宗茂を後ろに置きたくない
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます。
※本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
深呼吸~(๑´O`๑)スー(๑´□`๑)ハー
更新は21:00になります♬.*゜
島津軍本陣には、重苦しい空気が漂っていた。
誰もが疲れている。
理由は単純だった。
眠れていない。
立花山城を包囲してからというもの、夜になるたび立花勢が飛び出してくる。
火をつける。
柵を壊す。
鉄砲を撃つ。
しかも騒ぐだけ騒いで、山へ消える。
追えば逃げる。
戻ればまた来る。
忘れた頃に、もう一回来る。
最悪だった。
「昨夜の被害は」
新納忠元が書状を見ながら口を開く。
「西陣地、一部炎上」
「兵糧小屋、小火二件」
「見張り負傷六名」
「巡回兵、寝不足で斜面から転落一名」
「……またか」
島津忠長が深く息を吐いた。
目の下には、うっすら隈ができている。
「昨夜は静かでしたな」
「だから余計に怖かった」
「分かる」
「静かなところから、いきなり来ると心臓が飛び出る」
「ホラーですな」
誰も笑わない。
全員、疲れ切っていた。
しかも最近は、風で揺れる草木にすら反応する。
「北だ!!」
「違う、木だ!!」
「紛らわしいわ!!」
さっきも一騒ぎあったばかりだった。
そこへ――
「義弘様! 歳久様! ご到着!!」
本陣の空気が変わった。
幕を上げて現れたのは、島津義弘。
大柄な体を屈めながら入ってくる姿は、まさしく戦場慣れした猛将そのものだった。
鋭い目。
日に焼けた顔。
だが口元には、どこか人好きのする豪快さもある。
その後ろには、島津歳久。
細身。
整った顔立ち。
静かな目。
一見すると文官のようにも見えるが、その視線だけは異様に鋭かった。
島津家でも特に実戦経験に優れる二人である。
武将たちが一斉に姿勢を正した。
義弘は周囲を見回し、ぼりぼりと頭を掻いた。
「なんだお前たち」
一拍。
「顔が死んでるなぁ」
義弘は笑った。
図星だった。
◇
すぐに軍議が始まった。
地図が広げられる。
立花山城。
山の尾根を利用して築かれた天然の要害だった。
細い山道。
急斜面。
複雑に折り重なる曲輪。
正面から登るだけでも苦労する。
しかも――
「攻めるたび被害が出ます」
伊集院忠棟が報告する。
「ようやく取り付いても、鉄砲で押し返されます」
「ふむ」
「退けば夜襲」
「ふむ」
「最近は、夜になるだけで兵が怯え始めました」
「そこまでかぁ」
義弘が苦笑する。
忠棟は真顔だった。
「昨夜は、風で陣幕が揺れただけで騒ぎになりました」
「草木に槍向けた者もおります」
「味方を敵と見間違えた件も」
「……寝てないなぁ」
「三日まともに寝ておりません」
「それは辛い」
本気で同情していた。
だが問題は、そこでは終わらない。
「さらに――」
忠棟が一瞬言葉を切る。
「立花誾千代が前線に出てきます」
「誾千代ちゃんかぁ……」
「昨夜も確認されました」
義弘が、少し楽しそうに笑った。
「元気だなぁ、あの子」
「笑いながら突っ込んできたそうです」
「そりゃ怖いなぁ」
言っている内容は完全に敵評価なのに、どこか嬉しそうだった。
歳久が呆れたように言う。
「義弘兄さん、敵ですよ」
「分かってるって」
義弘は肩を竦める。
「やっぱ島津に欲しかったなぁ」
本音だった。
◇
歳久が一通りの報告を聞き終えた後、すっと視線を上げる。
「今までの経過報告を聞いたが…」
本陣が静まった。
歳久は感情を交えず、淡々と言った。
「立花山城攻略は、極めて効率が悪い」
冷静な声だった。
「地形が悪い」
「敵将が立花宗茂」
「兵の練度も高い」
現実が、一つずつ並べられていく。
武将たちの顔がどんどん死んでいった。
歳久はさらに続ける。
「攻めるたび損害が増える」
「包囲を長引かせれば疲弊する」
「突破しても後続に被害が出る」
「こちらだけ消耗していく」
一拍。
「結論として――」
歳久は真顔で言った。
「コスパが悪いです」
本陣が静まり返る。
だが次の瞬間。
「悪いですな……」
「かなり悪い」
「割に合いません」
全員、ものすごく納得していた。
義弘も腕を組む。
「ほんとだなぁ」
「非常に嫌な城です」
「しかも嫌な奴が入ってる」
「立花宗茂ですから」
「厄介だなぁ」
全員一致の本音だった。
◇
歳久が地図の北側を指でなぞる。
「……いっそ迂回しますか」
空気が止まった。
冗談ではない。
本気の提案だった。
忠元が慎重に口を開く。
「立花山城を無視して、北へ進軍する、と」
「ええ」
「不可能ではありません」
「ただし」
全員の顔が曇る。
義弘が先に言った。
「後ろから来るな」
「来ますな」
「絶対来ます」
即答だった。
宗茂が、そんな好機を見逃すわけがない。
補給路。
兵糧隊。
夜営地。
疲れたところを狙って、後ろから噛みついてくる。
しかも立花勢は、一度で終わらない。
しつこい。
何度でも来る。
忠棟が低く呟いた。
「後背を荒らされ続けますな……」
「それは勘弁してほしいなぁ」
義弘が頭を掻きながら本音を漏らす。
歳久も静かに頷いた。
「宗茂を後ろに置きたくありません」
その言葉に、全員が深く頷いた。
強いから怖いのではない。
嫌なタイミングで、
嫌な場所へ、
嫌なことをしてくる。
だから厄介なのだ。
◇
「それにしても」
義弘が、ふと笑った。
「誾千代ちゃんが戦慣れしてきてる」
「こう、毎夜毎夜出陣しては、慣れもするでしょう」
「南関峠のときはまだ必死さがあって可愛かったんだけどなぁ」
義弘は頭を掻きながら言った。
その時だった。
――パァン!!
遠くで鉄砲音。
本陣の空気が凍る。
「敵襲!?」
「北陣地で火の手!!」
「またかぁぁぁ!!」
武将たちが飛び出す。
兵たちの悲鳴が響いた。
「消火急げ!!」
「立花勢を探せ!!」
「見つかりません!!」
「なんでだ!!」
「もう消えてます!!」
混乱だった。
火が上がる陣地。
右往左往する兵。
怒鳴り声。
完全に振り回されていた。
義弘はその様子をしばらく眺めていたが、やがて呆れたように笑った。
「好き放題やられてるなぁ、お前たち」
誰も反論できない。
実際、その通りだった。
義弘は肩を竦める。
「島津の軍勢が、夜になるたび慌てふためいてどうする」
忠長が苦い顔で頭を下げた。
「……面目次第もございません」
「うん」
一拍。
義弘は、燃える陣地を見ながら深く息を吐いた。
「で」
本陣が静まり返る。
「毎夜、夜襲を止められなかったおまえたち」
武将たちの背筋が伸びる。
義弘は、にこりと笑った。
「減俸ね」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
本陣に悲鳴が響いた。
だがその間にも――
遠く、山の方で。
また鉄砲音が響いていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
2026年5月30日、7話から9話まで大幅改稿しました!
読んでもらえると嬉しいです。
島津4兄弟のお話足してます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾




