↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西国最強の夫婦まかり通る! 〜旦那様は今日も素敵です〜  作者: 平子 天陽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/71

戦が終わったので

こんにちは! あまはる です!

この物語を手に取っていただきありがとうございます!

本作は史実を元にしたフィクションです。

実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。

生暖かい目で見てくださいm(__)m

 肥後国衆一揆の鎮圧を知らせる報せは、次々と秀吉のもとへ届いていた。


 落ちた城。

 降った国衆。

 戦に加わった諸将の働き。

 その中に、立花宗茂の名もあった。


「また立花か」


 秀吉が書状から顔を上げた。


「はい。一日に十三度戦い、城と砦を七つ落としたほか、田中城攻めにも加わり、城村城においても働きを見せたとのこと」


「一日で七つか」


「は」


「よう働く」


 秀吉は、もう一度書状へ目を落とした。

 立花宗茂。

 高橋紹運の子にして、立花道雪の婿。

 九州仕置の後、柳河を与えられた若い大名である。


「あれは、いくつになった」


「二十ほどにございます」


「二十でこれか」


 秀吉が笑った。


「末恐ろしいな」


 ◇


 そんなことを言われているとは露ほども知らず、宗茂は柳河への道を馬で進んでいた。


「結局、栗買えなかった」


 隣を進む誾千代が、ぼやいた。


「まだ言っているのか」


「だって、くろちゃんにもらった栗、美味しかったんだよ」


「そうか」


「戦が終わったら買おうと思ってたのに」


 戦っているうちに秋は過ぎ、いつの間にか冬になっていた。


「もうないかな」


「さあな」


 誾千代は前を向いた。

 道の両側には、見慣れた田畑が広がっていた。

 行き交う人の姿も、少しずつ増えている。

 しばらく進むと、その先に城が見えてきた。


「旦那様!」


「ああ」


「帰ってきた!」


 誾千代の声が弾んだ。

 約五か月に及んだ肥後の戦が、ようやく終わった。

 柳河を発った時とは、季節もすっかり変わっている。


 城へ続く道を、立花勢が進んでいく。


 その先頭を行く宗茂は、馬上でもよく目立った。

 もともと背が高い。

 具足をまとい、まっすぐ前を見て馬を進める姿は、周囲の兵の中にあってもすぐに分かる。

 何か月も戦場を駆け、幾度も兵を率いてきた。

 戦の最中もそうだった。

 宗茂が声を上げれば、兵が動く。

 進めと言えば進み、退けと言えば迷わず退く。

 若くても、もう誰もその背に迷いはしない。


 その隣を、誾千代が馬を進めていた。

 宗茂とは対照的に、髪は適当にまとめただけだった。

 短く切っていた髪も伸び、あちらこちらから跳ねている。

 頬にも、出陣した頃にはなかった日焼けが残っていた。

 本人は、まったく気にしていない。


「栗、あるといいなあ」


「まだ言うのか」


「食べたいんだもん」


 城門が近づいてきた。

 帰還を聞きつけた者たちが、次々と外へ出てくる。


「殿がお戻りだ!」


「立花勢が帰ったぞ!」


 その人垣の中に、綾もいた。

 近づいてくる二騎を見つける。

 一目で宗茂だと分かった。

 長身の宗茂は、馬上にあってもよく目立つ。

 具足をまとい、まっすぐ前を向いて馬を進める姿に、綾はしばらく目を奪われた。


 そして、その隣。

 もう一騎が、ぴたりと並んでいる。

 誾千代だった。


 二人は何か話していた。

 誾千代が宗茂を見上げる。

 宗茂がそれに答える。

 何を話しているのか、ここからでは聞こえない。

 ただ、二人が当たり前のように馬を並べていることだけは分かった。


 綾の胸の奥が、ちくりと痛んだ。

 綾は一瞬だけ目を伏せ、それから顔を上げた。


「殿、奥方様。お帰りなさいませ」


 宗茂が軽く頷いた。


「ああ」


「ただいま」


 誾千代も、それだけ返した。

 二人の視線が、ほんの一瞬だけ重なる。

 誾千代はそのまま馬を進めた。

 その時だった。


「姫様ぁぁぁぁ!!」


 城門の向こうから、絶叫が響いた。

 誾千代が驚いて馬を止める。

 たまがものすごい勢いで駆けてきた。


「姫様!」


「たま! ただい――」


「お顔が!」


「顔?」


「あんなに雪のように白かったお肌がぁぁぁ!」


 誾千代は自分の頬を触った。


「焼けております! こんがりと!」


「こんがり?」


「姫様として数少ない取り柄でしたのにぃ!」


「数少ない!?」


 たまが悲鳴を上げた。


 もともと誾千代は、透けるように肌が白かった。

 けれど、戦って、移動して、また戦って。

 そんな毎日を送っているうちに、頬も額もすっかり日に焼けていた。

 本人は、それに気づいてすらいなかった。


「それに御髪!」


「髪?」


「もう、降りてくださいませ!」


「え?」


「早く!」


 たまに急かされ、誾千代は訳も分からないまま馬を降りた。

 地面に足をつけた途端、たまが誾千代の髪を手に取る。

 短く切っていた髪はすっかり伸び、ろくに整えもしなかったせいで、あちこち好き勝手に跳ねていた。


「まああぁぁ! こんなに傷んで!」


「そう?」


「そう? ではございません!」


 誾千代は自分の髪をつまんでみた。


「別に普通だけど」


「普通ではございません!」


「最後にきちんと梳いたのは、いつですか!」


 誾千代は考えた。


「……いつだろ」


「姫様ぁぁぁ!」


「ちゃんと洗ってたよ!」


「当たり前です!」


 後ろで十時が吹き出した。


「十時殿!」


「はい?」


「何を笑っておられるのです!」


