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『西国最強の夫婦まかり通る! 〜旦那様は今日も素敵です〜』  作者: 平子 天陽


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戦場の怪物

こんにちは! あまはる です!

この物語を手に取っていただきありがとうございます。

※本作は史実を元にしたフィクションです。

 実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。

心にゆとりを持ってお読みください(^^)

更新は21:00になります♬

 戦の熱が、まだ山に残っていた。


 湿った土。

 火薬の匂い。

 折れた槍。

 泥に沈む矢。


 南関峠は静かだったが、

 静かなだけで、戦はまだ終わっていない。


「はいはい!! ぼーっとしない!!」


 薦野増時の声が山道へ飛んだ。


「敵が落としてった槍拾ってくださーい!! 矢も使えますからね!!」


 兵たちが、のろのろと動き始める。


「その矢束まだ使えます!! 捨てない!!」


「薦野殿ぉ……休ませてください……」


「駄目です!! 戦の後始末までが戦です!!」


 誰よりも働いている。

 十時連貞が、その横を通りながら笑った。


「相変わらず細けぇなぁ」


「細かくないと立花家は回らないんですよ!!」


「怖ぇ怖ぇ」


 言いながら、

 十時は敵の大槍を軽々と持ち上げた。


「お、これいい槍だな」


「拾った物を勝手に自分のにしないでください」


「まだ俺のじゃないのか?」


「当たり前でしょうが!!」


 そんなやり取りの向こう。

 立花宗茂は、山道の先を見ていた。

 まだ警戒は解いていない。

 島津は退いた。


 だが、


 “崩れて”はいなかった。


 あの退き方。

 あの殿。

 敵ながら見事だった。


 その時だった。


「よっ」


 軽い声がした。

 場違いなくらい軽い。


 誾千代が、ぱっと振り向く。


「あっ!」


 顔が一気に明るくなる。


「義弘ちゃん!!」


 島津義弘が、そこにいた。


 まるで山を散歩しているみたいな顔だった。


 鎧は軽く着崩している。

 だが隙はない。

 動こうと思えば、一瞬で斬り込める。

 そんな空気だけが自然に漂っている。


 太い眉。

 日に焼けた顔。

 笑っているのに、

 目だけは戦場のままだった。

 その後ろに立たれるだけで、空気が少し重くなる。


 宗茂は、それを一瞬で理解した。


(……強い)


 理屈ではない。

 戦場で積み重ねてきたものが、

 そのまま立っている感じだった。


 義弘は誾千代を見るなり、

 豪快に笑った。


「なんだぁ、さっきのちっこいの、お前だったか!」


「ちっこくない!」


「いやいや、山ん中で妙に強ぇ小猿が飛び回ってると思ってなぁ」


 義弘は楽しそうに笑う。


「誾千代ちゃんだったなら納得だ」


 誾千代は満更でもない顔をした。


「えへへ」


 誾千代が、きょろきょろと周囲を見回した。


「今日は一人なの?」


「ん?」


「他のみんなは?」


「たぶん、あっちこっちに散ってる」


「散ってる?」


「戦場は広いからなぁ」


 義弘は肩をすくめる。


「そのうちどこか出会うだろう」


「そんなことある!?」


「あるある」


 妙に軽い。

 だが、島津の勢いがよく分かる言い方だった。


 その視線が、今度は宗茂へ向く。


 一瞬だけ。

 空気が変わった。


 戦場の男同士の目だった。


「大将はお前さんか」


 義弘が言う。


「山道の使い方、うまかったな」


 宗茂は静かに頭を下げた。


「……そちらこそ」


 一拍。


「あの退き方は、お見事でした」


 義弘が、少し目を細める。


「どーも」


 嬉しそうだった。


「崩れたふりして崩れねぇのが、一番難しいんだ」


「ええ」


「追う側が焦れば、そこでひっくり返せる」


 宗茂は短く答える。


 小野鎮幸が、その横で静かに二人を見ていた。


(……お互い褒めあってる)


 普通なら威圧や探り合いになる。


 だがこの二人、純粋に称賛し合っている。


 義弘は、ふっと笑った。


「面白ぇな、お前さん」


 ぽん、と宗茂の肩を叩く。


 重い手だった。

 武人の手。


 誾千代は、その横から得意げに割り込む。


「でしょ!? うちの旦那すごいの!」


 宗茂が固まる。

 義弘は笑いながら言った。


「顔もいいしなぁ」


「そうなの!」


「誾千代」


 宗茂が低く止める。


「ふふふ」


 全然止まらない。

 義弘は、からから笑った。


「いやぁ、惜しいなぁ」


「何が?」


「息子の嫁に欲しかった」


 一瞬。

 宗茂の空気が止まる。


「甥の豊久でも、忠恒でも、誰でもよかったんだがなぁ」


 さらっと名前が出る。


「もう人妻でーす」


 誾千代が満面の笑みで言う。

 義弘は肩をすくめた。


「そりゃ残念」


 その言い方が軽すぎる。


 だが。

 次の瞬間には、もう目が戦場の男に戻っていた。

 山を見る。

 風向きを見る。

 兵の位置を見る。

 自然すぎて、逆に恐ろしい。


「んじゃ、またな」


 義弘はひらりと手を振った。


「次会う時は、もう少し派手にやろうや」


 そう言って。

 山道の向こうへ消えていく。

 まるで最初から、そこにいなかったみたいに。


 静寂だけが残った。


 宗茂は、しばらくその背を見ていた。


「……島津義弘」


 ぽつりと呟く。


 誾千代は満足そうだった。


「いい人でしょ?」


 宗茂は、少し考えてから答えた。


「……怖い人だ」


 その返答に。

 誾千代は、なぜか嬉しそうに笑った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

義弘ちゃん、登場!\\\\ ٩( 'ω' )و ////

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