逃がさない
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます。
※本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
心にゆとりを持ってお読みください(^^)
更新は21:00になります♬.*゜
島津軍が、退き始めた。
立花山城を包囲していた大軍が、南へ動き出している。
豊臣本軍、九州上陸。
その報せが、戦場を変えた。
立花勢は、この好機を見逃さなかった。
◇
夜。
高鳥居城近くの山道。
島津軍が、暗い山道を列を組んで退いていた。
「急げ!」
「荷駄を先に出せ!」
「隊列崩すな!!」
怒号が飛ぶ。
兵たちの顔には、疲労と焦りが滲んでいた。
豊臣本軍、九州上陸。
その報せは、島津軍にも重くのしかかっている。
急がなければならない。
だが、隊列は崩せない。
その緊張が、兵たちの動きを硬くしていた。
◇
「……静かですな」
前線兵がぽつりと呟いた。
「だから怖いんだろうが」
即答だった。
風の音しか聞こえない。
その時。
山の上で、何かが動いた。
「っ!?」
「敵――」
叫びかけた瞬間。
――パァン!!
乾いた鉄砲音が夜を裂く。
続けて鬨の声。
「立花だァァァ!!」
◇
闇の中から、立花勢が一気に駆け下りてくる。
速い。
とにかく速い。
「止めろ!!」
「槍合わせろ!!」
島津兵が慌てて前へ出る。
その左翼へ、黒馬が飛び込んだ。
月光を弾く黒胴。
風を裂くように翻る袖。
短く結った黒髪の奥で、大きな瞳だけが鋭く光る。
立花誾千代だった。
薙刀が夜気を裂く。
槍を払う。
そのまま馬をねじ込み、隊列を押し崩した。
「左、空いてる!」
「押せ!!」
立花兵が一気に雪崩れ込む。
「またあの姫だァ!?」
「なんで毎回先頭にいるんだ!!」
島津兵たちが悲鳴を上げた。
◇
その中央を割ったのは、別だった。
黒の具足。
兜の前立てには、金の月輪。
腰には雷切。
夜戦の中でも、その姿だけが異様に目立った。
「騎馬だ!!」
「来るぞ!!」
一瞬。
島津兵の目が見開く。
「大将首だァ!!」
「立花宗茂!!」
槍衾が、一斉に前へ出た。
宗茂は止まらなかった。
雷切を抜く。
白刃が月光を弾いた。
次の瞬間。
槍の穂先が宙を飛ぶ。
「っ――」
踏み込んだ勢いのまま、返す刃。
島津兵が血を散らして倒れた。
止まらない。
二人目が斬りかかる。
宗茂は馬を半身にずらし、その懐へ入り込んだ。
短い斬撃。
喉元。
島津兵が声もなく崩れ落ちる。
「な――」
「速――」
言葉が終わらない。
宗茂はもう次へ出ていた。
雷切が夜気を裂く。
一人。
さらに一人。
前へ出るたび、隊列が割れていく。
速い。
いや、速すぎる。
島津兵の槍が追いつかない。
「止めろ!!」
「止まらん!!」
「なんだあの動き……!」
混乱が広がる。
そこへ十時勢が雪崩れ込んだ。
「はい崩れたァ!!」
「押せ押せぇ!!」
十時の怒号が飛ぶ。
勢いのまま島津を押した。
宗茂は、さらに前へ出る。
敵兵が斬りかかる。
雷切が走る。
火花。
次の瞬間には、相手が落ちていた。
馬ごと踏み込む。
隊列が裂ける。
そのまま抜ける。
止まらない。
迷わない。
踏み込むたび、
崩れる場所だけを正確に斬り抜いていく。
「宗茂を止めろ!!」
「止まりません!!」
「とにかく強いんです!!」
完全に混乱していた。
退却戦では、一瞬の乱れが命取りになる。
島津軍は、まだ崩れていない。
だが。
立花勢は、その隊列の綻びだけを正確に噛み破ってくる。
しかも先頭にいるのは、立花宗茂。
あまりにも厄介だった。
◇
「旦那様!」
誾千代が馬を飛ばして戻ってくる。
頬には土と汗。
鎧にも砂が散っていた。
だが、その目は妙に輝いていた。
「右翼、押し込んだよ!」
「上出来だ」
誾千代の顔がぱっと明るくなる。
宗茂は短く頷いた。
その横顔が妙に格好良くて、
誾千代は見とれた。
「でも、まだ崩れていない」
宗茂の言葉に誾千代が南を見る。
「殿が残ってる。退きながら槍を返してきた」
さらに宗茂が言う。
「やっぱり島津は強いね」
誾千代が静かに頷いた。
宗茂が再び前へ出る。
黒馬が加速した。
島津兵が慌てて槍を向ける。
雷切が、一瞬でその間を裂いた。
「っ――!」
一人。
さらに一人。
斬り抜けるたび、前線が崩れていく。
月輪の前立てが月光を弾いた。
その姿が、夜戦の中で異様に映える。
「……格好いい……」
誾千代がぽつりと呟く。
完全に見惚れていた。
十時が横で吹き出す。
「姫様、顔出てますよ」
「だって格好いい!」
「知ってます」
「たまに報告しないと」
「見惚れるのは後にしてください」
十時は呆れたように言った。
◇
島津本陣。
「高鳥居城、維持困難!!」
「立花勢、追撃継続中!!」
「宗茂、前線確認!!」
報告が飛び込むたび、空気が重くなる。
島津義弘は腕を組みながら、その報告を聞いていた。
「……やっぱり来たなぁ」
義弘が露骨に顔をしかめる。
歳久が静かに頷いた。
「立花が、この機を逃すはずありませぬ」
「だよなぁ……」
一拍。
「しかも先頭に宗茂いるしなぁ……」
「おりますな」
「大将が前に出てくるの、本当に嫌なんだけど」
その言葉に。
家臣たちが義弘を凝視する。
歳久がゆっくり口を開いた。
「……義弘兄上も、人のことは言えませぬ」
「俺はいいんだよ」
「何がです」
「島津だから」
「立花もそう思っておりますよ」
義弘が嫌そうな顔になった。
その直後だった。
「義弘様!」
「宗茂、敵前列を突破!!」
「なお追撃中!!」
本陣の空気が重くなる。
義弘は深く息を吐いた。
「頭で戦う男かと思ってたんだけどなぁ……」
一拍。
「なんであんな強いんだ」
本気で嫌そうだった。
歳久が静かに答える。
「立花ですので」
「嫌な説得力だなぁ……」
◇
燃える高鳥居城を背に
宗茂は静かに夜空を見上げた。
豊臣が来た。
戦は変わる。
だが――まだ終わってはいない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
宗茂、弓の腕前もすごいらしいです(*´ω`*)




