天下人キレる
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます。
※本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
心にゆとりを持ってお読みください(^^)
更新は21:00になります♬.*゜
島津氏は、止まらなかった。
南から押し寄せる黒い奔流は、九州を呑み込む勢いのまま北へ進み続けている。
城が落ちる。
砦が崩れる。
道が断たれる。
援軍は間に合わず、敗報ばかりが先に届いた。
肥後で交戦。
筑後で後退。
豊後で敗走。
そして――
大友氏は、もはや防ぎきれていなかった。
戦は続いていた。
その報告は、毎日のように立花山城へ運び込まれる。
「肥後方面、後退!」
「筑後で再交戦!」
「島津軍、進軍継続中!」
「継続しすぎでは!?」
薦野増時が叫んだ。
完全に胃が死にかけている顔だった。
「兵糧足りません!」
「矢も足りません!」
「寝る時間もありません!!」
「最後は気合いだな」
十時連貞が真顔で返す。
「気合いでどうにかなる段階じゃないんですよ!!」
薦野は本気だった。
本気で限界だった。
この数ヶ月、立花勢はずっと戦っている。
敵が来る。
押し返す。
だが数日後には、別方向からまた島津が来る。
「なんなんですかあの人たち……」
薦野が遠い目になる。
「夜襲してきますし!」
「退いても追ってきますし!」
「怖いんですよ!!」
「知ってる」
宗茂が静かに答えた。
その横で、小野鎮幸が地図を見つめている。
「……早いですね」
「ああ」
短い返答。
だが重かった。
南関峠では押し返した。
確かに勝った。
普通なら、あれで勢いは鈍る。
軍勢というものは、一度ぶつかれば必ず疲弊する。
兵が減る。
物資が減る。
士気も揺れる。
だが――
島津は止まらない。
まるで、勝つほど勢いを増す化け物だった。
「……戦慣れしている」
宗茂がぽつりと言う。
「負け方も知っている」
島津軍は強い。
ただ勇猛なだけではない。
崩れ方を知っている。
退き方を知っている。
そして何より。
死ぬほど実戦経験がある。
九州南部で延々と戦を続け、勝ち抜いてきた一族。
場数が違った。
「厄介ですねぇ」
十時が笑う。
笑っているが、目は全然笑っていない。
その時だった。
廊下を駆ける足音。
「急報!」
使者が飛び込んでくる。
「島津軍、さらに北上!」
「また!?」
薦野が叫ぶ。
「どれだけ元気なんですかあの人たち!!」
使者はさらに続けた。
「各地で大友方敗走!」
「国衆の離反も増えております!」
空気が沈む。
立花山城は、まだ持っている。
だが。
九州全体で見れば、戦況は悪化していた。
じわじわではない。
ものすごい勢いで崩れている。
そして――
その報せは、ついに中央へ届いた。
◇
京。
聚楽第。
豪華絢爛な廊下を、奉行たちが慌ただしく行き交っていた。
その中心。
巨大な机の前で。
豊臣秀吉は、九州から届いた報告書をぱらぱらとめくっていた。
「えーっと……」
一枚読む。
「肥後やばい」
二枚目。
「大友やばい」
三枚目。
「島津つよい」
沈黙。
「……何これ、雑やなあ」
奉行たちが固まった。
「もうちょっとこう! 書き方あるやろ!」
「申し訳ございません!」
「いや謝られても、ちゃんと仕事して!」
秀吉はぶつぶつ言いながら次を読む。
「道雪おらん」
「紹運ふんばってる」
「立花山城のみ維持」
「……ん?」
ぴたり、と手が止まった。
「立花山城だけ?」
「はい」
「他は?」
「かなり厳しい状況かと」
「かなりどころちゃうやろこれ」
秀吉は地図を見る。
薩摩。
大隅。
日向。
肥後。
そこから北へ伸びる侵攻線。
「……島津、どこまで来とる?」
「筑前方面まで圧迫しております」
「えっ」
秀吉、固まる。
「いやいやいや」
指で距離を測る。
「来すぎやろ」
奉行たち、無言。
秀吉はさらに書状を読む。
「宗茂、単独で戦線維持」
「……立花の婿やったか?」
側近が頭を下げた。
「立花宗茂にございます」
「若いながら非常に優秀な武将かと」
「若いの?」
「はい」
「で、島津相手に耐えとる?」
「かなり」
「ほー……」
秀吉の目が少し細くなる。
だが次の瞬間。
「で、島津は?」
書状にはこう書かれていた。
『勢い増加中』
沈黙。
「……いやいや」
秀吉は机を軽く叩いた。
「ちょっと調子乗りすぎちゃう?」
空気が凍る。
「いや勝つのはええ!」
「戦国やし!」
「でも限度あるやろ限度!」
地図をびしっと指差す。
「なんでまだ進んどるん!?」
「止まる気配がありません」
「元気やなぁ……」
一周回って感心した。
だが。
「いや感心してる場合ちゃうわ」
すっと立ち上がる。
その瞬間。
場の空気が変わった。
さっきまでの軽さが消える。
そこにいるのは。
天下を統べる者だった。
「九州だけの戦やない」
秀吉は静かに言う。
「ここ崩れたら、西全部荒れる」
誰も口を開けない。
「毛利も動く」
「四国も揺れる」
「せっかく纏まり始めた天下が、また乱れる」
軽い調子の声だった。
だが。
誰も逆らえない。
それが天下人の言葉だった。
秀吉は地図を見下ろしたまま言う。
「……停戦命令、出すぞ」
奉行たちが一斉に顔を上げる。
「島津にも大友にも通達しろ」
「はっ!」
「それで止まらんかったら」
一瞬の沈黙。
そして。
秀吉が笑った。
にやりと。
獲物を見つけたみたいに。
「――わしが行く」
もし天下人が本気で動けば。
九州の戦は、“地方の争い”では終わらない。
日本中を巻き込む戦になる。
まだ。
この時点では。
島津も、大友も、立花も知らない。
遠い京で。
天下人が、ついに九州へ目を向け始めたことを。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
秀吉登場!




