鬼はどっちだ
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます。
※本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
心にゆとりを持ってお読みくださいー(^^)ノ
更新は毎日21:00になります♬.*゜
岩屋城を落とした勢いのまま、島津軍は立花山城を包囲した。
だが、落ちない。
曲輪を一つ奪っても、夜には押し返される。
壊した柵は翌日には直り、
しかもなぜか増えている。
攻める。
押し返される。
また攻める。
それでも城は崩れなかった。
細い山道。
急斜面。
複雑に重なる曲輪。
ようやく登った頃には、
矢と鉄砲が飛んでくる。
気付けば、
島津軍の疲労だけが積み重なっていた。
そして――
宗茂は、その疲れを見逃さなかった。
◇
広間。
宗茂は、広げられた地図を静かに見下ろしていた。
周囲には、小野鎮幸、薦野増時、十時連貞。
「北側、陣が増えてますな」
小野が地図の一点を示す。
「西にも柵が伸びています」
薦野が眉を寄せた。
「完全に腰を据える気ですな……」
「急いで落とせないと判断したんだろう」
十時が肩を竦める。
「嫌ですねぇ。粘る相手ってのは」
宗茂は視線を上げない。
立花山城は堅い。
だが、無限ではない。
兵糧も、
矢も、
火薬も、
人の体力も。
減り続ければ、いずれ限界は来る。
宗茂は、しばらく敵陣の灯を見下ろしていた。
「島津は強い」
静かな声だった。
誰も否定しない。
岩屋城を落とした勢い。
兵の練度。
押し切る力。
どれを取っても、今の島津軍は九州でも屈指だった。
だが――
「潰そうとは思うな」
一瞬。
十時が目を細める。
「……勝たなくていい、と?」
「ああ」
宗茂は静かに答えた。
「この城を落とさせなければ、それでいい」
小野が小さく頷く。
「時間ですな」
「島津も、永遠に攻め続けられるわけじゃない」
宗茂は続けた。
「長引けば兵も疲れる。兵糧も減る。周りも動く」
薦野が、ゆっくり息を吐く。
「……つまり、焦る必要はないと」
「こちらが崩れなければ、島津は止まる」
静かな断言だった。
その空気を切るように、
十時が口元を吊り上げる。
「――なら、なおさら寝かせちゃ駄目ですねぇ」
宗茂が頷く。
「休ませるな」
一瞬。
十時が、にやりと笑った。
「夜もですか」
「ああ」
宗茂は敵陣の灯を見下ろす。
「眠れぬ軍は鈍る」
「島津が化け物なら、疲れさせて人に戻す」
小野が静かに頷いた。
「理にはかなっています」
「理にはかなってますけど!!」
薦野だけが叫ぶ。
「我々も寝てませんよ!?」
「向こうも寝てない」
「道連れですか!?」
本気で胃が痛そうだった。
◇
島津軍本陣。
「……静かですな」
忠元がぽつりと呟く。
静かだった。
ここ数日、
夜になるたび立花勢が動く。
火が上がる。
鉄砲が鳴る。
誰かが叫ぶ。
それが続きすぎて、
逆に静かな時間が不気味になっていた。
「今夜は来ませんかね……」
誰かが小さく言った。
「来ないと逆に怖いな」
「分かる」
「やめろ」
全員ちょっと疲れていた。
その時。
「申し上げます!!」
兵が転がり込んでくる。
「今度はなんだ!!」
「北側斜面に、また新しい土塁が!!」
「また増えたのか!?」
「しかも夜のうちに道まで掘り変えております!!」
「寝ろあいつら!!」
「こっちが寝たいです!!」
本気の悲鳴だった。
忠長が机に突っ伏す。
「……なんなんだあの城」
「山が自己修復しているのでは」
「やめろ怖い」
その瞬間。
――パァン!!
乾いた鉄砲音が夜を裂いた。
「!?」
「敵襲ーーッ!!」
悲鳴が本陣を貫く。
「来たァ!!」
忠長が叫んだ。
外では火の手が上がり、兵たちが右往左往している。
「申し上げます!!」
兵が転がり込んできた。
「西陣地炎上!」
「兵糧小屋に火!」
「敵の動きが速すぎます!!」
「誰だ今回は!!」
「十時連貞殿と――」
一瞬、兵が詰まる。
「立花誾千代です!!」
本陣が静まり返った。
「……またあの姫か」
武将たちが遠い目になる。
外では悲鳴。
鉄砲。
怒号。
「立花の姫が前に出ています!!」
「十時殿も止まりません!!」
「撃っても引きません!!」
「笑って突っ込んできます!!」
本陣の空気が凍る。
「……なんなんだあの姫は」
誰かが真顔で呟いた。
「…鬼か」
一瞬、沈黙。
そして忠元が真顔で呟く。
「…鬼は島津の専売特許だろうが」
※鬼島津。
島津義弘をはじめ、その凄まじい強さから恐れられた異名。
「もうどっちが鬼なんだか!!」
本陣は完全に混乱していた。
◇
燃え広がる陣幕を見て、誾千代が静かに息を吐く。
「火、回ったね」
「見事ですねぇ」
十時が笑った。
立花勢が駆け抜ける。
斬る。
放つ。
火を入れる。
そして消える。
速い。
とにかく速い。
島津側が態勢を整える頃には、もう山の闇へ紛れていた。
◇
「戻ったよ~」
誾千代が城へ入る。
たまが涙目で駆け寄った。
「姫様ァ!!」
「たま~、ただいま~」
「良かったですぅ……!」
そこへ宗茂が現れる。
「どうだった」
「かなり混乱してた」
誾千代が答える。
「今夜はもう眠れないと思う」
「そうか」
宗茂は静かに頷いた。
「だが、明日には立て直す」
「うん」
誾千代も頷く。
「だから、また行くんだよね」
「ああ」
宗茂が短く答えた。
「休ませない」
その横で。
薦野増時だけが死んだ目をしていた。
「……誰か寝るという選択肢をください」
誰も答えない。
十時が笑い、
小野が無言で地図を広げる。
誾千代も苦笑した。
「……休む暇、ないね」
「夜襲行ってる姫様が言わないでください!!」
たまの悲鳴が飛ぶ。
「えっ、私?」
十時が吹き出した。
小野は堪えるように咳払いし、
「……もう止めるだけ無駄ですな」
薦野は額を押さえる。
宗茂は燃える敵陣を静かに見下ろした。
「強い相手ほど、休ませるな」
立花山城。
そこは、
眠らず、
止まらず、
敵を削り続ける城だった。
夜が来ても、
静かにならない。
火が上がる。
鉄砲が鳴る。
誰かが駆ける。
そして島津軍は、
少しずつ理解し始めていた。
――鬼は、自分たちだけではないと。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




