殿下の命
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます!
本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
生暖かい目で見てくださいm(__)m
翌朝。
誾千代が広間へ顔を出すと、宗茂はすでに机に向かっていた。
「旦那様」
「ああ」
宗茂は書状から顔を上げた。
「誾千代」
「ん?」
「話がある」
「なに?」
「親永らについて、殿下から命が下った」
誾千代の顔から、少しだけ笑みが消えた。
「隈部さんたち?」
「ああ」
「なんて?」
宗茂は一度、手元の書状へ目を落とした。
「討てとの仰せだ」
誾千代は、しばらく動かなかった。
「……誰を?」
「親永をはじめ、預かっている者たちだ」
「なんで?」
「一揆を起こした咎だ」
「でも」
すぐに言葉が出た。
「もう降りたじゃん」
「ああ」
「戦も終わったよ」
「ああ」
「ずっと柳河にいたじゃん」
「そうだ」
誾千代は宗茂を見つめた。
「なのに、殺すの?」
「ああ」
「……なんで」
宗茂は答えなかった。
一揆を起こした。
兵を集めた。
秀吉の命に背き、何か月も戦った。
そのために死んだ者もいる。
降伏したから、それまでのことがなくなるわけではない。
「……旦那様が、やらないと駄目なの?」
「ああ」
宗茂の答えは短かった。
「殿下の決定だ」
誾千代は俯いた。
「……そっか」
旦那様が決めたことじゃない。
それは分かっている。
でも。
嫌だと思った。
「いつ?」
「まだ決めていない」
「隈部さんたちには?」
「まだ伝えていない」
「……そっか」
宗茂の顔は変わらない。
◇
誾千代が広間を出たあと、宗茂はもう一度、書状へ目を落とした。
親永らを成敗せよ。
命は覆せない。
預かったのは宗茂だ。
ならば、その命を受けるのも宗茂だった。
宗茂は書状を置いた。
「薦野」
「は」
「浅野殿へ使いを出せ」
薦野が顔を上げる。
「浅野様へ?」
「ああ」
「何とお伝えいたしますか」
「親永らの処断について、申し入れたいことがあるとな」
「申し入れ、にございますか」
「ああ」
薦野は宗茂を見た。
「……どのような」
「放し討ちにする」
薦野の目が見開かれた。
「放し討ち……」
「親永らに武器を持たせる」
「殿」
「こちらからも、同じ数の者を出す」
薦野はすぐには答えなかった。
「それでは、こちらにも死人が出ます」
「分かっている」
「ならば、なぜ」
宗茂は薦野を見た。
「親永らは降った」
「……はい」
「降った後、逃げたか」
「いいえ」
「再び兵を挙げたか」
「いいえ」
「ならば、縛って首を刎ねるつもりはない」
薦野が黙った。
「だが、殿下の命にも背かん」
宗茂は立ち上がった。
「浅野殿に許しを得る」
◇
数日後。
宗茂は浅野長政と向かい合っていた。
「放し討ち?」
長政が聞き返した。
「はい」
「隈部親永らをか」
「はい」
「相手にも武器を持たせると?」
「そのつもりです」
長政の眉が寄った。
「宗茂。それでは処刑ではない」
「承知しております」
「戦になるぞ」
「はい」
「立花の者にも、死人が出る」
「それも承知しております」
長政は宗茂を見つめた。
「……そこまでして、なぜだ」
「親永らは一揆を起こしました」
「ああ」
「殿下の命に背き、兵を挙げた。その咎が消えるとは思っておりません」
「ならば――」
「ですが、降った後は違います」
長政が口を閉じた。
「逃げることも、再び兵を挙げることもなく、柳河で裁きを待っておりました」
「だから助命せよと?」
「いいえ」
宗茂は即座に答えた。
「殿下の御命には従います」
「では、何がしたい」
宗茂はまっすぐ長政を見た。
「最後まで、武士として扱いたい」
「……武士として」
「はい」
長政は黙った。
「降った者を縛り、そのまま首を刎ねることはしたくありません」
しばらく、沈黙が続いた。
「……親永らには、もう話したのか」
「まだです」
「私が認めなければ?」
「御命の通りにいたします」
迷いのない答えだった。
長政は深く息を吐いた。
「……分かった」
宗茂が顔を上げる。
「認めよう」
「ありがとうございます」
宗茂は深く頭を下げた。
◇
柳河へ戻った宗茂は、親永たちの屋敷へ向かった。
見張りの兵が宗茂に気づき、慌てて頭を下げる。
「殿」
「隈部殿はいるか」
「はい。中に」
「呼んでくれ」
「はっ」
ほどなくして、親永が姿を現した。
「宗茂殿?」
「ああ」
「珍しいな。あんたがこっちに来るなんて」
親永はいつもの調子で笑った。
「どうした?」
宗茂は親永を見た。
その後ろには、供の者たちがいる。
肥後からここまで、親永とともに来た者たちだった。
「隈部殿」
声の調子で何かを感じたのか。
親永の顔から笑みが消えた。
「……なんだ」
「殿下より、命が下った」
供の者たちも宗茂を見る。
誰も口を挟まない。
「あなたたちを、成敗せよとの仰せだ」
静かだった。
驚く声もなかった。
親永は、しばらく宗茂を見ていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……そうか」
それだけだった。
「隈部殿」
「ああ」
「ただ首を刎ねるつもりはない」
親永の眉が動いた。
「浅野殿より許しを得た」
「何のだ」
「放し討ちだ」
親永が目を見開いた。
後ろにいた者たちも顔を上げる。
「武器を持っていただく」
宗茂は親永だけではなく、その後ろにいる者たちを見た。
「こちらからも、同じ数の者を出す」
しばらく、誰も何も言わなかった。
やがて親永が、小さく息を吐いた。
「……そう来たか」
「ああ」
「最後まで、戦わせてくれるのか」
「そうだ」
親永は宗茂を見た。
「俺たちは死ぬんだろ」
「ああ」
宗茂は目を逸らさなかった。
親永も、逸らさなかった。
やがて親永は、ゆっくり頷いた。
「分かった」
そして、後ろを振り返る。
「お前ら」
そこには、最後まで親永についてきた者たちがいた。
「聞いたな」
「はい」
一人が答えた。
「聞きました」
もう一人が続いた。
誰一人、声を上げる者はいなかった。
親永は一人一人の顔を見た。
それから、宗茂へ向き直る。
「宗茂殿」
「はい」
親永は深く頭を下げた。
「お心遣い、感謝申し上げる」
宗茂は何も言わなかった。
親永はゆっくりと頭を上げた。
「最後まで、武士として戦える」
宗茂は、ただ親永を見ていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
ラブコメが書きたいのに、修正できない…_| ̄|○
更新は21時です…




