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西国最強の夫婦まかり通る! 〜旦那様は今日も素敵です〜  作者: 平子 天陽


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十二人

こんにちは! あまはる です!

この物語を手に取っていただきありがとうございます!

本作は史実を元にしたフィクションです。

実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。

生暖かい目で見てくださいm(__)m

 親永らの放し討ちが決まった。

 隈部方、十二人。

 立花方からも、同じく十二人を出す。

 その十二人を決めるため、宗茂は家臣たちを広間へ集めていた。


「十二人、ですか」


 薦野が言った。


「ああ」


 宗茂の前には、家臣たちの名が書かれた紙が置かれている。

 相手にも武器を持たせる。

 城村城まで親永とともに戦った者たちだ。

 形だけの相手を出すわけにはいかなかった。


「殿」


 声が上がった。

 十時だった。


「俺、出ます」


 宗茂が顔を上げる。


「十時」


「はい」


「何をするか、分かっているな」


「もちろん」


 十時はあっさり答えた。


「向こうも本気で来るんでしょう?」


「ああ」


「だったら、俺が出ます」


 薦野が横から口を挟む。


「簡単に言いますが、相手は隈部親永らですよ」


「知ってますよ」


 十時は宗茂を見た。


「殿が、最後まで武士として戦わせるって決めたんでしょう」


「ああ」


「だったら、こっちも強い奴を出さないと」


 十時の顔から、いつもの笑みが消えた。


「立花の強さを見せてやりましょう」


 宗茂はしばらく十時を見ていた。


「……分かった」


「ありがとうございます」


「十時を入れる」


「はっ」


 十時が頭を下げる。

 一人、また一人と名が決まっていく。

 いずれも、幾度も戦場をくぐってきた者たちだった。

 やがて十二人が揃った。

 宗茂は、その顔を見渡す。

 最後に十時を見た。


「十時」


「はい」


「頼んだぞ」


 十時の表情が、ほんの少しだけ変わった。


「……はい」


 深く頭を下げた。


 ◇


 天正十六年五月二十七日。


 柳河城の一角にある、黒門。


 門を入った先の広場には、立花方の十二人が集められていた。

 少し離れたところには宗茂がいる。


 その傍らには、この放し討ちを許した浅野長政の姿もあった。

 長政は何も言わず、並んだ十二人を見ている。


 誾千代もまた、宗茂の近くで黙ってその光景を見つめていた。

 小野が、十時の腰へ目を向ける。


「十時」


「はい?」


「槍じゃなくて大丈夫か」


 十時が腰の刀を軽く叩いた。


「俺、槍が一番得意なんですけどね」


「だから聞いている」


「大丈夫ですよ」


 十時は笑った。


「刀でも強いですよ、俺」


「自分で言うか」


「本当ですから」


 小野が呆れたように息を吐いた。


「なら、しっかりやれ」


「もちろん」


 やがて、門の向こうから足音が聞こえてきた。

 親永を先頭に、十二人の男たちが姿を現した。

 身なりを整え、腰には刀を帯びている。


 親永が黒門をくぐる。

 その後ろから、一人、また一人。

 最後まで親永とともに戦い、柳河まで来た者たちが広場へ入ってくる。

 十二人が揃った。

 親永が立花方を見渡す。


「……随分、強そうなのを揃えたな」


「そりゃあ、立花ですから」


 聞き覚えのある声に、親永が目を向けた。


「……お前」


「どうも」


 十時が笑う。


「またお前か」


「そうみたいですねえ」


 親永の視線が、十時の腰へ落ちた。


「今日は槍じゃねえんだな」


「そっちも、あの太刀じゃないでしょう」


 親永も自分の腰へ目を落とす。


「まあな」


「お互い様ですね」


「違えねえ」


 親永が笑った。


「隈部殿」


 宗茂の声が響いた。

 親永がそちらを見る。


「ああ」


「これより、殿下の御命により、あなた方を討つ」


「承知している」


 親永は落ち着いた声で答えた。

 そして、宗茂をまっすぐ見た。


「宗茂殿」


「はい」


「最後に、一つだけ」


 親永は、腰の刀に目を落とした。


「こうして、刀を持って最期を迎えられる」


 それから宗茂をまっすぐ見た。


「隈部一同、感謝申し上げる」


 親永が深く頭を下げた。

 その後ろで、十一人も一斉に頭を下げる。

