霧中の追撃
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます。
※本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
深呼吸〜٩(˘ω˘ )۶スゥ…(*´ 0 `*)ハー
更新は21:00になります♬.*゜
島津軍は、退いていた。
だが、それは敗走ではない。
殿を置き、
隊列を崩さず、
追う敵を睨み返しながら下がっていく。
崩れぬまま退く。
それが、島津だった。
だからこそ――
立花勢もまた、気を抜かない。
◇
夜明け前。
山間には白い霧が流れていた。
湿った土を、馬蹄が静かに踏み鳴らす。
「前方、島津殿軍!」
「三百ほど!」
報告が飛ぶ。
宗茂は馬上から霧の先を見据えた。
槍列。
道を塞ぐように並ぶ兵。
退却を守るための陣。
「綺麗に残してるな」
小野鎮幸が低く呟く。
「簡単には崩れませぬぞ」
薦野増時も目を細めた。
追う側を止めるための配置。
逃げるためだけではない。
追ってきた敵を、逆に食い止めるための陣形だった。
◇
「旦那様」
誾千代が馬を寄せる。
「正面、かなり待ってるね」
「ああ」
宗茂は短く頷いた。
「槍の重ね方が丁寧だ。正面から行けば止められる」
「横は?」
「警戒してる」
「後ろは?」
「もう下がってるな」
誾千代は霧の奥を見つめた。
「……嫌な感じ」
「島津だからな」
十時連貞が肩を竦める。
「素直に崩れてくれる相手じゃありませんねぇ」
◇
宗茂は霧の向こうを見据えていた。
その口元が、ほんのわずかに上がる。
「……崩せるな」
「はい?」
十時が目を瞬かせる。
「十時」
「はい」
「右へ回れ。派手に動け」
「目を引けばいいんですね?」
「ああ」
十時が笑った。
「得意分野ですねぇ」
「誾千代」
「うん」
「左から押せ」
「火矢は?」
「使うな。押し切る」
一瞬。
誾千代の目が細くなる。
「了解!」
その返事は真っ直ぐだった。
◇
やがて。
霧の向こうで鬨の声が上がった。
「右だ!!」
「立花勢!!」
十時勢だった。
鉄砲を撃ち込み、
旗を振り回し、
わざと騒がしく動く。
島津兵の視線が、そちらへ向いた。
その瞬間。
「――行くぞ」
宗茂が馬腹を蹴った。
◇
立花勢が、霧を裂いて駆ける。
速い。
霧を割るように、一気に間合いを潰す。
「敵――!!」
島津兵が叫ぶ。
その時には、もう宗茂が踏み込んでいた。
黒の具足。
兜の前立てには、金の月輪。
腰には雷切。
宗茂の右手が動く。
雷切が鞘走った。
白刃が、霧の中で鋭く光る。
「止めろ!!」
「前へ出させるな!!」
槍衾が、一斉に前へ出た。
だが。
宗茂は止まらない。
雷切が閃く。
槍が弾け飛ぶ。
そのまま踏み込む。
返す刃。
島津兵が血を散らして崩れ落ちた。
さらに前へ。
馬ごと割り込む。
隊列が揺れる。
そこへ立花勢が雪崩れ込んだ。
「押せェ!!」
「崩すぞ!!」
怒号が霧を震わせる。
◇
「左、押し込んで!!」
別方向から誾千代隊が突っ込む。
薙刀が閃く。
槍を払う。
馬をねじ込み、さらに押す。
「止まるな、押して!!」
凛とした声が飛ぶ。
立花兵たちが、一気に前へ出た。
「左が押されてるぞ!!」
「隊列、寄せろ!!」
島津兵が慌てて動く。
その瞬間。
中央へ踏み込んだ宗茂が、
一気に槍列を裂いた。
止まらない。
そのままさらに前へ出る。
雷切が閃く。
一人。
さらに一人。
踏み込むたび、
隊列の綻びだけを正確に裂いていく。
「止まらん!!」
「前へ出させるな!!」
島津兵が叫ぶ。
だが、もう遅い。
宗茂が突き抜けた。
その瞬間。
島津殿軍の隊列が、ついに裂ける。
そこへ立花勢が雪崩れ込んだ。
槍と槍がぶつかる。
火花。
怒号。
押し返そうとする島津兵へ、
立花兵たちが食らいつく。
「押せェ!!」
「止まるな!!」
島津兵が槍を突き出す。
だが、立花勢は止まらない。
一人が倒れても、
次が前へ出る。
さらに押す。
押し込む。
崩れた隊列へ、
立花勢が一気に楔を打ち込んだ。
「下がれ!!」
「退けェ!!」
ついに島津殿軍が後退を始める。
◇
「崩れたァ!!」
十時が叫ぶ。
立花勢が一気に押し込んだ。
「下がれ!!」
「退けェ!!」
島津兵が後退する。
だが、もう整わない。
霧の中で、
ついに殿軍が崩れ始めた。
◇
「うわぁ……」
十時が思わず引いていた。
「旦那様、本気出すと怖いんですよねぇ」
「そうだね!でも、ああいう時の旦那様も、すごく素敵」
十時が吹き出した。
その視線は、完全に宗茂へ向いていた。
宗茂が前へ出るたび、
立花勢まで勢いづく。
あの背を見ていると、
負ける気がしなかった。
「また、見とれて…」
「なに」
「今、完全に戦見てませんでしたよね?」
「ちゃんと戦場、見てた!」
「旦那様しか見てない顔でしたけど」
今日もあきれ顔の十時だった。
◇
ついに殿軍が崩れ始めた。
宗茂は追撃へ出ようとして――止まった。
「旦那様?」
誾千代が首を傾げる。
宗茂は霧の奥を見ていた。
「……この先にもいるな」
一瞬、空気が静まる。
小野が目を細めた。
「伏せておりますか」
「ああ」
霧のさらに奥。
微かに槍先が見えた。
新手。
退きながら、次の陣を置いている。
宗茂が小さく息を吐く。
「最後まで上手いな」
◇
一方。
島津本陣。
「殿軍、一部崩壊!!」
「立花勢、なお追撃中!!」
報告を聞きながら、
義弘が深く息を吐く。
「……押し切りやがったか」
本音だった。
歳久が静かに頷く。
「宗茂、自ら前へ出ております」
「マジかぁ……」
一拍。
「大将が先頭で斬り込んでくると、兵まで勢いつく」
「立花勢、完全に乗っておりますな」
「しかも強い」
義弘が遠い目をした。
「嫌だなぁ……あれ敵に回すの……」
◇
朝日が、霧を薄く裂いていく。
退いていく島津軍を見ながら、
宗茂は静かに雷切を収めた。
その背後では、
なお立花勢の鬨が響いている。
勝敗は、決まり始めていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
恋愛要素がなくなっていく…(ヽ''ω`)




