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西国最強の夫婦まかり通る! 〜旦那様は今日も素敵です〜  作者: 平子 天陽


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大名になって初めての戦

こんにちは! あまはる です!

この物語を手に取っていただきありがとうございます!

2026.8.29前話改稿してますm(__)m

本作は史実を元にしたフィクションです。

実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。

生暖かい目で見てくださいm(__)m

 天正十五年。


 隈部親永が兵を挙げたことをきっかけに、肥後の争いは瞬く間に各地へ広がっていた。

 新たな国主、佐々成政(さっさなりまさ)。

 そして、古くからその土地を治めてきた国衆たち。

 両者の対立に、次々と国衆が呼応していく。


 豊臣秀吉は、一揆を鎮めるため九州の諸将へ出兵を命じた。

 立花宗茂にも、その命が届いた。


 ◇


「それで、どのくらい集まってるの?」


 誾千代は、広間に広げられた肥後の絵図を覗き込んだ。


「まだ増えるでしょうな」


 薦野が答える。


「隈部だけじゃないの?」


「はい。一つが兵を挙げれば、それまで不満を抱えていた者たちも動きます」


「佐々成政と戦いたい人が、そんなにいるってこと?」


「成政殿と戦いたい、というより――」


 薦野は絵図へ目を落とした。


「これまで自分たちが守ってきたものを、簡単には手放せぬのでございましょう」


「……そっか」


 誾千代も絵図を見る。


「佐々って人にも、佐々って人の考えがあるんでしょう?」


「ございます。だからこそ、厄介なのです」


 宗茂は黙って肥後の絵図を見ていた。

 佐々成政も、自分と同じだった。

 九州平定の後、新しい土地を与えられ、そこで国主となった。

 宗茂は絵図から顔を上げる。


「支度をする」


 広間にいた者たちが宗茂を見る。


「肥後へ向かう」


「はっ」


 家臣たちが頭を下げた。

 誾千代も立ち上がる。


「私も支度してくる」


 当然のように広間を出ようとした。


「誾千代」


「なに?」


「お前は、駄目だと言っても来るんだろう」


「うん」


 返事だけは早かった。

 宗茂は小さく息を吐く。


「十時」


「はっ」


 十時連貞が顔を上げた。


「誾千代を任せる」


「承知いたしました」


「死なすな」


 十時の表情から笑みが消えた。


「……はい。必ず」


「ちょっと」


 誾千代が二人を見る。


「私だって、自分の身くらい守れるよ」


「姫様」


 薦野が何とも言えない顔をした。


「お願いでございますから、十時殿の言うことを聞いてくださいね」


「聞くよ」


 薦野は深く息を吐き、そっと胃を押さえた。


「薦野?」


「……いえ。少々、胃が」


「また?」


「誰のせいだとお思いですか」


 誾千代が十時を見る。


「十時?」


「俺ですか?」


「二人ともです!」


 薦野の声が広間に響いた。

 宗茂は三人をしばらく見ていたが、何事もなかったように絵図へ目を戻した。


「薦野」


「はい!」


「支度を」


「……承知いたしました」


 薦野は腹を押さえたまま頭を下げた。

 こうして、立花家の出陣が決まった。


 ◇


 誾千代は部屋へ戻ると、具足を畳の上へ置いた。

 たまが受け取り、紐や金具を一つずつ確かめていく。


「たま」


「はい」


「私も旦那様もいなくなるから、女の人たちのこと、お願いね」


 たまの手が止まった。


「……私が、でございますか」


「うん」


「ですが、私などに……」


「たまだから頼んでるの」


 誾千代は笑った。


「帰ってくる場所、お願い」


 たまはしばらく誾千代を見ていた。

 やがて、静かに頭を下げる。


「……承知いたしました」


「うん」


「その代わり、一つだけ」


「なに?」


「必ず、お戻りくださいませ」


「もちろん」


 誾千代は迷わず答えた。

 たまは小さく息を吐き、再び具足へ目を戻す。


「こちらの紐は替えておきます。傷んでおりますので」


「ありがとう」


 誾千代は、その手元を眺めた。

 戦場へ出るのは、久しぶりだった。


 ◇


 出立の朝。


 空が白み始めたばかりだというのに、柳河城の門前には兵が集まっていた。

 朝靄の中に槍の穂先が並ぶ。

 馬が鼻を鳴らし、蹄で地面を掻いている。

 宗茂はすでに馬上にいた。


「殿」


 薦野が進み出る。


「支度、整いました」


「ああ」


 その少し後ろでは、誾千代も馬に跨がっていた。


「姫様」


 たまが駆け寄ってくる。


「行ってくるね」


「……はい」


 たまは昨夜自分で確かめた具足をもう一度見てから、深く頭を下げた。


「ご武運を」


「うん」


 その時だった。


「宗茂様」


 柔らかな声がした。

 誾千代が振り返る。


 綾だった。

 父とともに見送りへ出てきたらしい。

 綾は宗茂の馬のそばまで来ると、静かに頭を下げた。


「どうか、ご無事でお戻りくださいませ」


「ああ」


 宗茂は短く答えた。

 それだけだった。

 それだけなのに、誾千代の胸の奥が少しだけもやっとする。


 この前は、宗茂の好物を作って持ってきた。

 幼い頃から好きだったものまで知っていた。

 そして今日は、出陣する宗茂を見送りに来ている。


 別に、おかしなことではない。

 分かっている。

 分かっているけれど。


 ――なんか嫌。


「奥方様」


「なに?」


 思ったより強い声が出た。

 綾が一瞬、目を瞬く。


「……奥方様も、どうかお気をつけて」


「うん。ありがとう」


 綾の視線が、誾千代の具足へ落ちた。

 刀を差し、馬に跨がり、宗茂と同じ戦場へ向かう姿。

 ほんの一瞬、綾の表情が曇った。


「……なに?」


「いいえ」


 綾は小さく微笑んだ。


「ご武運を」


「……うん」


 二人はしばらく見つめ合い、ほとんど同時に目を逸らした。


「出るぞ」


 宗茂の声が響いた。


 城門が開く。

 槍が揺れ、馬蹄の音が朝の柳河に響き始める。

 宗茂が馬を進めた。


 誾千代も、その後を追う。

 城門を抜ける直前、一度だけ振り返った。


 たまがいる。

 その少し離れたところに、綾もいる。

 二人とも、こちらを見送っていた。


 誾千代は前を向いた。

 宗茂も振り返らなかった。

 これまで何度も戦場には出た。

 だが、今度は背後に自分の国がある。


 柳河十三万石を預かる大名となって、初めての戦。


 肥後国衆一揆。


 立花勢は、肥後へ向けて柳河を発った。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

更新は21時です( ᴗ ᴗ)⁾⁾

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