山城攻め
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます!
本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
生暖かい目で見てくださいm(__)m
佐々勢の陣を離れてから、立花勢は次の持ち場へ向かった。
道は次第に細くなり、平地だった景色も変わっていく。
田畑の向こうに見えていた山々が近づき、やがて街道はその間へ入り込んだ。
「山ばっかりだね」
誾千代が馬上から辺りを見回す。
「この辺りは、こんな道ばかりですからねえ」
隣を進む十時が答えた。
道の片側は斜面。
反対側は谷になっている。
ところどころに小さな田畑が見えるが、柳河のように広々とはしていない。
山と山の間、わずかに開けた土地に家や田が集まっていた。
その先で、先行していた兵が馬を止めた。
「殿」
宗茂が顔を上げる。
「見えました」
木々の向こう。
山の中腹に、柵が見えた。
大きな城ではない。
斜面を削った平場に土塁を築き、その周りへ柵を巡らせている。
だが、そこへ続く道は細く、左右には木々が密生していた。
誾千代が目を凝らす。
「あれを落とすの?」
「ああ」
「小さいね」
「城の大きさだけ見ない方がいいですよ」
薦野が横から口を挟んだ。
「道を押さえられてますからね。放っておいて先へ行けば、後ろから襲われます」
「じゃあ、落とさないと進めないんだ」
「そういうことです」
宗茂は馬を降りた。
小野と薦野も続く。
絵図を広げることもなく、宗茂はしばらく山を見上げていた。
城へ続く道。
斜面の傾き。
木々の密集した場所。
「小野」
「はっ」
「正面から近づけ。ただし、柵までは行くな」
小野が城を見上げた。
「敵を見ますか」
「ああ」
「承知」
小野が兵を率いて前へ出た。
誾千代も槍を持つ。
「旦那様、行っていい?」
「待て」
誾千代は口を閉じた。
小野の隊が斜面へ入る。
一歩。
二歩。
まだ何も起こらない。
さらに進んだ。
その時だった。
「来るぞ!」
上から矢が飛んできた。
「盾!」
小野の声が響く。
兵たちが一斉に盾を上げた。
乾いた音が続けざまに鳴る。
矢が盾へ突き刺さり、地面にも落ちた。
「進め!」
盾を掲げたまま、兵たちが坂を登る。
すると。
今度は石が落ちてきた。
「避けろ!」
人の頭ほどもある石が斜面を跳ねながら転がる。
兵たちが左右へ散った。
隊列が乱れる。
その瞬間だった。
「出ろ!」
木々の間から、一揆勢が飛び出した。
「伏兵!」
左右から槍が突き込まれる。
小野の隊が止まった。
前には城。
左右には敵。
さらに城から兵が坂を下りてくる。
「押せ!」
一揆勢が一気に距離を詰めた。
誾千代が槍を握る。
宗茂は動かなかった。
坂の上を見ている。
左右から出てきた兵。
城から下りてきた兵。
その動きを見てから、声を上げた。
「小野、退け!」
「退くぞ!」
小野の隊が下がり始める。
一揆勢が追った。
坂を下る勢いのまま、立花勢へ迫る。
だが。
「弓!」
宗茂の声と同時に、後方で待っていた弓兵が前へ出た。
「射ろ!」
矢が一斉に放たれる。
「くっ!」
一揆勢の足が止まった。
「戻れ!」
すぐに敵も退く。
無理には追ってこない。
木々の中へ消える者。
坂を上がり、城へ戻る者。
あっという間に、最初の形へ戻った。
「……強いね」
誾千代が呟いた。
「そりゃあ、向こうにとっちゃ自分の庭ですからねえ」
十時が答える。
「どこに隠れりゃ見えないか。どこから槍を出せば嫌か。全部知ってる」
「嫌なところに城作ったんだね」
「城ってのは、だいたいそういうところに作るもんです」
「なるほど」
宗茂は二人の話を聞いていなかった。
城を見ている。
いや。
城ではない。
先ほど、一揆勢が飛び出してきた林を見ていた。
「小野」
「はっ」
「もう一度、正面へ」
小野は一瞬だけ宗茂を見る。
だが、すぐに頷いた。
「承知」
「十時」
「はい」
