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『西国最強の夫婦まかり通る! 〜旦那様は今日も素敵です〜』  作者: 平子 天陽


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豊臣、九州上陸

こんにちは! あまはる です!

この物語を手に取っていただきありがとうございます。

※本作は史実を元にしたフィクションです。

 実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。

心にゆとりを持ってお読みください(^^)

更新は21:00になります♬.*゜

 豊後の海を、無数の船が埋め尽くしていた。


 帆柱が並ぶ。


 風を受けた旗が、波の上で揺れる。


 海そのものが、軍勢になったみたいだった。


 その光景を見た者は、誰もが理解する。


 ――豊臣が来た。


 ◇


「毛利勢、到着!!」


「小早川勢、上陸完了!!」


「鉄砲隊、前線配置開始!!」


 海岸は騒然としていた。


 兵が走る。

 荷駄が運ばれる。

 陣幕が張られ、軍旗が立ち上がる。

 昨日までただの浜だった場所が、巨大な軍営へ変わっていく。


 人。

 鉄砲。

 兵糧。

 船。

 すべてが多い。

 多すぎる。


「これが……豊臣か」


 思わず漏れた声には、怯えすら混じっていた。


 ◇


 本陣中央。

 広げられた九州の地図を、二人の男が見下ろしていた。


 黒田官兵衛。


 そして、小早川隆景。


 西国を代表する知将たちだった。


 隆景が小さく息を吐く。


「大友は、よう持たせておりますな」


 官兵衛が頷いた。


「龍造寺が崩れた時点で、もっと早く九州は傾くと思っておりました」


「ですが、まだ終わっていない」


 地図には、なお火種が残っていた。


 肥後。

 筑後。

 筑前。


 島津軍は各地へ圧力をかけ続け、大友方は完全には崩れていない。

 九州は、まだ燃えていた。


「島津の勢いはすさまじいですな」


 隆景が言う。

 だが官兵衛は、静かに首を横へ振った。


「ですが、攻めあぐねている場所がございます」


 指が、地図の一点を叩く。

 筑前。

 立花山城。

 隆景の目が細くなる。


「立花宗茂」


「ええ」


 官兵衛は静かに笑った。


「島津が、もっとも嫌がっている男です」


 ◇


「報告によれば、立花勢は連日の夜襲を繰り返しております」


「補給路を狙い」


「疲れた陣を襲い」


「騒ぐだけ騒いで消える」


 隆景が苦笑した。


「守る側の戦ではありませんな」


「ええ」


 官兵衛の声は静かだった。


「普通の籠城なら、攻める側が主導権を握る」


「ですが立花は違う」


 一拍。


「攻めるほど、島津側が消耗していく」


 隆景は地図を見つめた。


 山の上の小さな城。


 だが、その一点が島津軍の動きを確かに鈍らせていた。


「なるほど」


 隆景が静かに笑う。


「噛みつく城ですな」


 ◇


 その頃。


 島津本陣にも、豊臣上陸の報せは届いていた。


「豊臣本軍、九州上陸!!」


「毛利勢も合流!!」


「兵数、さらに増加しております!!」


 本陣の空気が重くなる。


 島津義弘は、静かに地図を見ていた。

 大柄な体を胡坐に据え、視線を北へ向ける。


 筑前。

 立花山城。


「……とうとう来たか」


 低い声だった。


「義弘様」


 家臣が慎重に口を開く。


「豊臣本軍を相手に、長期戦は厳しくなります」


「分かってる」


 義弘は短く答えた。

 島津軍も理解していた。


 豊臣は異常だ。

 兵が多い。

 鉄砲が多い。

 兵糧が尽きない。

 戦えば戦うほど、後ろから湧いてくる。


 ここから先は、“勝ち続ける戦”ではない。


 どこで退くか。

 どこの兵を残すか。

