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『西国最強の夫婦まかり通る! 〜旦那様は今日も素敵です〜』  作者: 平子 天陽


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22/31

立花山城、包囲

こんにちは! あまはる です!

この物語を手に取っていただきありがとうございます。

※本作は史実を元にしたフィクションです。

 実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。

心にゆとりを持ってお読みください(^^)

更新は21:00になります♬.*゜

 岩屋城が落ちた。


 高橋紹運、討死。

 その報せは、立花山城の空気そのものを変えた。


 半月。


 わずか七百余で、島津の大軍を止め続けた末の玉砕。

 誰もが理解していた。


 ――時間を稼いだのだ。


 立花山城のために。

 北部九州のために。


 そして今。


 高橋紹運が命を賭して稼いだ時間で、立花山城は迎え撃つ準備を整えていた。

 その城を率いるのが、立花宗茂だった。


 ◇


 立花山城。


 筑前でも屈指の山城。

 険しい尾根。

 狭い登城路。

 深い谷。


 攻め手は登るだけで隊列が崩れる。


 そのうえ上から、

 矢。

 鉄砲。

 石。

 丸太。

 ありとあらゆるものが降ってくる。


 城というより、

 “山そのものが守っている城”

 だった。


 その山の麓を、黒い軍勢が埋め尽くしていた。


 島津軍。


 岩屋城を落とした勢いのまま、ついに立花山城を包囲したのである。


 無数の旗が揺れる。

 槍が並ぶ。

 陣幕が広がる。

 山を囲むように築かれていく陣地は、まるで巨大な獣が獲物を取り囲んでいるみたいだった。


 それでも立花山城は、微動だにしない。


 ◇


「西尾根、接敵!」


「南曲輪方面にも旗!」


「包囲、さらに広がっております!」


 報告が次々と飛び込む。


 立花山城の広間では、宗茂が静かに地図を見ていた。


 小野鎮幸。

 十時連貞。

 薦野増時。


 立花家の主だった者たちも揃っている。


 空気は重い。


 岩屋城陥落の報せから、まだ日が浅い。

 城内には緊張が張りつめ、周辺戦での消耗も積み重なっていた。


「……早いですね」


 小野が低く言った。


「岩屋城での遅れを取り戻したいのでしょう」


 宗茂は短く頷く。


「島津は秀吉が本格的に動く前に終わらせたい」


 つまり。

 島津側も焦っている。

 だから攻めが速い。

 そして強い。


「怖いくらい元気ですねぇ……」


 薦野が疲れた顔で呟く。


「島津の人たち寝てるんですか?」


「寝てるだろ」


 十時が適当に返した。


「じゃないと死ぬ」


「わたしは胃が痛くて死にそうです」


 薦野は本気だった。

 ここ数ヶ月、ずっと胃が痛い。

 たぶんもう限界だった。


 ◇


 一方。

 島津軍本陣。


 総大将格として前線を率いていた島津忠長は、険しい顔で立花山城を見上げていた。


「……高いな」


 思わず漏れた本音だった。

 横では、新納忠元と伊集院忠棟が地図を広げている。


「正面は狭すぎますな」


「兵を並べられる場所が限られます」


「大軍を活かせる地形ではありませんな」


 攻めにくい。

 とにかく攻めにくい。

 しかも守っているのは、立花宗茂。

 岩屋城を失った直後だというのに、城内の動きが妙に早かった。


「申し上げます!」


 兵が駆け込んでくる。


「北側斜面、攻撃失敗!」


「またか」


「石と鉄砲で押し返されました!」


「被害は?」


「……大きいです」


 忠長が顔をしかめる。

 攻める。

 押し返される。

 また攻める。

 だが、崩れない。

 まるで山そのものに拒まれているみたいだった。


「……岩屋の次がこれか」


 忠長がぼそっと言う。


「頭が痛いな」


 忠元が真顔で頷いた。


 ◇


 その頃。


 立花山城の内部では、人が休みなく動いていた。


「矢束、東の櫓へ!」


「水桶もっと運んで!」


「負傷兵は奥へ!」


 兵だけではない。

 女たちも、小者も、皆動いている。


「そっち手伝う!」


「兵糧そこ固めないで! 燃えたら大変!」


「縄こっちー!」


 誾千代が城内を駆け回る。


 袖をたすきでまとめ、短く切った髪を後ろで結んでいる。


