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『西国最強の夫婦まかり通る! 〜旦那様は今日も素敵です〜』  作者: 平子 天陽


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24/31

宗茂を後ろに置きたくない

こんにちは! あまはる です!

この物語を手に取っていただきありがとうございます。

※本作は史実を元にしたフィクションです。

 実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。

深呼吸~(๑´O`๑)スー(๑´□`๑)ハー

更新は21:00になります♬.*゜

 島津軍本陣には、重苦しい空気が漂っていた。


 誰もが疲れている。

 理由は単純だった。

 眠れていない。


 立花山城を包囲してからというもの、夜になるたび立花勢が飛び出してくる。


 火をつける。

 柵を壊す。

 鉄砲を撃つ。


 しかも騒ぐだけ騒いで、山へ消える。


 追えば逃げる。

 戻ればまた来る。

 忘れた頃に、もう一回来る。


 最悪だった。


「昨夜の被害は」


 新納忠元が書状を見ながら口を開く。


「西陣地、一部炎上」


「兵糧小屋、小火二件」


「見張り負傷六名」


「巡回兵、寝不足で斜面から転落一名」


「……またか」


 島津忠長が深く息を吐いた。


 目の下には、うっすら隈ができている。


「昨夜は静かでしたな」


「だから余計に怖かった」


「分かる」


「静かなところから、いきなり来ると心臓が飛び出る」


「ホラーですな」


 誰も笑わない。

 全員、疲れ切っていた。


 しかも最近は、風で揺れる草木にすら反応する。


「北だ!!」


「違う、木だ!!」


「紛らわしいわ!!」


 さっきも一騒ぎあったばかりだった。


 そこへ――


「義弘様! 歳久様! ご到着!!」


 本陣の空気が変わった。


 幕を上げて現れたのは、島津義弘。


 大柄な体を屈めながら入ってくる姿は、まさしく戦場慣れした猛将そのものだった。


 鋭い目。

 日に焼けた顔。


 だが口元には、どこか人好きのする豪快さもある。


 その後ろには、島津歳久。


 細身。

 整った顔立ち。

 静かな目。


 一見すると文官のようにも見えるが、その視線だけは異様に鋭かった。


 島津家でも特に実戦経験に優れる二人である。


 武将たちが一斉に姿勢を正した。

 義弘は周囲を見回し、ぼりぼりと頭を掻いた。


「なんだお前たち」


 一拍。


「顔が死んでるなぁ」


 義弘は笑った。


 図星だった。


 ◇


 すぐに軍議が始まった。


 地図が広げられる。


 立花山城。

 山の尾根を利用して築かれた天然の要害だった。


 細い山道。

 急斜面。

 複雑に折り重なる曲輪。

 正面から登るだけでも苦労する。


 しかも――


「攻めるたび被害が出ます」


 伊集院忠棟が報告する。


「ようやく取り付いても、鉄砲で押し返されます」


「ふむ」


「退けば夜襲」


「ふむ」


「最近は、夜になるだけで兵が怯え始めました」


「そこまでかぁ」


 義弘が苦笑する。

 忠棟は真顔だった。


「昨夜は、風で陣幕が揺れただけで騒ぎになりました」


「草木に槍向けた者もおります」


「味方を敵と見間違えた件も」


「……寝てないなぁ」


「三日まともに寝ておりません」


「それは辛い」


 本気で同情していた。

 だが問題は、そこでは終わらない。


「さらに――」


 忠棟が一瞬言葉を切る。


「立花誾千代が前線に出てきます」


「誾千代ちゃんかぁ……」


「昨夜も確認されました」


 義弘が、少し楽しそうに笑った。


「元気だなぁ、あの子」


「笑いながら突っ込んできたそうです」


「そりゃ怖いなぁ」


 言っている内容は完全に敵評価なのに、どこか嬉しそうだった。


 歳久が呆れたように言う。


「義弘兄さん、敵ですよ」


「分かってるって」


 義弘は肩を竦める。


「やっぱ島津に欲しかったなぁ」


 本音だった。


 ◇


 歳久が一通りの報告を聞き終えた後、すっと視線を上げる。


