
城には、北条方の兵が籠もっている。
そして、その小田原城もまた、誾千代がこれまで見てきた城とは違った。
城だけを守っているのではない。
堀と土塁が山や谷を越え、城下町までぐるりと囲んでいる。
「……どこまでが城なの?」
誾千代には、その境目すらよく分からなかった。
「どうやって攻めるの?」
「囲む」
「囲む?」
「ああ」
周りの城を落とす。
道を塞ぐ。
兵糧の出入りを断つ。
助けも入れない。
逃げることも許さない。
そうして、小田原城が音を上げるまで待つ。
「ふうん」
誾千代は小田原城を見た。
◇
初めのうちは、まだ戦らしかった。
陣触れがあり、兵が動いた。
北条方との小競り合いも起きた。
遠くから鉄砲の音が響く日もあった。
誾千代も十時も、いつ呼ばれても動けるようにしていた。
だが。
十日が過ぎた。
北条は出てこない。
二十日が過ぎた。
まだ出てこない。
ひと月が過ぎた。
「十時」
「はい」
「暇だね」
「暇ですなあ」
二人は並んで、小田原城を眺めていた。
今日も城門は閉じている。
昨日も閉じていた。
その前も閉じていた。
立花の陣では、兵が槍を磨いている。
別の兵は草鞋を直している。
飯を炊く煙が上がっている。
戦場である。
間違いなく、戦場である。
だが、暇だった。
「いつ戦うの?」
「さあ」
◇
暇なのは、外だけではなかった。
小田原城の中。
物見に立った北条方の兵が、城外を眺めていた。
今日も豊臣方の陣が見える。
昨日と同じ場所に旗がある。
その向こうにも旗。
さらに向こうにも旗。
「……まだいるな」
「いるな」
「帰らんのか」
「帰らんだろうな」
風が吹いた。
「……暇だな」
「暇だな」
◇
そんな日が続いた、ある日のこと。
誾千代と十時は、陣の間を歩いていた。
三つ葉葵。
細川の九曜。
蒲生の対い鶴。
知っている紋もあれば、見たことのないものもある。
兵が行き交い、馬が歩き、武者たちがあちこちで話している。
誾千代が、ふと足を止めた。
「十時」
「はい」
「あれ」
十時が誾千代の指す方を見る。
「……何です?」
「角」
「角?」
人混みの向こうを、一人の武将が歩いていた。
黒い具足。
その頭には――大きな鹿の角。
「鹿?」
「人です」
「それは分かってる」
誾千代はじっとその武将を見た。
だが、すぐに視線が下へ動いた。
「見て、あの槍」
男が手にしている槍だった。
長い柄。
鋭く伸びた、大きな穂先。
何人もの武者が槍を携えている中で、その一本だけが妙に目を引いた。
「……最高にかっこよくない?」
十時も目を凝らした。
「確かに……なんか雰囲気ありますなあ」
「でしょ?」
二人して、じっと見る。
すると。
男が足を止めた。
こちらを向く。
目が合った。
「……」
「……」
大きな鹿角を戴いた武将が、にやりと笑った。
「お嬢ちゃん、お目が高いな」
誾千代の目が輝いた。
男の名は――本多忠勝。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
更新は21時です( ᴗ ᴗ)⁾⁾
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