「いや、俺は――」


「姫様のおそばにおられたのでしょう!」


「おりましたけど!?」


「では、なぜこんなことに!」


「そこまで俺の仕事ですか!?」


 久しぶりに聞く、たまの大声だった。

 誾千代は笑った。

 聞こえるのは、たまに怒られる十時の声と、それを見て笑う城の者たちの声だけだった。


 誾千代は、柳河城を見上げた。

 帰ってきた。

 ようやく、そう思った。

 結局、誾千代はそのまま、たまに連れていかれた。


「まず湯浴みです!」


「お腹空いた」


「その前に湯浴みです!」


「朝から何も食べてないよ」


「では、湯浴みのあとです!」


 戦場では誰に止められても前へ出ていた誾千代だったが、たまには勝てなかった。

 久しぶりに入る湯は、驚くほど気持ちがよかった。

 髪を洗われ、何度も湯をかけられ、ようやく出られたと思えば、今度は髪を梳かれる。

 たまは櫛と椿油を持ってくると、誾千代を座らせた。


「じっとしていてくださいませ」


「痛い」


「何か月も放っておくからです!」


「痛い、痛い!」


「動かないでください!」


「たま、引っ張ってる!」


「絡まっているのです!」


 たまは容赦がなかった。

 伸びた髪を梳き、乱れたところを整え、ようやく満足したらしい。


「これで少しは姫様らしくなりました」


 たまは満足げに頷いた。

 ようやく解放された頃には、誾千代はすっかりお腹を空かせていた。

 用意された膳を見た途端、顔が明るくなる。


「やった! ご飯!」


 久しぶりの柳河の飯だった。

 温かい汁。

 炊きたての飯。

 焼いた魚に、煮た野菜。

 珍しいものなど何もない。

 それなのに、ひどく美味しかった。


「おいしい」


「ゆっくりお召し上がりください」


 たまに言われながら、誾千代は飯を頬張った。

 ふと、向かいを見る。

 宗茂がいない。


「旦那様は?」


「広間へ行かれました」


「もう?」


「はい」


 誾千代は箸を止めた。


「帰ってきたばっかりなのに?」


「帰ってこられたからこそ、ではございませんか」


「……そっか」


 何か月も城を空けていたのだ。

 待っているものがないはずがない。

 誾千代は残っていた飯を口へ運んだ。


 ◇


 広間には、案の定、書状と帳面が積まれていた。


 城を空けていた間の出来事。

 田畑のこと。

 水路のこと。

 兵糧のこと。

 届いた書状への返事。

 宗茂の前で、薦野が一つずつ説明していく。


「こちらが留守中の収支にございます。それから――」


「待て」


「はい?」


「まだあるのか」


「ございます」


 薦野が横を見る。

 そこには、もう一山あった。

 宗茂が黙った。


「……多いな」


「留守の間に溜まった分ですので」


「そうか」


「はい」


「薦野」


「はい」


「お前も肥後にいただろう」


「だから私も大変なんです!!」


 久しぶりに、柳河城の広間へ薦野の声が響いた。


 それから数日。

 柳河城にも、ようやくいつもの日々が戻り始めていた。


 朝になれば城下から人の声が聞こえ、水路には荷を積んだ舟が行き交う。


 誾千代も、戦のない暮らしに少しずつ戻っていた。

 そんな日の昼下がりだった。


「姫様」


 たまが包みを抱えてやってきた。


「黒田様より、お届け物がございます」


「くろちゃんから?」


 誾千代がすぐに寄ってくる。

 包みを開くと、中には勝栗が入っていた。

 添えられた書状を、たまが開く。


「『戦も終わりましたので』と」


 誾千代の顔が明るくなった。


「覚えてた!」


 田中城で、官兵衛から焼き栗をもらった。

 どこで買えるのかと聞いた誾千代に、官兵衛は戦が終わってからにしなさいと言った。

 あれから季節は変わった。

 結局、焼き栗を買いに行くことはできなかったけれど、官兵衛は覚えていたらしい。


「旦那様にも持っていこう」


 誾千代は勝栗を手に立ち上がった。


「行ってくる」


 そう言って部屋を出る。


 久しぶりに、何も急ぐ必要のない日だった。

 戦は終わった。

 宗茂もいる。

 たまもいる。

 城下からは、いつもの柳河の音が聞こえている。


 ようやく戻ってきた日々だった。


 ◇


 広間へ向かう途中で、誾千代は薦野と出会った。


「薦野」


「姫様」


「旦那様いる?」


「おりますが……ちょうどよろしいかと」


「なにが?」


「殿がお呼びです」


 誾千代は首を傾げた。

 広間へ入ると、宗茂は一通の書状を前に座っていた。


「旦那様」


「来たか」


「うん。くろちゃんから栗が来たよ」


 包みを見せる。


「そうか」


「旦那様にもあげる」


「あとでもらおう」


 宗茂はそう言って、手元の書状へ目を落とした。


「それより、話がある」


「なに?」


「隈部親永らについてだ」


「隈部さん?」


「ああ」


 誾千代は宗茂を見た。


「どうするの?」


「柳河で預かることになった」


 誾千代が瞬いた。


「……ここで?」


「ああ」


「隈部さんが?」


「そうだ」


 少し間があった。


「……敵だったのに?」


「もう戦は終わった」


 誾千代は手の中の勝栗を見た。

 ――戦も終わりましたので。

 官兵衛の書状にあった言葉が、ふと頭に浮かぶ。


「そっか」


 誾千代は顔を上げた。


「じゃあ、隈部さんにも栗あげようかな」


 宗茂はしばらく黙っていた。


「……好きにしろ」

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

更新は21時です( ᴗ ᴗ)⁾⁾


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。