「今までの経過報告を聞いたが…」


 本陣が静まった。

 歳久は感情を交えず、淡々と言った。


「立花山城攻略は、極めて効率が悪い」


 冷静な声だった。


「地形が悪い」


「敵将が立花宗茂」


「兵の練度も高い」


 現実が、一つずつ並べられていく。

 武将たちの顔がどんどん死んでいった。

 歳久はさらに続ける。


「攻めるたび損害が増える」


「包囲を長引かせれば疲弊する」


「突破しても後続に被害が出る」


「こちらだけ消耗していく」


 一拍。


「結論として――」


 歳久は真顔で言った。


「コスパが悪いです」


 本陣が静まり返る。

 だが次の瞬間。


「悪いですな……」


「かなり悪い」


「割に合いません」


 全員、ものすごく納得していた。

 義弘も腕を組む。


「ほんとだなぁ」


「非常に嫌な城です」


「しかも嫌な奴が入ってる」


「立花宗茂ですから」


「厄介だなぁ」


 全員一致の本音だった。


 ◇


 歳久が地図の北側を指でなぞる。


「……いっそ迂回しますか」


 空気が止まった。

 冗談ではない。

 本気の提案だった。


 忠元が慎重に口を開く。


「立花山城を無視して、北へ進軍する、と」


「ええ」


「不可能ではありません」


「ただし」


 全員の顔が曇る。

 義弘が先に言った。


「後ろから来るな」


「来ますな」


「絶対来ます」


 即答だった。

 宗茂が、そんな好機を見逃すわけがない。


 補給路。

 兵糧隊。

 夜営地。


 疲れたところを狙って、後ろから噛みついてくる。


 しかも立花勢は、一度で終わらない。


 しつこい。

 何度でも来る。

 忠棟が低く呟いた。


「後背を荒らされ続けますな……」


「それは勘弁してほしいなぁ」


 義弘が頭を掻きながら本音を漏らす。

 歳久も静かに頷いた。


「宗茂を後ろに置きたくありません」


 その言葉に、全員が深く頷いた。


 強いから怖いのではない。

 嫌なタイミングで、

 嫌な場所へ、

 嫌なことをしてくる。

 だから厄介なのだ。


 ◇


「それにしても」


 義弘が、ふと笑った。


「誾千代ちゃんが戦慣れしてきてる」


「こう、毎夜毎夜出陣しては、慣れもするでしょう」


「南関峠のときはまだ必死さがあって可愛かったんだけどなぁ」


 義弘は頭を掻きながら言った。


 その時だった。


 ――パァン!!


 遠くで鉄砲音。

 本陣の空気が凍る。


「敵襲!?」


「北陣地で火の手!!」


「またかぁぁぁ!!」


 武将たちが飛び出す。

 兵たちの悲鳴が響いた。


「消火急げ!!」


「立花勢を探せ!!」


「見つかりません!!」


「なんでだ!!」


「もう消えてます!!」


 混乱だった。

 火が上がる陣地。

 右往左往する兵。

 怒鳴り声。

 完全に振り回されていた。


 義弘はその様子をしばらく眺めていたが、やがて呆れたように笑った。


「好き放題やられてるなぁ、お前たち」


 誰も反論できない。

 実際、その通りだった。

 義弘は肩を竦める。


「島津の軍勢が、夜になるたび慌てふためいてどうする」


 忠長が苦い顔で頭を下げた。


「……面目次第もございません」


「うん」


 一拍。

 義弘は、燃える陣地を見ながら深く息を吐いた。


「で」


 本陣が静まり返る。


「毎夜、夜襲を止められなかったおまえたち」


 武将たちの背筋が伸びる。

 義弘は、にこりと笑った。


「減俸ね」


「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 本陣に悲鳴が響いた。


 だがその間にも――

 遠く、山の方で。

 また鉄砲音が響いていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

2026年5月30日、7話から9話まで大幅改稿しました!

読んでもらえると嬉しいです。

島津4兄弟のお話足してます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾

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