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『西国最強の夫婦まかり通る! 〜旦那様は今日も素敵です〜』  作者: 平子 天陽


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28/31

霧中の追撃

こんにちは! あまはる です!

この物語を手に取っていただきありがとうございます。

※本作は史実を元にしたフィクションです。

 実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。

深呼吸〜٩(˘ω˘ )۶スゥ…(*´ 0 `*)ハー

更新は21:00になります♬.*゜

 島津軍は、退いていた。


 だが、それは敗走ではない。

 殿を置き、

 隊列を崩さず、

 追う敵を睨み返しながら下がっていく。


 崩れぬまま退く。

 それが、島津だった。


 だからこそ――


 立花勢もまた、気を抜かない。


 ◇


 夜明け前。


 山間には白い霧が流れていた。

 湿った土を、馬蹄が静かに踏み鳴らす。


「前方、島津殿軍!」


「三百ほど!」


 報告が飛ぶ。

 宗茂は馬上から霧の先を見据えた。


 槍列。

 道を塞ぐように並ぶ兵。

 退却を守るための陣。


「綺麗に残してるな」


 小野鎮幸が低く呟く。


「簡単には崩れませぬぞ」


 薦野増時も目を細めた。

 追う側を止めるための配置。

 逃げるためだけではない。

 追ってきた敵を、逆に食い止めるための陣形だった。


 ◇


「旦那様」


 誾千代が馬を寄せる。


「正面、かなり待ってるね」


「ああ」


 宗茂は短く頷いた。


「槍の重ね方が丁寧だ。正面から行けば止められる」


「横は?」


「警戒してる」


「後ろは?」


「もう下がってるな」


 誾千代は霧の奥を見つめた。


「……嫌な感じ」


「島津だからな」


 十時連貞が肩を竦める。


「素直に崩れてくれる相手じゃありませんねぇ」


 ◇


 宗茂は霧の向こうを見据えていた。

 その口元が、ほんのわずかに上がる。


「……崩せるな」


「はい?」


 十時が目を瞬かせる。


「十時」


「はい」


「右へ回れ。派手に動け」


「目を引けばいいんですね?」


「ああ」


 十時が笑った。


「得意分野ですねぇ」


「誾千代」


「うん」


「左から押せ」


「火矢は?」


「使うな。押し切る」


 一瞬。

 誾千代の目が細くなる。


「了解!」


 その返事は真っ直ぐだった。


 ◇


 やがて。

 霧の向こうで鬨の声が上がった。


「右だ!!」


「立花勢!!」


 十時勢だった。

 鉄砲を撃ち込み、

 旗を振り回し、

 わざと騒がしく動く。

 島津兵の視線が、そちらへ向いた。


 その瞬間。


「――行くぞ」


 宗茂が馬腹を蹴った。


 ◇


 立花勢が、霧を裂いて駆ける。


 速い。

 霧を割るように、一気に間合いを潰す。


「敵――!!」


 島津兵が叫ぶ。

 その時には、もう宗茂が踏み込んでいた。


 黒の具足。

 兜の前立てには、金の月輪。

 腰には雷切。


 宗茂の右手が動く。

 雷切が鞘走った。

 白刃が、霧の中で鋭く光る。


「止めろ!!」


「前へ出させるな!!」


 槍衾が、一斉に前へ出た。


 だが。

 宗茂は止まらない。


 雷切が閃く。

 槍が弾け飛ぶ。

 そのまま踏み込む。

 返す刃。

 島津兵が血を散らして崩れ落ちた。


 さらに前へ。

 馬ごと割り込む。

 隊列が揺れる。

 そこへ立花勢が雪崩れ込んだ。


「押せェ!!」


「崩すぞ!!」


 怒号が霧を震わせる。


 ◇


「左、押し込んで!!」


 別方向から誾千代隊が突っ込む。


 薙刀が閃く。

 槍を払う。

 馬をねじ込み、さらに押す。


「止まるな、押して!!」


 凛とした声が飛ぶ。

 立花兵たちが、一気に前へ出た。


「左が押されてるぞ!!」


「隊列、寄せろ!!」


 島津兵が慌てて動く。


 その瞬間。


 中央へ踏み込んだ宗茂が、

 一気に槍列を裂いた。


 止まらない。

 そのままさらに前へ出る。


 雷切が閃く。

 一人。

 さらに一人。

 踏み込むたび、

 隊列の綻びだけを正確に裂いていく。


「止まらん!!」


「前へ出させるな!!」


 島津兵が叫ぶ。


 だが、もう遅い。

 宗茂が突き抜けた。


 その瞬間。

 島津殿軍の隊列が、ついに裂ける。


 そこへ立花勢が雪崩れ込んだ。


 槍と槍がぶつかる。

 火花。

 怒号。

 押し返そうとする島津兵へ、

 立花兵たちが食らいつく。


「押せェ!!」


「止まるな!!」


 島津兵が槍を突き出す。

 だが、立花勢は止まらない。

 一人が倒れても、

 次が前へ出る。

 さらに押す。

 押し込む。

 崩れた隊列へ、

 立花勢が一気に楔を打ち込んだ。


「下がれ!!」


「退けェ!!」


 ついに島津殿軍が後退を始める。


 ◇


「崩れたァ!!」


 十時が叫ぶ。

 立花勢が一気に押し込んだ。


「下がれ!!」


「退けェ!!」


 島津兵が後退する。

 だが、もう整わない。


 霧の中で、

 ついに殿軍が崩れ始めた。


 ◇


「うわぁ……」


 十時が思わず引いていた。


「旦那様、本気出すと怖いんですよねぇ」


「そうだね!でも、ああいう時の旦那様も、すごく素敵」


 十時が吹き出した。

 その視線は、完全に宗茂へ向いていた。


 宗茂が前へ出るたび、

 立花勢まで勢いづく。

 あの背を見ていると、

 負ける気がしなかった。


「また、見とれて…」


「なに」


「今、完全に戦見てませんでしたよね?」


「ちゃんと戦場、見てた!」


「旦那様しか見てない顔でしたけど」


 今日もあきれ顔の十時だった。


 ◇


 ついに殿軍が崩れ始めた。


 宗茂は追撃へ出ようとして――止まった。


「旦那様?」


 誾千代が首を傾げる。

 宗茂は霧の奥を見ていた。


「……この先にもいるな」


 一瞬、空気が静まる。

 小野が目を細めた。


「伏せておりますか」


「ああ」


 霧のさらに奥。

 微かに槍先が見えた。

 新手。

 退きながら、次の陣を置いている。

 宗茂が小さく息を吐く。


「最後まで上手いな」


 ◇


 一方。

 島津本陣。


「殿軍、一部崩壊!!」


「立花勢、なお追撃中!!」


 報告を聞きながら、

 義弘が深く息を吐く。


「……押し切りやがったか」


 本音だった。

 歳久が静かに頷く。


「宗茂、自ら前へ出ております」


「マジかぁ……」


 一拍。


「大将が先頭で斬り込んでくると、兵まで勢いつく」


「立花勢、完全に乗っておりますな」


「しかも強い」


 義弘が遠い目をした。


「嫌だなぁ……あれ敵に回すの……」


 ◇


 朝日が、霧を薄く裂いていく。


 退いていく島津軍を見ながら、

 宗茂は静かに雷切を収めた。


 その背後では、

 なお立花勢の鬨が響いている。


 勝敗は、決まり始めていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

恋愛要素がなくなっていく…(ヽ''ω`)

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