「兵を三十。右へ回れ。誾千代も連れていけ」
誾千代の顔が明るくなった。
「合図するまで姿を見せるな」
「分かった」
十時が兵へ手を上げる。
「行きますよ、姫様」
「うん」
誾千代たちは道を外れ、林へ入った。
◇
山の中へ入ると、誾千代たちは慣れた足取りで斜面を進んだ。
立花山で育った者たちにとって、山道そのものは珍しくない。
ただし、知らない山となれば話は別だった。
木々の間から敵が出てくるかもしれない。
十時を先頭に、周囲を警戒しながら進んでいく。
誾千代は槍を持ったまま、前を行く十時についていった。
やがて、十時が止まる。
木々の隙間から城が見えた。
先ほど一揆勢が伏せていた場所より、さらに右手だった。
正面では、小野の隊が再び動き始めている。
「また来たぞ!」
城から声が上がった。
矢が飛ぶ。
小野たちは盾で受けながら進む。
誾千代が身を乗り出した。
「まだ?」
「まだです」
十時は正面を見たまま答えた。
一揆勢が動く。
正面へ兵が集まり始めた。
先ほど伏兵が飛び出した林にも人影が見える。
だが、最初より少ない。
敵も小野の隊を見ていた。
また正面から来る。
そう思っている。
やがて。
遠くで、立花の旗が上がった。
「行きますよ!」
「うん!」
十時たちが一斉に林を飛び出した。
「右だ!」
一揆勢が振り向く。
槍を持った兵が慌てて向きを変えた。
「止めろ!」
誾千代の前へ、一人の男が出た。
槍が突き出される。
誾千代は半歩ずれた。
穂先が脇を抜ける。
同時に槍を払った。
「うわっ!」
男の槍が跳ね上がる。
その懐へ、一気に踏み込んだ。
石突きで腹を打つ。
「ぐっ!」
男が崩れた。
「次!」
「姫様、楽しそうですねえ!」
横から別の兵が来る。
誾千代は振り向きざまに槍を払った。
「うわっ!」
男の足が浮き、そのまま斜面を転がっていく。
「姫様、俺の分も残しといてくださいよ!」
十時が笑いながら前へ出た。
突き込まれた槍を横へ払い、そのまま柄を掴んで引く。
体勢を崩した男を肩から弾き飛ばした。
その横を、誾千代が駆け抜ける。
正面から来た男の槍を弾き、石突きで腹を打つ。
横から振り下ろされた槍をかわし、そのまま柄で足を払った。
「ぐっ!」
男が地面へ転がる。
「姫様、そっち行きましたよ!」
「任せて!」
誾千代が槍を振る。
男の槍ごと、大きく弾き飛ばした。
「なんだ、この女!」
「立花の奥方様ですよ!」
なぜか十時が答えた。
その時。
正面から、大きな鬨の声が上がった。
「押せ!」
宗茂の声だった。
小野の隊が一気に坂を登る。
一揆勢は誾千代たちを止めようと、右へ兵を回していた。
その分、正面が薄くなっている。
「正面を止めろ!」
敵兵が戻ろうとする。
だが、その一瞬。
「今だ!」
十時が踏み込んだ。
立花兵が一気に押す。
正面からも小野隊が柵へ取りついた。
「柵を破れ!」
木が軋む。
一度。
二度。
立花兵が身体ごとぶつかった。
柵が傾く。
「もう一度!」
大きな音を立て、柵の一部が倒れた。
「入れ!」
兵が雪崩れ込む。
右を守っていた一揆勢も退き始めた。
誾千代の前にいた男が舌打ちし、城へ振り返る。
その隙に十時が前へ出た。
「武器を捨てりゃ追いませんよ!」
男は一瞬迷った。
やがて槍を放り出した。
それを見て、周囲の兵たちも次々と武器を置いていく。
しばらくして。
山の中に、立花の旗が上がった。
◇
だが、それで終わりではなかった。
城を落とせば、また次がある。
山道を進めば、今度は前方に一揆兵が現れた。
十人ほど。
こちらを見るなり、逃げていく。
「逃げた!」
立花兵が追おうとする。
「追うな!」
宗茂の声で足が止まった。
誾千代が逃げていく兵を見る。
「行かないの?」
「誘っている」
宗茂は左右の林へ目を向けた。
静かだった。
鳥の声さえ聞こえない。
「左右へ射ろ」
弓兵が矢をつがえる。
一斉に放った。
直後。
「うわっ!」
林の中から声が上がった。
何人もの兵が飛び出してくる。
「いた!」
「危ない危ない」
