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『西国最強の夫婦まかり通る! 〜旦那様は今日も素敵です〜』  作者: 平子 天陽


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姫様とたま

こんにちは! あまはる です!

この物語を手に取っていただきありがとうございます。

※本作は史実を元にしたフィクションです。

 実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。

心にゆとりを持ってお読みください(^^)

更新は21:00になります

「たまー! ただいまー!」


 屋敷の奥へ向かって、誾千代の声が響く。


 その直後。

 ばたばたと廊下を走る音が近づいてきた。

 勢いよく襖が開く。


「姫様っ!!」


 たまだった。

 顔を見た瞬間、怒っている。

 かなり怒っている。


「ひどいです!!」


 誾千代は、ぺろっと舌を出した。


「ごめんて!」


「ごめんてじゃありません!!」



 -----




 ――出陣前のこと。


「ひ、ひ、ひめさまぁぁぁ!!」


 たまの絶叫が、屋敷中へ響き渡った。

 目の前には、髪をばっさり切った誾千代。


「御髪どうされたんですかぁ!?」


 半泣きである。


「切った」


「切ったってぇぇ……!!」


 たまはその場に崩れ落ちた。


「毎日毎日、たまが丹精込めて整えていた御髪がぁ……!」


 誾千代は、てへへと笑う。


「軽くなった!」


「そういう問題じゃありません!!」


 たまは本気で泣きそうだった。


 長く艶やかな黒髪。

 立花家の姫として、人前へ出るたび丁寧に結い、油を引き、整えてきた。

 それが今や、肩より少し上。


 戦場へ行く小姓みたいな長さになっている。


「たまにお願いがあるの」


 誾千代がにこっと笑った。

 たま、一歩下がる。


「姫様がそういう顔するときは、ろくなことじゃありません……」


 さらに下がる。


 誾千代、すっと腰紐を取り出す。


「……嫌な予感しかしません」


 次の瞬間。


「きゃぁぁぁ!!」


 たまは、ぐるぐる巻きにされていた。

 布団の上へ転がされる。


「ちょっと戦に行ってくるから」


 誾千代は、さらっと言う。


「替え玉やっといて」


 一拍。


「今日から、たまは誾千代ね!」


「えええぇぇぇ!?!?」


「父上をごまかしといて!」


「無理です!!」


 誾千代は元気よく立ち上がった。


「よろしくね!」


「よろしくされませんー!!」


 そのまま姫は走り去っていく。


「姫様ぁぁぁぁ!!」


 たまの叫びだけが、屋敷へ虚しく響いた。



 -----


 そして現在。


 たまは腕を組み、深くため息をついていた。

 一方で誾千代は、座るなり話し始めている。


「ね、宗茂すごいの!」


「戦がさ、全部見えてるみたいだった!」


「槍出す場所も、下がる場所も、全部ぴったりで!」


「あと鎧!」


 そこだけ急に力が入る。


「めちゃくちゃかっこよかった!」


 止まらない。


 たまは無表情で聞いていた。


「兜がね、雨の中で光るの!」


「しかも月輪ついてて!」


「あとね、こう、ここが深く下がってて――」


 誾千代が首の横を指差す。


「しころ、って言うんだって!」


「動きやすそうだった!」


「それに長光!」


「刀抜いてないのに強そうだった!」


「あと十時!」


「ずっと楽しそうだった!」


「怖い!」


「薦野はずっと怒ってた!」


「小野は全部分かってる顔してた!」


 たまは、じっと聞いていた。


「……姫様」


「ん?」


「怖くはなかったんですか?」


 一瞬だけ。

 誾千代の口が止まる。


 戦場。

 湿った土。

 血の匂い。

 槍がぶつかる音。

 倒れる人影。


 思い出そうとすれば、すぐ浮かぶ。


 だが。


「……怖かったよ」


 ぽつりと言う。


「でも、それ以上に」


 少しだけ笑った。


「目、離せなかった」


 たまは何も言わなかった。


 誾千代は続ける。


「みんな、本気だった」


「旦那様も」


「小野も」


「十時も」


「薦野も」


「全員」


 その声は、いつもの軽さと少し違っていた。


「戦って、ああいう場所なんだね」


 静かな声だった。

 たまは、ようやく少し表情を緩める。


「……ご無事でよかったです」


 誾千代は、ぱっと顔を上げた。


「ぼたもちある?」


「あります」


 一瞬で明るくなる。


「やったー!!」


 さっきまでの空気が吹き飛ぶ。

 たまは、もう一度ため息をついた。


「……まったく」


 だが、その口元は少しだけ笑っていた。


 -----


 その頃。

 別室。


 濡れた黒髪を後ろで無造作に束ねた宗茂は、静かに刀を拭っていた。


 名工・長光。


 刃には、まだ薄く雨の匂いが残っている。


「姫様は?」


 小野鎮幸が尋ねる。


「戻った」


「怒られている頃でしょうね」


「だろうな」


 宗茂は少し楽しそうに答えた。

 その横で、十時連貞が笑っている。


「いやぁ、姫様めちゃくちゃ楽しそうでしたな!」


「お前は楽しみすぎだ」


 薦野増時が呆れた顔をする。


「戦の後なのに元気なの、あの二人くらいですよ」


「はっはっは!」


 十時は豪快に笑った。


「立花の戦場、賑やかでいいじゃねぇか!」


「こっちは姫様に何かあったらと思うと、胃が痛いです」


 薦野は本気で疲れた顔をしている。

 宗茂は、そのやり取りを聞いて小さく笑った。


 ふと。


 山で槍を握っていた誾千代の顔を思い出す。


 恐怖と。

 高揚と。

 全部混ざった目。


 あれはもう、戦を知らぬ者の目ではなかった。


 宗茂は小さく息を吐く。


 九州の火は、まだ消えない。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました

((。・ω・)。_ _))ペコリ

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