 もう以前の姫装束ではない。


 完全に戦時の姿だった。


「姫様! 危ないですから走らないでください!」


「今そんなこと言ってる場合!?」


 動きに迷いがない。


 そして誰も止めない。


 立花誾千代は、既にこの城の戦力だった。


「姫様ー!」


 奥から、たまが半泣きで走ってくる。


「また石運んでるんですか!?」


「足りないんだもん!」


「姫様がやることじゃありません!」


「でも落とす石、多いほうがいいでしょ?」


「笑顔で言わないでください!!」


 たまは頭を抱えた。

 最近の姫様、完全に戦場寄りである。

 もう止まらない。


「あと姫様、お茶飲んでください!」


「あとで!」


「その“あとで”が来ないんです!!」


 十時が後ろで笑っている。


「たま殿、諦めたほうが早いですよ」


「諦めたくありません!」


 ◇


 宗茂が、その横を通る。


「休め」


「旦那様こそ!」


 即答だった。


「ずっと地図見てる!」


「見ないと死ぬ」


「怖いことを平然と言わないで!」


 誾千代が眉を寄せる。


 宗茂は相変わらず真顔だった。


 十時が小さく笑う。


「殿、三日まともに寝てませんからね」


「十時殿も寝てないでしょう」


「まあ」


 薦野が深くため息をついた。


「この城、誰も休もうとしないんですよ……」


 その声にも、疲労が滲んでいた。


 ◇


 夕刻。

 島津方から使者が現れる。


「開城要求です!」


 空気が変わった。


 城壁の上。

 宗茂が前へ出る。

 風が強い。

 眼下には、島津軍の陣。


 使者が声を張り上げた。


「立花宗茂殿!」


「岩屋城は落ちた!」


「これ以上抗っても無意味!」


「開城されよ!」


 静寂。

 城兵たちが宗茂を見る。

 誾千代も、息を止めていた。


 ――岩屋は落ちた。


 だが。

 紹運は、退かなかった。


 その背を、誾千代は思い出す。

 風みたいに笑って。

 最後まで前を向いていた。


 宗茂が静かに口を開く。


「断る」


 短かった。

 使者が眉をひそめる。


「なに?」


 宗茂の視線は揺れない。


「ここは立花の名字の地だ」


 風が吹く。


「捨てる気はない」


 それだけだった。

 だが。

 その言葉で、城内の空気が変わる。

 兵たちの目に、再び火が入る。

 使者はしばらく黙り込んだあと、小さく息を吐いた。


「……そうか」


 それ以上は言わなかった。

 言っても無駄だと分かったのだ。


 ◇


 使者が戻る。

 島津軍本陣。


「……で?」


 忠長が腕を組む。

 使者は疲れた顔で答えた。


「断られました」


「だろうな」


「あと」


 一瞬、言いづらそうに口を止める。


「“名字の地なので捨てない”と」


 沈黙。

 忠元が小さく息を吐く。


「立花らしいな」


 忠棟は地図を見る。


「つまり、徹底抗戦か」


「でしょうな」


 外では、立花山城の篝火が揺れている。


 高い。

 遠い。

 そして妙に威圧感がある。


「……嫌な城だ」


 忠長がぼそっと言った。

 誰も否定できなかった。


 ◇


 その夜。


 立花山城では、まだ人の足音が止まらなかった。


 防御用の戸板を運ぶ音。

 石を積む音。

 鉄砲を拭く音。

 怒鳴り声。

 走る音。

 城そのものが、眠っていない。


 そして。

 その山の上から。

 宗茂は、島津軍の篝火を静かに見下ろしていた。


「……多いね」


 誾千代がぽつりと漏らす。


「ああ」


「怖くないの?」


「怖い」


 誾千代が少し驚く。

 宗茂は平然としていたからだ。


「でも、退けば終わる」


 その言葉に、誾千代は父を思い出す。


 ――なら退けん。


 同じだった。

 この人たちは。

 戦になると、同じ顔をする。


 風が吹く。

 山の木々が揺れる。


 その下では。

 島津軍が、静かに陣を広げ続けていた。

 宗茂は、その篝火を見下ろしたまま。

 静かに言った。


「……寝かせるな」


 一瞬。

 十時連貞が、にやりと笑った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次回、あばれます\\\\٩( 'ω' )و ////

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