表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『西国最強の夫婦まかり通る! 〜旦那様は今日も素敵です〜』  作者: 平子 天陽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/31

天下人キレる

こんにちは! あまはる です!

この物語を手に取っていただきありがとうございます。

※本作は史実を元にしたフィクションです。

 実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。

心にゆとりを持ってお読みください(^^)

更新は21:00になります♬.*゜

 島津氏は、止まらなかった。


 南から押し寄せる黒い奔流は、九州を呑み込む勢いのまま北へ進み続けている。


 城が落ちる。

 砦が崩れる。

 道が断たれる。


 援軍は間に合わず、敗報ばかりが先に届いた。


 肥後で交戦。

 筑後で後退。

 豊後で敗走。


 そして――


 大友氏は、もはや防ぎきれていなかった。

 戦は続いていた。

 その報告は、毎日のように立花山城へ運び込まれる。


「肥後方面、後退!」


「筑後で再交戦!」


「島津軍、進軍継続中!」


「継続しすぎでは!?」


 薦野増時(こもの ますとき)が叫んだ。

 完全に胃が死にかけている顔だった。


「兵糧足りません!」


「矢も足りません!」


「寝る時間もありません!!」


「最後は気合いだな」


 十時連貞が真顔で返す。


「気合いでどうにかなる段階じゃないんですよ!!」


 薦野は本気だった。

 本気で限界だった。

 この数ヶ月、立花勢はずっと戦っている。


 敵が来る。

 押し返す。

 だが数日後には、別方向からまた島津が来る。


「なんなんですかあの人たち……」


 薦野が遠い目になる。


「夜襲してきますし!」


「退いても追ってきますし!」


「怖いんですよ!!」


「知ってる」


 宗茂が静かに答えた。

 その横で、小野鎮幸が地図を見つめている。


「……早いですね」


「ああ」


 短い返答。

 だが重かった。


 南関峠では押し返した。

 確かに勝った。

 普通なら、あれで勢いは鈍る。

 軍勢というものは、一度ぶつかれば必ず疲弊する。


 兵が減る。

 物資が減る。

 士気も揺れる。


 だが――


 島津は止まらない。


 まるで、勝つほど勢いを増す化け物だった。


「……戦慣れしている」


 宗茂がぽつりと言う。


「負け方も知っている」


 島津軍は強い。

 ただ勇猛なだけではない。


 崩れ方を知っている。

 退き方を知っている。


 そして何より。


 死ぬほど実戦経験がある。


 九州南部で延々と戦を続け、勝ち抜いてきた一族。

 場数が違った。


「厄介ですねぇ」


 十時が笑う。


 笑っているが、目は全然笑っていない。


 その時だった。


 廊下を駆ける足音。


「急報!」


 使者が飛び込んでくる。


「島津軍、さらに北上!」


「また!?」


 薦野が叫ぶ。


「どれだけ元気なんですかあの人たち!!」


 使者はさらに続けた。


「各地で大友方敗走!」


「国衆の離反も増えております!」


 空気が沈む。

 立花山城は、まだ持っている。


 だが。


 九州全体で見れば、戦況は悪化していた。

 じわじわではない。

 ものすごい勢いで崩れている。


 そして――


 その報せは、ついに中央へ届いた。



 ◇


 京。

 聚楽第(じゅらくだい)


 豪華絢爛な廊下を、奉行たちが慌ただしく行き交っていた。


 その中心。

 巨大な机の前で。

 豊臣秀吉は、九州から届いた報告書をぱらぱらとめくっていた。


「えーっと……」


 一枚読む。


「肥後やばい」


 二枚目。


「大友やばい」


 三枚目。


「島津つよい」


 沈黙。


「……何これ、雑やなあ」


 奉行たちが固まった。


「もうちょっとこう! 書き方あるやろ!」


「申し訳ございません!」


「いや謝られても、ちゃんと仕事して!」


 秀吉はぶつぶつ言いながら次を読む。


「道雪おらん」


「紹運ふんばってる」


「立花山城のみ維持」


「……ん?」


 ぴたり、と手が止まった。


「立花山城だけ?」


「はい」


「他は?」


「かなり厳しい状況かと」


「かなりどころちゃうやろこれ」


 秀吉は地図を見る。


 薩摩。

 大隅。

 日向。

 肥後。


 そこから北へ伸びる侵攻線。


「……島津、どこまで来とる?」


「筑前方面まで圧迫しております」


「えっ」


 秀吉、固まる。


「いやいやいや」


 指で距離を測る。


「来すぎやろ」


 奉行たち、無言。

 秀吉はさらに書状を読む。


「宗茂、単独で戦線維持」


「……立花の婿やったか?」


 側近が頭を下げた。


「立花宗茂にございます」


「若いながら非常に優秀な武将かと」


「若いの?」


「はい」


「で、島津相手に耐えとる?」


「かなり」


「ほー……」


 秀吉の目が少し細くなる。

 だが次の瞬間。


「で、島津は?」


 書状にはこう書かれていた。


『勢い増加中』


 沈黙。


「……いやいや」


 秀吉は机を軽く叩いた。


「ちょっと調子乗りすぎちゃう?」


 空気が凍る。


「いや勝つのはええ!」


「戦国やし!」


「でも限度あるやろ限度!」


 地図をびしっと指差す。


「なんでまだ進んどるん!?」


「止まる気配がありません」


「元気やなぁ……」


 一周回って感心した。


 だが。


「いや感心してる場合ちゃうわ」


 すっと立ち上がる。


 その瞬間。

 場の空気が変わった。


 さっきまでの軽さが消える。

 そこにいるのは。

 天下を統べる者だった。


「九州だけの戦やない」


 秀吉は静かに言う。


「ここ崩れたら、西全部荒れる」


 誰も口を開けない。


「毛利も動く」


「四国も揺れる」


「せっかく纏まり始めた天下が、また乱れる」


 軽い調子の声だった。


 だが。

 誰も逆らえない。

 それが天下人の言葉だった。

 秀吉は地図を見下ろしたまま言う。


「……停戦命令、出すぞ」


 奉行たちが一斉に顔を上げる。


「島津にも大友にも通達しろ」


「はっ!」


「それで止まらんかったら」


 一瞬の沈黙。


 そして。

 秀吉が笑った。

 にやりと。

 獲物を見つけたみたいに。


「――わしが行く」


 もし天下人が本気で動けば。


 九州の戦は、“地方の争い”では終わらない。


 日本中を巻き込む戦になる。


 まだ。


 この時点では。


 島津も、大友も、立花も知らない。


 遠い京で。


 天下人が、ついに九州へ目を向け始めたことを。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

秀吉登場!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