柳河騒乱(ただし祭り)
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます!
本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
生暖かい目で見てくださいm(__)m
しばらくたったある日。
「殿! 一揆です!」
執務の間へ駆け込んできた兵の声に、宗茂が顔を上げた。
「――何?」
「一揆が起きました!」
部屋の空気が、一瞬で張り詰めた。
肥後国衆一揆は、まだ記憶に新しい。
一揆。
その一言に、皆の胸を冷たいものがよぎった。
ついこの間まで、宗茂たちはその渦中にいたのだ。
「どこだ」
宗茂の声が低くなる。
「瀬高です。百姓たちが大勢集まっていると」
「数は」
「分かりませぬ。ただ、かなりの数だと」
宗茂は立ち上がった。
「十時」
「はっ!」
「兵を集めろ」
「すぐに!」
「私も行く!」
いつの間にか、誾千代がいた。
「誾千代」
「行く」
宗茂は何も言わなかった。
「槍取ってくる!」
誾千代は走っていった。
◇
ほどなくして、立花勢は柳河を出た。
宗茂を先頭に、十時、誾千代。
その後ろには武装した兵たちが続く。
鎧甲冑に身を固め、刀を佩き、槍を持つ。
弓を携えた兵もいる。
つい先日まで肥後で戦っていたばかりだ。
誰もが、また戦になるかもしれないと思っていた。
ところが。
瀬高へ近づいた頃だった。
どん。
どん、どん。
どこからか音が聞こえてきた。
宗茂が顔を上げる。
「……太鼓か?」
「ですな」
十時も耳を澄ませた。
さらに進む。
今度は笛の音まで聞こえてきた。
「旦那様」
「なんだ」
「なんか楽しそうだよ」
「…………」
宗茂は答えなかった。
やがて道の先に、大勢の人影が見えてきた。
「いたぞ」
十時の声に、兵たちが身構える。
宗茂も目を細めた。
確かに、大勢いる。
男もいる。
女もいる。
年寄りもいる。
子どもまでいる。
そして。
踊っていた。
「…………」
宗茂が黙った。
十時も黙った。
誾千代が目を瞬く。
太鼓が鳴る。
笛が鳴る。
その音に合わせて、百姓たちが楽しそうに身体を揺らしている。
何やら念仏を唱えている者までいた。
その脇では、食べ物まで売られていた。
籠を提げて人の間を歩く者。
酒を振る舞う者。
餅を頬張っている子ども。
「…………」
誾千代が辺りを見回した。
「……お祭りじゃん」
「…………」
「旦那様」
「なんだ」
「一揆は?」
「私に聞くな」
どんどん、と太鼓が鳴る。
歓声が上がった。
そんな中。
鎧甲冑に身を固め、刀を佩き、槍や弓まで携えた宗茂たちの一団は、どうしようもなく浮いていた。
そこへ、一人の農民が気づいた。
「おや、宗茂様!」
にこにこと近づいてくる。
「……なんだ」
「今から戦ですか?」
「…………」
「この前、帰ってこられたばっかりなのに。大変ですなあ」
農民はしみじみと頷いた。
「いつも我々のために戦ってくださって、ありがとうございます」
「…………」
宗茂は何も言えなかった。
隣で、誾千代が顔を伏せた。
「……笑うな」
「笑ってない」
「肩が揺れている」
農民はそんな二人を不思議そうに見ていたが、すぐに笑った。
「いやあ、それにしても今日は楽しいですなあ!」
宗茂が農民を見る。
「……何をしている」
「一揆です」
「…………」
「これが?」
「はい!」
「誰に対する一揆だ」
「誰に?」
農民が首を傾げた。
「…………」
「…………」
「誰でしょうなあ?」
「知らずにやっているのか」
「いやあ、最近、あっちでもこっちでも一揆っちゅう話を聞くでしょう?」
「……まあな」
「大勢で集まって、何やらするもんだと」
「何やらとはなんだ」
「念仏唱えて踊るのもあると聞きましてなあ」
「誰から聞いた」
「さあ?」
「…………」
「楽しそうなんで、うちでもやってみようという話になりまして」
「それは一揆ではない」
「違うんですか?」
「違う」
「じゃあ、これは何です?」
「お祭り!」
誾千代が答えた。
「ああ、祭りですか!」
「そうだよ!」
「なるほど! 言われてみれば祭りですなあ!」
宗茂が何とも言えない顔で農民を見る。
その横を、籠を提げた男が通り過ぎる。
「餅はいらんかねー!」
誾千代の目がそちらへ動いた。
十時の目も動いた。
「…………」
「…………」
宗茂が二人を見る。
「買わんぞ」
「まだ何も言ってないよ」
「俺も何も言ってませんぞ」
太鼓が鳴った。
どん、どん、どん。
踊りの輪が大きくなる。
子どもたちが笑いながら駆けていく。
女たちが手を叩く。
男たちは酒を酌み交わしている。
戦う者など、一人もいない。
宗茂は長く息を吐いた。
「……帰るぞ」
「えっ」
誾千代が振り返る。
「もう?」
「一揆ではないと分かった」
「せっかく来たのに」
「完全武装で祭りに参加する気か」
誾千代は自分の格好を見る。
鎧。
槍。
宗茂を見る。
鎧。
刀。
十時を見る。
鎧。
槍。
その後ろには、弓や槍を持った兵たちがずらりと並んでいる。
「…………」
誾千代は少し考えた。
「脱げばいいんじゃない?」
「そういう問題ではない」
「じゃあ、槍だけ置いてくる」
「誾千代」
「ちょっとだけ」
「帰るぞ」
「でも、餅も売ってるよ?」
十時が小さく頷いた。
「売っておりますな」
「十時」
「はい」
「お前まで乗るな」
そのとき。
「宗茂様も一緒にどうですかー!」
向こうから農民たちの声が飛んできた。
「せっかくですから!」
「踊っていきなされ!」
「酒もありますぞー!」
宗茂は黙った。
誾千代が、期待に満ちた目で見上げる。
十時も見ている。
「…………」
「旦那様」
「…………」
「ちょっとだけ」
宗茂は空を仰いだ。
太鼓が鳴った。
笛も鳴った。
柳河は、今日も平和だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
更新は21時です( ᴗ ᴗ)⁾⁾
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