 宗茂はしばらく動かなかった。

 やがて、自らも深く頭を下げる。


「……しかと、承った」


 親永が頭を上げた。

 それから、後ろに並ぶ十一人を振り返る。


「お前ら」


「は」


「次は、もうちっとまともな殿に仕えろよ」


 一瞬、十一人が黙った。


「嫌ですな」


「あ?」


「ちゃんとしてなくても、殿がいいです」


「誰がちゃんとしてねえんだよ」


「殿です」


「お前なあ!」


「私も、また殿がいいです」


「俺もです」


「殿以上の殿など、おりませんよ」


「……お前らなあ」


 親永が困ったように頭を掻いた。


「だから、そういうところが馬鹿だってんだよ」


「ちょっと待ったー!」


 突然、立花方から声が飛んだ。

 十時だった。


「今のは聞き捨てなりませんねえ」


「なんだよ」


「殿以上の殿はいないって言いました?」


「言いましたな」


 親永の家臣が答える。

 十時が宗茂を示した。


「いますよ! そこに!」


「は?」


「日の本一の殿は、うちの殿です!」


「いやいや、うちの殿でしょう」


「うちです!」


「こっちです!」


「うちの殿は強いです!」


「うちの殿だって強いですぞ!」


「男前です!」


「それは負けてるな」


「それは関係あるのか」


「あります!」


 親永が思わず振り返った。


「あるのかよ!」


「大事でしょう!」


「何の勝負してんだ、お前ら!」


 これから斬り合う者たちが、なぜかどちらの殿が上かで言い争っている。

 浅野長政は、黙ってそれを見ていた。


「…………」


 やがて、宗茂を見る。


「……立花殿」


「はい」


「私は、何を見せられているのだ」


「……申し訳ございません」


「なぜ立花殿が謝る」


 親永が堪えきれずに吹き出した。


「ぶっ……ははははっ!」


 その笑いにつられて、後ろの十一人も笑う。

 十時まで笑っていた。

 これから死にゆく者たちが、まるでそんなことなど忘れたように笑っていた。

 やがて、親永が腰の刀へ手をかけた。


「――じゃあ、やるか」


 笑い声が止んだ。

 空気が変わった。

 親永が刀を抜く。

 十一人も続く。

 鞘から刃の抜ける音が、次々と広場に響いた。


 立花方の十二人も、それぞれ刀を抜いた。

 二十四人が向かい合った。


 親永が前へ出る。

 その正面へ、十時が出た。

 目が合う。


「あの時の続きですね」


「ああ」


 城村城で、一度だけ刃を交えた。

 あの時は、決着がつかなかった。

 親永が刀を構える。


「今度は途中で終わらねえぞ」


「でしょうね」


 十時も刀を構えた。


「望むところです」


 宗茂が手を上げた。

 広場から音が消えた。

 誾千代は黙って親永を見ていた。

 宗茂の手が下りる。


「始め!」


 二十四人が、一斉に動いた。

 親永が地を蹴る。

 十時も前へ出た。

 刃と刃がぶつかった。

 甲高い音が弾ける。


「っ!」


 十時の腕に重い衝撃が走った。

 親永がさらに踏み込む。

 二撃。

 三撃。

 十時が受け、流し、横へ回る。


「やっぱり重いですねえ!」


「余裕そうじゃねえか!」


「喋るくらいはできますよ!」


 十時が斬り返す。

 親永が身を引いた。

 切っ先が胸元を掠める。


「危ねえな!」


「切るつもりでしたから!」


 すぐ横でも、刀と刀がぶつかっていた。

 最初こそ互いに正面の相手へ向かったが、すぐに形は崩れた。

 押す者。

 下がる者。

 相手を替え、斬り込む者。

 広場のあちこちで怒号と刃の音が重なる。


 親永が斬り込む。

 十時が受ける。

 そのまま刀を流し、親永の懐へ踏み込んだ。


「おっ」


 親永が身を捻る。

 刃が袖を裂いた。


「やるじゃねえか」


「言ったでしょう」


 十時が刀を構え直す。


「刀でも強いって」


「自分で言うか、普通」


「強いんだから仕方ないでしょう」


「気に入らねえなあ!」


 親永が笑った。

 また刃がぶつかる。

 その時だった。


「殿!」


 声がした。

 親永の目が一瞬だけ動いた。

 供の一人が膝をついている。

 肩口から血が流れていた。


「余所見!」


 十時が斬り込む。

 親永は咄嗟に受けた。


「っと!」


「戦ってる最中ですよ!」


「分かってる!」


 親永が押し返す。

 横で刀が振り下ろされた。

 男が倒れた。

 親永の顔から笑みが消える。


 だが、十時は待たない。

 再び刃が来る。

 親永も斬る。

 刀がぶつかる。