十時が槍を構えた。
逃げていた兵たちも、道の向こうで振り返っている。
追っていれば、立花勢はその真ん中へ入っていた。
「小野、左。十時は右!」
「はいよ!」
「誾千代も十時と行け!」
「うん!」
再び戦が始まった。
山の中に怒号が響く。
槍と槍がぶつかる。
立花勢が押せば、一揆勢は木々の間へ退く。
追えば別の場所から矢が飛んでくる。
敵は山を知っている。
ならば宗茂は、敵の動きを見た。
どこから出てくるのか。
どこへ退くのか。
どこなら追ってくるのか。
一度見た手には乗らなかった。
正面を固められれば兵を回す。
伏兵がいると見れば、先に矢を入れる。
敵が誘っても、追わない。
その指示に、小野が、十時が、薦野が応える。
少しずつ。
だが、確実に立花勢は前へ進んだ。
◇
昼が近づく頃には、兵たちの具足にも泥がついていた。
朝から何度も山を上り下りしている。
息を切らす者も増えてきた。
それでも宗茂は、次の城を前に足を止めた。
先ほどまでより小さな砦だった。
山道を押さえるように、柵と土塁が築かれている。
正面を見たあと、宗茂は左右へ視線を移した。
「小野は正面。薦野は左を見ろ」
「はっ」
「十時」
「はい」
「誾千代を連れて裏へ回れ。攻め口があるか見てこい」
「承知」
宗茂が二人を見る。
「敵がいても手を出すな」
「分かった」
誾千代は槍を担いだ。
「行こう、十時」
「姫様の『分かった』ほど不安な言葉もないんですがねえ」
「ちゃんと分かってるって」
二人は兵を連れ、林へ入った。
砦の裏手は、正面以上の急斜面だった。
「これは無理ですね」
十時が上を見る。
木の根が張り出し、ところどころ岩まで露出している。
兵をまとまって登らせるのは難しい。
「じゃあ、戻る?」
「もう少し見てからにしましょう」
さらに進む。
すると。
人の声が聞こえた。
二人が同時に止まった。
十時が手を上げる。
後ろの兵たちも足を止めた。
声は木々の向こうから聞こえている。
誾千代が槍を握り直す。
十時が目で合図した。
二手に分かれる。
足音を立てないように近づいた。
木々の向こうに、小さな小屋が見えた。
その脇に人影がある。
一人ではない。
誾千代が身を低くする。
十時が指を立てる。
一、二、三――。
同時に飛び出した。
「動くな!」
「うわっ!」
男たちが一斉に振り向いた。
「敵だ!」
「敵!」
双方が武器へ手を伸ばす。
立花兵が槍を構えた。
一揆兵たちも立ち上がる。
だが。
「……あ」
誾千代が止まった。
一揆兵も止まった。
男の一人が、中腰のまま固まっている。
右手には握り飯。
口にも米粒がついていた。
その後ろでは、別の男が漬物を持ったまま立ち尽くしている。
「……」
「……」
誾千代は槍を少し下げた。
「食べてる途中だった?」
「……見りゃ分かるだろ」
「あ、ごめん」
「姫様?」
十時が嫌な予感のする顔をした。
誾千代は男の手元を見る。
まだ握り飯が半分残っている。
「最後まで食べていいよ」
「……いいのか?」
「うん。待つから」
誾千代はその場に腰を下ろした。
「姫様ぁ……」
十時が額を押さえる。
一揆兵たちは顔を見合わせた。
やがて男が、おそるおそる握り飯を口へ運ぶ。
誾千代はじっと見ていた。
「……食いづらい」
「気にしないで」
「余計食いづらいわ」
男はもう一口食べた。
その時。
ぐう、と音がした。
男が止まる。
誾千代も止まる。
十時がゆっくり空を仰いだ。
男は誾千代を見た。
それから、脇に置いていた包みを見る。
握り飯が一つ残っていた。
しばらく迷ってから、それを手に取る。
「……食うか?」
誾千代の顔が明るくなった。
「いいの?」
「姫様ぁ!」
十時のなんとも言えない声が山に響いた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
更新は21時です( ᴗ ᴗ)⁾⁾
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