 それを考える段階へ入り始めていた。


「ただなぁ……」


 義弘が頭を掻きながら地図を見る。


 筑前。

 立花山城。


「あれが邪魔なんだよなぁ」


 宗茂は、しつこい。

 一度押し返して終わる相手ではない。

 退けば追ってくる。

 疲れれば噛みついてくる。


「豊臣が来た以上、どこかで戦線は整理せねばならん」


 義弘は腕を組む。


「だが、退けば宗茂が追ってくる」


 本陣が静まり返る。

 誰も否定できない。

 立花勢は、崩れ始めた敵を逃がさない。

 補給路を狙う。

 夜営地を荒らす。

 乱れた隊列へ食らいつく。


 撤退戦で、最も相手にしたくない種類の武将だった。


「宗茂か……」


 義弘がぽつりと呟く。


「嫌な男だなぁ」


 静かな声だった。

 だが、その言葉には確かな警戒が滲んでいた。


 ◇


 一方。

 立花山城。


「豊臣上陸!?」


「本当に来たのか!?」


 城中がざわついていた。

 兵たちの顔にも、わずかに明るさが戻っている。


 だが。


 広間の空気だけは静かだった。

 宗茂は地図を見下ろしたまま動かない。

 静かな横顔に、灯火の影が落ちる。

 その目だけが鋭かった。


 周囲には、小野鎮幸、薦野増時、十時連貞。


「島津、少し動きが変わりましたな」


 小野が言う。


「陣の整理を始めています」


「荷駄も後ろへ動いております」


 薦野が続けた。

 宗茂は短く頷く。


「退く準備だろうな」


「ただ、雑じゃありません」


 小野が地図へ目を落としたまま言う。


「殿も残しております」


 十時が笑った。


「最後まで噛みつく気ですねぇ」


「ああ」


 宗茂の声は静かだった。


「退く敵が、一番危険だ」


 一瞬、空気が締まる。


「崩れながら逃げる軍は、生き残るために必死になる」


「追う側も食われる」


 一瞬、空気が締まる。


 十時が笑みを消した。


「……簡単には崩れませんねぇ」


「ああ」


 宗茂は静かに立ち上がった。


「島津は強い」


 長身が灯火の影から離れる。


「だからこそ、崩れる瞬間を逃すな」


 その時。

 広間の障子が開いた。


 誾千代だった。

 鎧姿のまま、まっすぐ地図へ視線を向ける。

 頬には夜風の冷たさが残り、結い上げた黒髪がわずかに乱れていた。


「南の道、荷駄が増えてた」


 宗茂が視線を向ける。


「急いでるか」


「豊臣を気にしてる」


 誾千代は言った。


「でも、退き方が綺麗」


 一瞬、小野が目を細める。


「……殿軍ですな」


「ちゃんと残してる」


 誾千代が続けた。


「簡単には崩れない」


 広間が静かになる。


 宗茂は小さく息を吐いた。


「島津らしいな」


「嫌な相手」


「違いない」


 十時が肩を竦める。


「でも、ようやく動きましたねぇ」


「ああ」


 宗茂の目が、静かに鋭くなる。


「守る戦は終わりだ」


 ◇


「高鳥居城方面、動きあり!!」


 島津本陣がざわつく。


「立花勢、出陣!!」


「宗茂です!!」


 一瞬。


 本陣の空気が張り詰めた。


 義弘がゆっくり顔を上げる。


「……来たか」


 ◇


 夜の山道を、立花勢が進んでいた。


 先頭を走るのは、立花宗茂。


 腰には雷切。

 濡れた鞘が、月明かりを鈍く返している。

 宗茂は前を見た。

 その先では、撤収を始めた島津軍が慌ただしく動いている。


「急げ!!」


「荷駄を先に出せ!!」


 怒号が飛ぶ。


 その様子を見据えたまま、宗茂が静かに口を開いた。


「――行くぞ」


 次の瞬間。

 立花勢が一気に駆け下りる。


 夜の山へ、鬨の声が響いた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

いよいよ反撃開始!

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