旦那様、初戦から素敵すぎる
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます!
本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
生暖かい目で見てくださいm(__)m
翌朝。
まだ朝靄の残る陣に、出陣を告げる声が響いていた。
兵が槍を担ぎ、馬が引き出される。
矢束が運ばれ、旗が立つ。
昨日まで各家の兵が入り乱れていた陣も、戦となれば動きが変わる。
それぞれの持ち場へ向かう兵たちが、次々と陣を出ていった。
立花勢も、すでに支度を終えていた。
宗茂は馬の前に立ち、小野と薦野へ指示を出している。
「小野は正面へ。敵を引きつけてくれ」
「承知しました」
「薦野は後ろを頼む」
「はっ」
昨日の軍議で決めた通りだった。
正面から城へ続く街道は広い。
だが、左右を丘に挟まれている。
そこを小野勢が進み、敵の目を正面へ集める。
その間に別働隊が南の川沿いを回り、城の西へ出る。
宗茂が馬へ手を掛けた。
「私は南から回る」
誾千代が顔を上げた。
「私は?」
「誾千代は私と一緒だ」
ぱっと顔が輝いた。
「出るぞ」
立花勢が動き始めた。
◇
朝靄の向こうに、城が見えた。
山城と呼ぶほど険しくはない。
だが、小高い丘を利用して築かれており、正面へ続く街道の両側にも高みがある。
すでに一揆方の兵が並んでいた。
槍。
弓。
鉄砲。
こちらを待ち構えている。
小野は馬上からそれを見上げた。
「始めるぞ」
立花勢が街道へ入った。
すぐに城方が動いた。
「敵だ!」
「来るぞ!」
丘の上で弓が構えられる。
「盾!」
小野の声と同時に、前列の兵が盾を上げた。
矢が降る。
乾いた音を立て、次々と盾へ突き刺さった。
それでも立花勢は止まらない。
急ぎもしなかった。
盾を並べ、少しずつ前へ出る。
敵から見れば、正面から城を攻めるつもりにしか見えない。
「正面へ兵を回せ!」
城方から声が上がった。
兵が動く。
一人。
二人。
やがてまとまった数の兵が、正面へ向かい始めた。
◇
同じ頃。
宗茂たちは城の南を進んでいた。
川沿いの細い道だった。
片側には水。
反対側には藪が迫り、馬を並べて走らせることもできない。
宗茂を先頭に、一列になって進む。
やがて、前方が開けた。
川だった。
誾千代が水面を見る。
「ここ?」
「ああ」
宗茂は迷わず馬を川へ入れた。
水飛沫が上がる。
思ったより浅い。
馬の脚が水を掻き、ゆっくりと向こう岸へ進んでいく。
兵たちも続いた。
誾千代も馬を入れる。
水底には石が多い。
何度か馬が足を取られかけたが、流れそのものは強くなかった。
全員が渡り終える。
そこから少し進めば、城の西側だった。
宗茂が馬を止めた。
兵たちも止まる。
すぐには動かなかった。
遠くから鬨の声が聞こえている。
正面では、すでに小野勢が戦っている。
誾千代は城を見上げた。
西側にも兵はいる。
だが、まだ少なくない。
宗茂は何も言わない。
ただ城を見ていた。
旗の動き。
兵の流れ。
正面へ走っていく者たち。
また一隊、西側を離れた。
それでも宗茂は動かなかった。
誾千代も黙って待つ。
さらに兵が正面へ向かう。
西側の守りが薄くなった。
宗茂の目が変わった。
「今だ」
馬腹を蹴る。
立花勢が一斉に動いた。
◇
「西から敵!」
叫び声が上がった時には、もう遅かった。
宗茂たちは坂へ入っていた。
「立花だ!」
「西にも立花勢がいるぞ!」
城方が慌てて向きを変える。
だが、正面へ送った兵はすぐには戻せない。
宗茂が刀を抜いた。
「押せ!」
声が響く。
立花兵が一気に坂を駆け上がった。
城方も槍を並べる。
ぶつかった。
槍と槍が激しく打ち合う。
宗茂は前線のすぐ後ろから戦況を見ていた。
「左へ寄れ!」
兵が動く。
敵もそれに応じた。
守りが左へ寄る。
「十時!」
「はっ!」
「右を崩せ!」
十時が飛び出した。
大槍を手に、兵を連れて右へ回る。
「行くぞ!」
立花兵が続いた。
左へ引かれた城方の側面へ、十時勢が突っ込む。
槍の列が崩れた。
そこへ宗茂が兵を押し込む。
「前へ!」
立花勢が一気に間合いを詰めた。
誾千代もその中にいた。
槍で敵の槍を払い、前へ出る。
その視界の端で、宗茂がまた兵を動かした。
敵が集まればずらす。
薄くなれば、そこへ兵を入れる。
止まるところでは止まり、崩れた瞬間には一気に押す。
迷いがない。
