↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西国最強の夫婦まかり通る! 〜旦那様は今日も素敵です〜  作者: 平子 天陽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
61/71

雨が止まない

こんにちは! あまはる です!

この物語を手に取っていただきありがとうございます!

本作は史実を元にしたフィクションです。

実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。

生暖かい目で見てくださいm(__)m

 雨が、降り続いていた。

 柳河の町は、朝から雨音に包まれていた。


 屋根を叩く音。

 軒先から落ちる雫。

 水路には絶え間なく雨粒が落ち、濁った水がいつもより速く流れている。


 降っては止む、という雨ではない。

 昨日も、その前の日も。

 空はずっと、厚い雲に覆われていた。


 雨そのものは珍しくない。

 だが――。


「旦那様」


 誾千代が、水路を覗き込んだ。


「昨日より増えてる」


「ああ」


 隣に立つ宗茂も、水面を見ていた。

 水はすでに石垣の半ば近くまで上がっている。

 流れてくる枝や葉も多い。


「小野」


「はっ」


「下流は」


「先ほど見て参りました。まだ余裕はあります」


 小野鎮幸が水路へ目をやった。


「ですが、このまま降り続けば、低いところから水が溢れるかと」


 宗茂が空を見る。

 厚い雲が、柳河の上を覆っている。

 雨は止む気配がなかった。


「上流は?」


「そちらも見て参ります」


「私も行く」


 宗茂が歩き出す。


「私も」


 誾千代も当然のようについていった。

 小野がその後ろを追う。


「姫様、足元にお気をつけくだされ」


「分かってる」


 言った直後、誾千代の草履が泥に滑った。


「わっ」


 宗茂が腕を掴む。


「…………」


「…………」


 誾千代は気まずそうに歩き出した。


 ◇


 町へ出ると、いつもの柳河とは様子が違っていた。

 水路の流れが速い。

 橋の下では、濁った水が渦を巻いている。

 家々の軒からは滝のように雨水が落ち、道の窪みには大きな水溜まりができていた。

 宗茂たちは、いくつもの水路を見て回った。


「ここも高いね」


「ああ」


「昨日は、あの石が見えてたのに」


 誾千代が指を差す。

 水際に並んだ石の一つが、今日はほとんど水に沈んでいる。

 宗茂が誾千代を見る。


「覚えているのか」


「うん。前に見て回ったから」


 小野が頷いた。


「姫様には、城内だけでなく水場の様子も見ていただきましたな」


「こっちも昨日より高いよ」


 宗茂は水面へ視線を戻した。


「……そうか」


 そのまま橋を渡り、さらに先へ進む。

 田の近くまで来ると、様子はもっと悪かった。

 水路と田の境が分かりにくくなっている。

 低いところには水が溜まり、田へ流れ込んでいた。

 一人の百姓が、雨の中で水の流れを見ている。


 宗茂が声をかけた。


「いつからだ」


「今朝からです、殿様」


「昨日までは」


「ここまでは来とりませんでした」


 百姓が田を指差す。


「このまま降ったら、今夜にはもっと上がります」


「この先はどこへ抜ける」


「向こうの水路です。ただ、あっちもいっぱいになりかけとります」


 誾千代が水の流れる先を見る。


「あっちが溢れたら?」


「こっちへ戻ってきますな」


「田だけ?」


「いや」


 百姓の顔が曇った。


「もう少し上がれば、下の家々まで来るかもしれません」


 宗茂が顔を上げた。


「何軒ある」


「十軒ほどです」


「小野」


「はっ」


「見に行くぞ」


 宗茂が歩き出す。

 誾千代も、もう一度田を見てからその後を追った。

 雨が強くなった。


 ◇


 昼を過ぎる頃には、報告が次々と城へ届き始めた。


「東の水路、水位が上がっております!」


「城下南の道に水が出始めました!」


「田へ水が入り始めております!」


 執務の間に、濡れた男たちが次々と入ってくる。

 広げられた絵図を囲み、宗茂、小野、薦野が立っていた。

 誾千代もその横から覗き込んでいる。


「ここ」


 宗茂が絵図を指した。


「人を出せ。詰まっているものがあれば除けろ」


「はっ」


「低いところに住む者には、今のうちに荷を上げさせろ」


「避難もさせますか?」


 宗茂は少し考えた。


「老人と子どもからだ。城も開ける」


 薦野が顔を上げる。


「城へ入れるので?」


「ああ」


「承知しました。受け入れの支度をさせます」


 薦野がすぐに人を呼ぶ。

 城内も慌ただしく動き始めた。


 空いている部屋が開けられる。

 炊事場には薪と米が運び込まれ、濡れた者のために布や着替えも集められていく。

 女房や下女たちも総出だった。


「子どもはこちらへお願いします」


「濡れた方から中へ!」


 たまも、その中を忙しく動き回っている。

 綾の姿もあった。

 運ばれてきた荷を受け取り、空いた部屋へ人を案内している。

 誰かに命じられたわけではない。

 人手が足りないのを見て、手伝っているだけだった。


 ◇


 夕方。

 宗茂たちが城へ戻った。

 全員、ずぶ濡れだった。


「ただいまー……」


 誾千代が廊下へ上がる。

 着物の裾は泥だらけ。

  髪からも水が滴っている。


「姫様!」


 たまが飛んできた。


「何ですか、その格好!」


「雨降ってるから」


「見れば分かります!」


「たま、城の中は?」


「大丈夫です。みんなで手分けしておりますから」


「何人来た?」


「今のところ四十人ほどです。まだ増えるかもしれません」


「そっか」


 誾千代は城内を見回した。

 廊下には荷が並んでいる。

 部屋からは子どもの声も聞こえる。

 だが、混乱はしていない。

 きちんと回っている。


「なら大丈夫だね」


 誾千代はそれだけ言った。

 奥では、綾が女たちに布を渡していた。

 誾千代と目が合う。

 どちらも何も言わない。

 綾はすぐに仕事へ戻った。


「誾千代」


 宗茂の声がした。


「なに?」


「着替えろ」


「旦那様もびしょびしょだよ」


「私はまだ仕事がある」


「私もある」


「その前に着替えろ」


「旦那様も」


「…………」


「…………」


「二人とも着替えてください!」


 たまの声が廊下に響いた。


 ◇


 夜になっても、雨は止まなかった。

 むしろ、強くなっていた。

 ざあざあと降り続ける雨の音が、城の中にまで響いている。


 そのときだった。


「殿!」


 濡れ鼠になった兵が、廊下を駆けてきた。


「城下の掘割が、溢れそうです!」


 宗茂が立ち上がった。


「どこだ」


「南です! 水が土手の上まで来ております!」


「小野を呼べ。十時にも支度をさせろ」


「はい!」


「私も行く」


 誾千代も立ち上がる。

 宗茂は止めなかった。


 ◇


 雨の中、水路は昼間とはまるで違う姿になっていた。

 濁った水が、轟々と流れている。

 水面は土手のすぐ下まで迫り、波が立つたび、その縁を舐めた。


「……旦那様」


 誾千代の声が低くなる。


「これ、まずいよ」


「ああ」


 宗茂は水路の先を睨んだ。

 雨は、まだ降っている。

 上流からは、今も大量の水が流れ込んでくる。


「人を集めろ」


 宗茂が言った。


「今夜、ここを守る」


 四日目の雨が、始まろうとしていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

更新は21時です( ᴗ ᴗ)⁾⁾

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。