立花山城、包囲
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます。
※本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
心にゆとりを持ってお読みください(^^)
更新は21:00になります♬.*゜
岩屋城が落ちた。
高橋紹運、討死。
その報せは、立花山城の空気そのものを変えた。
半月。
わずか七百余で、島津の大軍を止め続けた末の玉砕。
誰もが理解していた。
――時間を稼いだのだ。
立花山城のために。
北部九州のために。
そして今。
高橋紹運が命を賭して稼いだ時間で、立花山城は迎え撃つ準備を整えていた。
その城を率いるのが、立花宗茂だった。
◇
立花山城。
筑前でも屈指の山城。
険しい尾根。
狭い登城路。
深い谷。
攻め手は登るだけで隊列が崩れる。
そのうえ上から、
矢。
鉄砲。
石。
丸太。
ありとあらゆるものが降ってくる。
城というより、
“山そのものが守っている城”
だった。
その山の麓を、黒い軍勢が埋め尽くしていた。
島津軍。
岩屋城を落とした勢いのまま、ついに立花山城を包囲したのである。
無数の旗が揺れる。
槍が並ぶ。
陣幕が広がる。
山を囲むように築かれていく陣地は、まるで巨大な獣が獲物を取り囲んでいるみたいだった。
それでも立花山城は、微動だにしない。
◇
「西尾根、接敵!」
「南曲輪方面にも旗!」
「包囲、さらに広がっております!」
報告が次々と飛び込む。
立花山城の広間では、宗茂が静かに地図を見ていた。
小野鎮幸。
十時連貞。
薦野増時。
立花家の主だった者たちも揃っている。
空気は重い。
岩屋城陥落の報せから、まだ日が浅い。
城内には緊張が張りつめ、周辺戦での消耗も積み重なっていた。
「……早いですね」
小野が低く言った。
「岩屋城での遅れを取り戻したいのでしょう」
宗茂は短く頷く。
「島津は秀吉が本格的に動く前に終わらせたい」
つまり。
島津側も焦っている。
だから攻めが速い。
そして強い。
「怖いくらい元気ですねぇ……」
薦野が疲れた顔で呟く。
「島津の人たち寝てるんですか?」
「寝てるだろ」
十時が適当に返した。
「じゃないと死ぬ」
「わたしは胃が痛くて死にそうです」
薦野は本気だった。
ここ数ヶ月、ずっと胃が痛い。
たぶんもう限界だった。
◇
一方。
島津軍本陣。
総大将格として前線を率いていた島津忠長は、険しい顔で立花山城を見上げていた。
「……高いな」
思わず漏れた本音だった。
横では、新納忠元と伊集院忠棟が地図を広げている。
「正面は狭すぎますな」
「兵を並べられる場所が限られます」
「大軍を活かせる地形ではありませんな」
攻めにくい。
とにかく攻めにくい。
しかも守っているのは、立花宗茂。
岩屋城を失った直後だというのに、城内の動きが妙に早かった。
「申し上げます!」
兵が駆け込んでくる。
「北側斜面、攻撃失敗!」
「またか」
「石と鉄砲で押し返されました!」
「被害は?」
「……大きいです」
忠長が顔をしかめる。
攻める。
押し返される。
また攻める。
だが、崩れない。
まるで山そのものに拒まれているみたいだった。
「……岩屋の次がこれか」
忠長がぼそっと言う。
「頭が痛いな」
忠元が真顔で頷いた。
◇
その頃。
立花山城の内部では、人が休みなく動いていた。
「矢束、東の櫓へ!」
「水桶もっと運んで!」
「負傷兵は奥へ!」
兵だけではない。
女たちも、小者も、皆動いている。
「そっち手伝う!」
「兵糧そこ固めないで! 燃えたら大変!」
「縄こっちー!」
誾千代が城内を駆け回る。
袖をたすきでまとめ、短く切った髪を後ろで結んでいる。
もう以前の姫装束ではない。