 離れる。

 また踏み込む。

 その間にも、広場のあちこちで戦いは続いていた。


 一人。

 また一人。

 倒れていく。


 暇だと言えば呆れられた。

 庭で木を切れば、また始まったと笑われた。

 立花の兵に稽古をつければ、横から口を出された。

 ついこの間まで、そうしていた。


「……ほんと」


 親永が息を吐いた。


「馬鹿ばっかりだな」


「あ?」


「俺についてくるなんてよ」


 十時は何も言わなかった。

 また一人、倒れた。


「最後まで付き合いやがって」


 親永は笑った。


「ほんと、馬鹿ばっかりだ」


 十時が刀を構えたまま言った。


「いい家臣じゃないですか」


「だろ?」


 親永はすぐに答えた。


「自慢なんだよ」


 そして、地を蹴った。


「おおっ!」


 十時も前へ出る。

 刀が激しくぶつかった。

 親永が押す。

 十時が耐える。

 刃と刃が擦れる。

 十時が身体をずらした。

 親永の力が流れる。

 その隙へ斬り込む。

 親永が下がった。


「……やっぱ強えな、お前」


「知ってます!」


「やっぱ気に入らねえ!」


 親永がまた笑った。

 十時も笑う。


 二人は再びぶつかった。

 何度目かも分からない刃の音が響く。


 やがて。

 その音が、少しずつ減っていった。

 親永が周囲を見る。


 もう、立っている仲間はほとんどいなかった。

 肥後から来た者たち。

 城村城でともに戦った者たち。

 柳河で、ともに春を迎えた者たち。

 見慣れた顔が、地面に横たわっている。


「……先に行きやがって」


 返事はない。

 親永は、しばらくその顔を見ていた。

 それから刀を握り直す。


「宗茂殿!」


 声が広場に響いた。

 宗茂が親永を見る。


「いい家臣持ってんな!」


 宗茂は何も言わなかった。

 ただ、深く頭を下げた。

 親永は倒れた仲間たちを見る。


「……負けてねえけどな」


 少しだけ笑った。


「俺も、いい奴ら持ってたからよ」


 宗茂はもう一度、頭を下げた。

 親永が十時へ向き直る。


「待たせたな」


「いえ」


 十時は刀を構えた。

 親永も構える。

 もう二人とも、息は荒い。

 親永の肩から血が流れていた。

 十時の頬にも、細い傷が走っている。


「行くぞ」


「はい」


 親永が踏み込んだ。

 十時も出る。

 刀が交差した。

 親永の刃が十時の肩口を掠める。

 同時に、十時の刀が親永を捉えた。


「……っ」


 親永の身体が止まった。

 一歩。

 後ろへ下がる。

 刀が、手から落ちた。

 親永の膝が土につく。

 十時は動かなかった。

 親永が顔を上げる。


「……やっぱ」


 苦しそうに息を吐く。


「強えな、お前」


 十時は答えなかった。

 親永はふっと笑った。

 それから、倒れている仲間たちへ目を向けた。


「……待ってろよ」


 小さな声だった。

 十時が刀を握り直す。

 親永は目を閉じた。


「頼む」


 十時は一度だけ息を呑んだ。


「……承知」


 刀が振り下ろされた。

 親永の身体が、ゆっくりと倒れた。

 広場から音が消えた。

 隈部方十二人。

 もう、立っている者はいなかった。

 十時はしばらく動かなかった。

 やがて、刀を下ろす。


「……強かったですよ」


 返事はなかった。

 誾千代も動かなかった。

 泣かなかった。

 ただ、倒れた親永を見ていた。


 ◇


 浅野長政は、しばらく何も言わなかった。

 倒れた十二人。

 血のついた刀を手に立つ、立花の者たち。

 その両方を見た。


「……立花殿」


「はい」


「これが、そなたの望んだ形か」


「はい」


 長政は再び親永たちへ目を向けた。

 そして、ゆっくり息を吐いた。


「殿下には、私からも申し上げよう」


「お願いいたします」


 宗茂は深く頭を下げた。

 それから、親永のもとへ歩いていく。

 十時が宗茂に気づいた。


「殿」


「怪我は」


「これくらいなら」


「そうか」


 宗茂は親永の前で足を止めた。

 しばらく、その顔を見つめる。


「丁重に弔え」


「はっ」


 宗茂は深く頭を下げた。

 立花の者たちも、それに続いた。


 少し遅れて。

 誾千代も、黙って頭を下げた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

更新は21時です( ᴗ ᴗ)⁾⁾

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