残ったもの
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます!
本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
生暖かい目で見てくださいm(__)m
「――放し討ち?」
秀吉が聞き返した。
「はい」
浅野長政は頭を下げた。
「隈部親永ら十二人に刀を持たせ、立花方からも同じく十二人を出しました」
「宗茂が、それを願い出たのか」
「はい」
秀吉の眉が上がった。
「……馬鹿なことをする」
長政は黙っている。
「わざわざ相手に刀を持たせたか」
「はい。立花方にも、手傷を負った者がございます」
「ほれ見ろ」
秀吉は呆れたように息を吐いた。
「それで?」
「隈部親永以下、十二人。すべて討ち果たしました」
「そうか」
秀吉は短く答えた。
それから、長政を見る。
「おぬしも見ておったのだろう」
「はい」
「どうであった」
長政は少し考えてから答えた。
「見事な最期でございました」
「そうか」
「親永らは最後まで刀を手に戦い、立花の者たちも、手加減なくそれに応じました」
秀吉は黙った。
「……そこまでしてやったか」
「はい」
「わしの命には背かなんだのだな」
「はい」
秀吉はしばらく黙っていた。
「まったく」
呆れたような声だった。
「面倒なことを考える男よ」
長政は何も言わなかった。
「だが――」
秀吉の口元がわずかに緩む。
「さすがは立花よ」
◇
それから、しばらくして。
柳河城。
「薦野」
「は」
呼ばれて広間へ入った薦野は、宗茂の前に座った。
「隈部の一族について調べてくれ」
「隈部の?」
「ああ。親永殿に連なる者で、残っている者を探してほしい」
「……何をなさるおつもりで?」
宗茂は手元の書状から目を上げた。
「隈部の名を残す」
薦野が目を瞬いた。
「名を、ですか」
「ああ」
「しかし、親永殿らは――」
「討った」
宗茂は静かに言った。
「殿下の命には従った」
「はい」
「だが、隈部の家までここで絶やす必要はない」
薦野はしばらく宗茂を見ていた。
やがて、深く頭を下げる。
「……承知いたしました」
後日。
親永と同じ隈部の血を引く男が、宗茂の前へ呼ばれた。
宇野源右衛門尉成真という。
何を命じられるのか分からないのだろう。
成真の顔には、わずかに緊張が浮かんでいた。
「面を上げてくれ」
「は」
成真が顔を上げる。
宗茂はまっすぐ彼を見た。
「隈部の名跡を継いでもらいたい」
「……私が、でございますか」
「ああ」
成真は言葉を失った。
「親永殿らは討った」
「……はい」
「だが、隈部の名まで失わせるつもりはない」
成真の顔が歪みかけた。
すぐに頭を下げる。
「……ありがたき、お言葉にございます」
「これからは、立花に仕えてもらう」
「はっ」
成真は深く、深く頭を下げた。
隈部親永は、もういない。
けれど。
隈部の家まで、あの日に消えたわけではなかった。
◇
「隈部さんの?」
「ああ」
誾千代は宗茂の前に座っていた。
「親永殿と同じ一族の者に、隈部の名跡を継がせた」
「……そうなんだ」
「立花で召し抱える」
「そっか」
誾千代はそれだけ言った。
少しだけ、嬉しかった。
隈部さんはいなくなった。
あの十一人も、もういない。
それでも、全部がなくなったわけじゃない。
「旦那様」
「なんだ」
「……ありがとう」
宗茂が誾千代を見る。
「俺に礼を言うことではない」
「うん」
誾千代は頷いた。
分かっている。
それでも、言いたかった。
「でも、ありがとう」
「……そうか」
それきり、話すことがなくなった。
部屋が静かになる。
誾千代は膝の上に置いた自分の手を見ていた。
黒門から、ずっと泣かなかった。
親永が倒れた時も。
十二人に頭を下げた時も。
柳河へ戻ってからも。
旦那様が悪いわけじゃない。
それは分かっていた。
旦那様は、できることをした。
殿下の命には背かなかった。
それでも、親永たちを縛ったまま殺さなかった。
最後まで刀を持たせた。
武士として戦わせた。
死んだあとには、その家まで残そうとした。
だから。
ずっと、泣けなかった。
「誾千代」
呼ばれて、顔を上げる。
「なに?」
宗茂は何も言わず、誾千代を見ていた。
そして。
静かに、両腕を広げた。
「泣いてもいいんだぞ」
それを見た途端。
「うわあぁぁぁん!」
誾千代は宗茂の胸に飛び込んだ。
「隈部さん、死んじゃったぁ……!」
堪えていたものが、一気に溢れた。
戦は、もう終わっていたのに。
降りたのに。
もう敵じゃなかった。
なのに。
隈部さんは、もういない。
どうしても、分からなかった。
誾千代は宗茂の胸に顔を押しつけたまま、声を上げて泣いた。
宗茂は何も言わなかった。
ただ、誾千代が泣き止むまで。
ずっと、その身体を抱いていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
更新は21時です( ᴗ ᴗ)⁾⁾
肥後国衆一揆編、完結です。
そろそろ夫婦戦国コメディに戻りたい…。