まるで、戦場が全部見えているみたいだった。
誾千代の視線が、また宗茂へ向いた。
「姫様、見過ぎです」
「だって、かっこいいんだもん」
十時は呆れたように息を吐き、そのまま敵兵を押し返した。
やがて城方が下がり始める。
「門を閉じろ!」
叫び声が上がった。
宗茂がすぐに反応した。
「閉じさせるな!」
立花兵が走る。
重い門が動き始めた。
十時が真っ先に飛び込んだ。
閉じかけた門へ肩を入れる。
「押せ!」
数人の兵が加わった。
誾千代も駆け寄り、反対側へ手を掛ける。
ぎしり。
門が止まった。
さらに立花兵が加わる。
押し戻す。
「開いたぞ!」
立花勢が城内へ雪崩れ込んだ。
◇
正面でも異変に気づいた。
城内から声が上がり、西側の兵が崩れていく。
小野が城を見た。
旗の動きが乱れている。
「入ったか」
宗茂勢が城内へ入った。
ならば、もう敵の目を引きつけておく必要はない。
「押すぞ」
小野勢も動いた。
今度は見せかけではない。
正面から一気に圧力を掛ける。
西から宗茂。
正面から小野。
城方は二つに割れた。
「北へ退け!」
誰かが叫んだ。
その声をきっかけに、一揆方の兵が北へ走り始める。
立花兵が追おうとした。
「追うな!」
宗茂の声が飛ぶ。
兵たちが止まる。
北は、最初から空けてある。
敵を逃がすためだった。
逃げ道がなければ、城方は最後まで戦う。
だが、逃げられると分かれば、命を捨ててまで戦う者は減る。
宗茂は刀を下ろした。
「武器を捨てた者には手を出すな!」
「はっ!」
槍が落ちる。
刀を置く者も現れた。
一人が武器を捨てれば、また一人が続く。
やがて。
城から戦う音が消えた。
◇
「城、落ちました!」
兵が駆けてきた。
宗茂は頷く。
「怪我人を集めろ。敵味方は問わない」
「はっ!」
「兵糧蔵も確認してくれ。勝手に持ち出させるな」
すぐに兵が散っていく。
宗茂はもう戦の終わった城内を見ていた。
勝ったからといって浮かれてはいない。
逃げた兵がどちらへ向かったのか。
こちらの損害はどれほどか。
次に兵を動かせるのはいつか。
すでに、その先を考えている。
誾千代はそんな宗茂の横顔を、じっと見ていた。
戦っている時も格好いい。
けれど、こうして次々と兵へ指示を出している姿も格好いい。
――やっぱり旦那様、素敵。
「姫様、見過ぎです」
「だって、かっこいいんだもん」
十時は呆れたように息を吐いた。
◇
それから、ほどなくして。
小早川隆景たちが城へ入った。
城門を抜けた隆景は、辺りを見回した。
戦の跡は残っている。
折れた槍も転がっていた。
だが、城内が荒らされた様子はない。
降伏した兵も一か所へ集められ、負傷者の手当てが始まっている。
「早かったな」
「小野が正面を引きつけてくれましたので」
宗茂が答えた。
隆景は北へ続く道へ目を向ける。
官兵衛も同じ場所を見た。
「北を空けたままにしたのか」
「はい。逃げ道があれば、最後まで戦う必要もありません」
官兵衛の目がわずかに細くなった。
北から逃げた兵を、宗茂は追わなかった。
それどころか、初めから北には兵を置いていない。
敵に逃げ道を残していたのだ。
「なるほど」
官兵衛が小さく笑った。
隆景は宗茂を見た。
まだ若い。
大名となってからも日が浅い。
だが、戦場で何をすべきかは分かっている。
「次も頼むぞ、宗茂」
「はっ」
宗茂が頭を下げた。
その少し後ろで、直茂も黙って宗茂を見ていた。
昨日の軍議で策を出した若い大名。
口だけではなかったらしい。
やがて直茂は何も言わず、城内へ目を戻した。
◇
その頃。
誾千代は城壁の上にいた。
遠くに山々が連なっている。
その間に、別の城が見えた。
「十時」
「はい」
「あそこも一揆方の城?」
「そうでしょうな」
誾千代は遠くの城をじっと見た。
さっき一つ落としたばかりだ。
なのに、その向こうにもある。
さらに先にも。
肥後で起きた一揆が、どれほど広がっているのか。
ここへ来て、ようやく実感した。
城を一つ取っただけでは終わらない。
宗茂たちの初戦は、始まったばかりだった。
立花宗茂が柳河十三万石を預かる大名となって、初めて臨んだ戦。
その最初の城は――。
朝に攻め始め、昼を待たずして落ちた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
更新は21時です( ᴗ ᴗ)⁾⁾
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