完全に戦時の姿だった。
「姫様! 危ないですから走らないでください!」
「今そんなこと言ってる場合!?」
動きに迷いがない。
そして誰も止めない。
立花誾千代は、既にこの城の戦力だった。
「姫様ー!」
奥から、たまが半泣きで走ってくる。
「また石運んでるんですか!?」
「足りないんだもん!」
「姫様がやることじゃありません!」
「でも落とす石、多いほうがいいでしょ?」
「笑顔で言わないでください!!」
たまは頭を抱えた。
最近の姫様、完全に戦場寄りである。
もう止まらない。
「あと姫様、お茶飲んでください!」
「あとで!」
「その“あとで”が来ないんです!!」
十時が後ろで笑っている。
「たま殿、諦めたほうが早いですよ」
「諦めたくありません!」
◇
宗茂が、その横を通る。
「休め」
「旦那様こそ!」
即答だった。
「ずっと地図見てる!」
「見ないと死ぬ」
「怖いことを平然と言わないで!」
誾千代が眉を寄せる。
宗茂は相変わらず真顔だった。
十時が小さく笑う。
「殿、三日まともに寝てませんからね」
「十時殿も寝てないでしょう」
「まあ」
薦野が深くため息をついた。
「この城、誰も休もうとしないんですよ……」
その声にも、疲労が滲んでいた。
◇
夕刻。
島津方から使者が現れる。
「開城要求です!」
空気が変わった。
城壁の上。
宗茂が前へ出る。
風が強い。
眼下には、島津軍の陣。
使者が声を張り上げた。
「立花宗茂殿!」
「岩屋城は落ちた!」
「これ以上抗っても無意味!」
「開城されよ!」
静寂。
城兵たちが宗茂を見る。
誾千代も、息を止めていた。
――岩屋は落ちた。
だが。
紹運は、退かなかった。
その背を、誾千代は思い出す。
風みたいに笑って。
最後まで前を向いていた。
宗茂が静かに口を開く。
「断る」
短かった。
使者が眉をひそめる。
「なに?」
宗茂の視線は揺れない。
「ここは立花の名字の地だ」
風が吹く。
「捨てる気はない」
それだけだった。
だが。
その言葉で、城内の空気が変わる。
兵たちの目に、再び火が入る。
使者はしばらく黙り込んだあと、小さく息を吐いた。
「……そうか」
それ以上は言わなかった。
言っても無駄だと分かったのだ。
◇
使者が戻る。
島津軍本陣。
「……で?」
忠長が腕を組む。
使者は疲れた顔で答えた。
「断られました」
「だろうな」
「あと」
一瞬、言いづらそうに口を止める。
「“名字の地なので捨てない”と」
沈黙。
忠元が小さく息を吐く。
「立花らしいな」
忠棟は地図を見る。
「つまり、徹底抗戦か」
「でしょうな」
外では、立花山城の篝火が揺れている。
高い。
遠い。
そして妙に威圧感がある。
「……嫌な城だ」
忠長がぼそっと言った。
誰も否定できなかった。
◇
その夜。
立花山城では、まだ人の足音が止まらなかった。
防御用の戸板を運ぶ音。
石を積む音。
鉄砲を拭く音。
怒鳴り声。
走る音。
城そのものが、眠っていない。
そして。
その山の上から。
宗茂は、島津軍の篝火を静かに見下ろしていた。
「……多いね」
誾千代がぽつりと漏らす。
「ああ」
「怖くないの?」
「怖い」
誾千代が少し驚く。
宗茂は平然としていたからだ。
「でも、退けば終わる」
その言葉に、誾千代は父を思い出す。
――なら退けん。
同じだった。
この人たちは。
戦になると、同じ顔をする。
風が吹く。
山の木々が揺れる。
その下では。
島津軍が、静かに陣を広げ続けていた。
宗茂は、その篝火を見下ろしたまま。
静かに言った。
「……寝かせるな」
一瞬。
十時連貞が、にやりと笑った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次回、あばれます\\\\٩( 'ω' )و ////




