最後の城村城
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます!
本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
生暖かい目で見てくださいm(__)m
翌朝。
城村城を囲む陣では、兵たちが次の攻撃に備えていた。
誾千代は陣の外から、城を見上げていた。
昨日の戦で壊れた柵が、ところどころ直されている。
けれど、急いで直したのだろう。
太さの違う木が並び、縄で括られただけの場所もあった。
「今日も攻めるの?」
「そのつもりだった」
隣に立つ宗茂が答えた。
宗茂は背が高い。
具足をまとえば、もともとの長身がさらに大きく見える。
けれど、威圧するような立ち方はしない。
ただ城を見上げているだけなのに、不思議と周りの兵より目についた。
戦場では、いつもそうだった。
宗茂が立っている。
それだけで、立花の兵たちは自然とその姿を見る。
昨日も、矢と鉄砲が飛び交う中で、宗茂の声一つで兵が動いた。
前へ出る時も、退く時も、誰も迷わない。
誾千代は、その横顔を見上げた。
戦続きで髪は少し乱れている。
それでも、やっぱり格好いい。
「だった?」
「ああ」
誾千代が振り返る。
陣の向こうから、何人かの武将が歩いてきていた。
「あ」
見覚えのある顔がある。
「くろちゃん」
「おはようございます、誾千代殿」
黒田官兵衛だった。
官兵衛は宗茂の前まで来ると、城村城を見上げた。
「宗茂殿」
「何か?」
「もう一度攻める前に、城へ使者を出そうと思います」
宗茂は少しだけ目を細めた。
「降伏を勧めるのか」
「ええ」
誾千代も城を見た。
「降りるかな」
「分かりません」
官兵衛が答える。
「ですが、昨日の戦を見る限り、城が長く持つとは思えません」
「兵も減っている」
宗茂が続けた。
「矢も玉薬も、そう多くは残っていないだろう」
「それでも攻めれば、向こうは戦います」
「だろうな」
「ならば、その前に聞いておくべきでしょう」
官兵衛の声は静かだった。
「まだ戦うのか、と」
誾千代は黙った。
昨日、柵の向こうで必死に戦っていた者たちの顔が浮かぶ。
「……降りてくれるといいね」
官兵衛は何も答えなかった。
宗茂も、ただ城を見ていた。
やがて、白い布を掲げた使者が陣を出た。
城村城へ向かって、ゆっくりと坂を上っていった。
◇
「降れ、か」
親永は、届けられた書状を見ながら呟いた。
黒田官兵衛からのものだった。
これ以上戦っても、勝ち目はない。
城を開き、兵を退け。
親永は最後まで読み、書状を畳んだ。
「……簡単に言ってくれるな」
いつものように笑おうとした。
だが、笑えなかった。
顔を上げる。
昨日までとは違う城内が見えた。
柵を直している者がいる。
片腕を布で吊ったまま、矢を運んでいる者がいる。
足を引きずりながら、持ち場へ戻ろうとしている者もいた。
「おい」
親永が声を掛ける。
「はい」
「お前、何してる」
足を引きずっていた男が止まった。
「持ち場へ」
「その足でか?」
「まだ歩けます」
「歩けるのと戦えるのは別だろ」
「でも、人がいません」
親永は何も言えなかった。
男は頭を下げ、また歩き出した。
その背中を、親永はしばらく見ていた。
「殿」
家臣が声を掛ける。
「返事をせねばなりません」
「分かってる」
親永は書状を握ったまま、その場に座り込んだ。
「なあ」
「はい」
「俺が、まだやるって言ったら?」
家臣は少しだけ黙った。
それから、当たり前のように答えた。
「戦います」
「……だよなあ」
親永は頭を掻いた。
「お前ら、そういう奴らだもんな」
「殿が退かぬのであれば、我らも退きません」
「それが困るんだよ」
家臣が親永を見る。
親永は、もう笑っていなかった。
「俺一人なら、好きにすりゃいい」
書状を見下ろす。
「勝てなくても戦う。最後までやる。それで済む」
顔を上げた。
「でも、お前らまで付き合うだろ」
返事はなかった。
それが答えだった。
親永は立ち上がった。
城の外が見えるところまで歩く。
眼下には、討伐軍の陣が広がっていた。
黒田。
立花。
そして、ほかの諸将の旗。
親永は、城内を見回した。
昨日より、動ける者が減っている。
それでも皆、今日も武器を手にしていた。
親永が戦う限り、こいつらも戦う。
もう、それは分かっていた。
自分が戦うと言い続ける限り。
こいつらは、最後までついてくる。
「……ほんと、馬鹿ばっかりだな」
親永が呟いた。
「殿」
「分かったよ」
振り返る。
「返事を出せ」
家臣が息を呑んだ。
「城を開ける」
「……よろしいのですか」
「よくはねえよ」
親永は笑った。
今度は、少しだけいつもの笑い方だった。
「でも、もういい」
家臣は唇を噛んだ。
やがて、深く頭を下げる。
「……はっ」
◇
「門が開く!」
声が上がった。
誾千代は顔を上げた。
城村城の門が、ゆっくりと開いていく。
兵たちが身構える。
「動くな」
宗茂が命じた。
「まだ何もするな」
立花兵がその場に留まる。
開いた門から、一人、また一人と男たちが出てきた。
誰も武器を持っていない。
傷を負った者もいる。
肩を借りなければ歩けない者もいる。
そして、その中に。
「あ」
誾千代が小さく声を上げた。
隈部親永がいた。
昨日と同じ男だった。
けれど、今日は太刀を持っていない。
親永も誾千代を見つけた。
一瞬、目が合う。
親永が笑った。
「よう、誾千代」
「……隈部さん」
「負けたわ」
あまりにもあっさり言うので、誾千代は少しだけ目を丸くした。
「うん」
「そこはもうちょっと何かねえのか?」
「だって、負けたんでしょ?」
「負けたよ」
「じゃあ、うん」
親永が吹き出した。
「お前、ほんと変わってんな」
誾千代は少し考えた。
「隈部さんに言われたくない」
「違いねえ」
親永が笑う。
その笑い声を聞いて、誾千代も少しだけ笑った。
けれど。
これで、全部が元に戻るわけではない。
死んだ者は戻らない。
焼けたものも、失ったものもある。
それでも。
もう、この城で誰かが死ぬことはない。
誾千代は、開かれた城門を見上げた。
長く肥後を覆っていた戦が、ようやく終わろうとしていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
コメディイ要素が薄れていく…。
更新は21時です(;^_^A




