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『西国最強の夫婦まかり通る! 〜旦那様は今日も素敵です〜』  作者: 平子 天陽


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笑う城

こんにちは! あまはる です!

この物語を手に取っていただきありがとうございます。

※本作は史実を元にしたフィクションです。

 実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。

心にゆとりを持ってお読みください(^^)

更新は21:00になります♬.*゜

 立花山城には、重い空気が漂っていた。

 包囲は続いている。


 矢も。

 火薬も。

 兵糧も。

 減っていた。


「……米、また減りましたねぇ」


 薦野増時が帳面を見ながら死んだ目で呟く。


「減るだろ」


 十時連貞が普通に返した。


「食ってるんだから」


「分かってますよ!!」


 薦野は机へ突っ伏した。


「だから困ってるんでしょうが!!」


 立花山城は堅い。

 だが、籠城戦である以上、消耗は避けられない。

 最近では粥も薄い。

 兵たちも口には出さないが、疲れが見え始めていた。

 広間の空気は重い。


 だが、その時。


「西の斜面に猪の足跡があった!!」


 立花誾千代が勢いよく飛び込んできた。


 一瞬、全員が固まる。


「……はい?」


 薦野だけ反応が遅れた。


「山の西側!泥の沈み方が深かった。かなり重い猪!」


 誾千代は目を輝かせている。

 戦の話ではない。

 本当に猪の話だった。


「十時!」


「おう!」


「狩り行こう!!」


「おし!行くかァ!!」


「行かないでください!!」


 薦野の悲鳴が広間へ響いた。


「危険です!」


「島津が近いんですよ!?」


 薦野は必死だった。


 だが。


「でも肉だよ?」


 誾千代が真顔で言う。


「……っ」


 薦野が詰まる。


 肉。


 その響きに、広間の空気が少し揺れた。

 最近ずっと塩気の薄い粥ばかりだった。

 兵たちも疲れている。

 そこへ肉。

 かなり魅力的だった。


「西斜面なら敵陣から見えにくい」


 小野鎮幸が静かに言う。


「少人数なら可能でしょう」


「小野殿まで!?」


 薦野が振り向く。

 十時はもう行く気満々だった。


「よし、槍持ってくる!」


「やった!」


 誾千代が笑う。


 その笑顔は、戦続きの城の空気を一瞬だけ軽くした。


 その時。


「日が暮れる前に戻れ」


 静かな声。

 宗茂だった。

 広間の奥で地図を見ていた宗茂が、ようやく顔を上げる。

 黒髪を後ろで結い、静かな目で二人を見ている。


「旦那様!」


 誾千代の顔がぱっと明るくなる。


「行っていいの?」


「ああ」


 宗茂は短く頷いた。


「ただし深追いするな」


「する!」


「するな」


「……はーい」


 誾千代は少しだけ頬を膨らませた。


 十時が吹き出す。


「殿、止めないんですね」


「止まらないからな」


 宗茂が静かに返す。

 その口元が、ほんの少しだけ緩んでいた。


 ◇



 その日の夕方。

 立花山城は妙に騒がしかった。


「おおー!!」


「本当に獲ってきた!!」


「でかいぞ!」


 兵たちの声が広がる。


 猪だった。


 しかも大きい。


 誾千代と十時が、泥だらけで戻ってきた。

 二人とも髪に枝を引っかけ、

 服には草と土が付き、

 完全に山を転げ回ってきた姿だった。


「獲ったーーー!!」


 誾千代は満面の笑みだった。

 後ろでは兵たちが、縄で縛られた猪を見てざわついている。


「でか……」


「本当に仕留めたのか」


「姫様すげぇ……」


「十時殿も血だらけですよ!?」


「返り血返り血!」


 十時が豪快に笑った。


「いやぁ、最後すげぇ勢いで突っ込んできて!」


「速かったね!」


 誾千代も興奮している。


「崖のとこまで逃げて!」


「そこから十時が!」


「槍でどーん!!」


「姫様も薙刀で来たでしょうが!」


 二人とも楽しそうだった。

 薦野は頭を抱えている。


「なんで猪狩りでそんな死線くぐってるんですか……」


 本気で疲れた声だった。


 ◇


 やがて。

 城のあちこちから、肉の焼ける匂いが漂い始める。

 脂が落ちる音。

 ぱちぱちと爆ぜる火。


「まだ焼けてないぞ!」


「しっかり焼いとけ!焼けてないと腹下すぞ」


「それ絶対つまみ食いしただろ!」


「姫様もう三枚目ですよ!!」


 兵たちが笑う。


 疲れていた。

 ずっと。

 眠れず、

 削られ、

 張り詰め続けていた。


 だからこそ。


「肉だ……」


「久しぶりだ……」


「うま……」


 涙ぐんでる兵までいる。

 温かい火と、

 久しぶりの肉の匂いだけで、人の顔に笑みが戻る。

 誾千代も笑っていた。

 十時は焼きすぎて怒られている。


 薦野は、


「胃は痛いですが肉はうまいです……」


  半分泣きながら食べていた。


 戦続き。

 包囲。

 緊張。

 張り詰めていた空気が、少しだけ緩んでいた。

 誾千代は、その様子を見て嬉しそうに笑う。


「よかった」


 その横顔を、

 宗茂が静かに見ていた。


 誾千代は煤で頬を汚し、

 髪も乱れている。

 なのに妙に目を引いた。

 大きな瞳が笑うたび、

 周囲の空気まで明るくなる。

 宗茂は小さく息を吐く。


「……お前は本当に嵐みたいだな」


「ん?」


 誾千代が振り向く。


「今なんか言った?」


「いや」


「絶対なんか言った!」


 宗茂の口元が、少しだけ笑った。


 それを見た瞬間。

 誾千代が固まる。


「…………」


「どうした」


「……な、なんでもない」


 誾千代の耳が赤い。

 十時が後ろでニヤニヤしている。


「姫様」


「なに!」


「顔赤いですよ」


「うるさい!!」


 即答だった。


 兵たちの笑い声が広がる。

 戦の最中なのに。

 包囲されているのに。


 その夜だけは、

 立花山城に笑い声が戻っていた。




 ◇




 その頃。

 島津本陣。


「……なんか立花山城、騒がしくないですか?」


 兵が首を傾げる。

 確かに妙だった。


 笑い声。

 火。

 妙に明るい。


「なにしてるんだあいつら」


 島津忠長が眉をひそめる。

 その時。


「申し上げます!」


 兵が駆け込んできた。


「立花勢、西側山中で猪を狩っていた模様!!」


 沈黙。


「…………は?」


「猪?」


「はい!」


「なんで?」


「分かりません!!」


 本陣が静まり返る。

 歳久が真顔で呟いた。


「……包囲されてる側ですよな?」


「そのはずなんだがなぁ……」


 忠長が遠い目をした。


「なんであっちのほうが元気なんだ」


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

や・き・NIKU(∩*´-`*)⊃肉

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