龍造寺が討たれた
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます。
※本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。
心にゆとりを持ってお読みください(^^)
更新は21:00になります
それは、あまりにもあっけなく届いた。
――天正十二年。
沖田畷の戦い。
龍造寺隆信――討死。
最初、その意味を理解できた者はいなかった。
誰もが、どこかで聞き間違いだと思った。
あるいは、誤報だと。
だが、報せは重なっていく。
同じ言葉が、違う口から繰り返される。
討死。
その一言が、城の空気をゆっくりと冷やしていった。
つい昨日のことのようだった。
大きな笑い声。
無理やり押し込まれた妙な食材。
鍋の湯気。
「うまかけん問題なか!」
と笑っていた声。
そして。
「誾千代、ぼたもち持ってきたぞ」
あの大きな手。
あの夜の光景を、覚えていた。
「……うそ」
ぽつりと声が落ちる。
立花誾千代だった。
視線は定まらない。
ただ、どこか遠くを見ている。
一拍。
その肩が、小さく震えた。
「うぁぁん……!」
堰を切ったように泣き出す。
「ぼたもち……持ってきてくれてたのに……!」
「もう……食べられんやんか……!」
拳が地面を叩く。
怒っているのか。
悲しいのか。
それすら、自分で整理できていない顔だった。
誰も声をかけられなかった。
宗茂は少し離れた場所から、それを見ていた。
あの熊みたいな男が、死んだ。
ついこの前まで笑っていた人間が、もういない。
戦とはそういうものなのだと、嫌でも理解させられる。
そして。
龍造寺の死は、一人の死では終わらなかった。
南が動き始める。
島津。
静かに。
だが確実に。
龍造寺を失ったことで、九州の均衡は崩れた。
押し上げる力と、押し返す力。
その二つだけが残り始めている。
戦は、もう遠くなかった。
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城の空気は、目に見えて変わっていた。
人の行き来が増える。
廊下を駆ける足音。
運び込まれる槍や弓、盾の束。
鉄砲も火薬とともに積まれる。
鎧の箱が何度も行き交う。
誰もが忙しなく動いていた。
「槍の数が合わんぞ!」
怒鳴り声が飛ぶ。
「三本足りません!」
「弓も十張り足りません!」
「さっきは五本足りん言うとったやろうが!」
「鉄砲の火皿も湿気てます!」
「なんでだ!」
「梅雨です!」
「知っとるわ!」
怒号が飛び交う。混乱している。
だが、誰の手も止まらない。
「東側詰の弓備え、配置完了」
薦野増時が書類と火薬袋を抱えながら報告する。
「火縄銃の準備はどうだ?」
冷静な声が響いた。小野鎮幸だった。
「湿気を取り除くのに手間取っています! しかし、予備弾は揃いました」
薦野増時が続けて報告。
「よし、じゃあ銃隊は二手に分ける。湿気た弾は予備に回せ」
「えー、でも予備って結構重いぜ!」
通りがかった、十時連貞が大きく肩を揺らしながら、不満そうに声をあげる。
「黙れ、十時! 運べ!」
「はいよー!」
小野は眉一つ動かさず、状況を見渡す。
「足りないよりはマシだ。」
小野は冷静に指示を続ける。
「盾隊は北詰めへ。弓隊は屋上に配置。火縄銃隊は南側通路で待機」
「はーい! わかりました!」
十時は勢いよく駆け出し、薦野は苦笑しながら後を追う。
誰の手も止まらない。
十時連貞が、大きく腕を振りながら通り過ぎる。
「道あけろ! 鉄砲隊通るぞ!」
肩に束ねた長槍と火縄銃を抱え、勢いだけで進む。
「十時殿、廊下で槍振り回さないで!」
荐野増時が慌てて叫ぶ。
「振り回してねぇ!」
「今、壁削りましたよね!?」
「削ってねぇ!」
「鉄砲の弾も数確認しろ!」
薦野は疲れた顔で、次々と報告を整理する。
「宗茂様!」
若い武士が駆け寄ってくる。
まだ幼さの残る顔だった。
「東側詰の槍備え、数が揃いました!」
差し出された書付けに目を通した。
「……少し多いな」
「申し訳ございません! 予備まで回してしまい――」
「いや、そのままでいい」
宗茂は静かに言った。
「足りないよりはいい」
若い武士は、ほっとしたように頭を下げる。
そのまま走り去っていく背中を見ながら、宗茂はふと思う。
若い。
だが、もう戦に出る顔をしている。
自分も、そう見られているのだろうか。
一方で。
「ねえ、これ何するの?」
場違いなくらい明るい声が響いた。
振り向けば。
誾千代が、武具の並ぶ一角にしゃがみ込んでいる。
並べられた道具の中から、一つを手に取っていた。
火縄銃。
見慣れない形に、興味を引かれたらしい。
「それは――」
近くにいた武士が説明しようとする。
「火を使う武具にございます。扱いを誤れば危険で――」
「へえ」
誾千代は、話の途中で筒の奥を覗き込んだ。
「これ、どこから火が出るの?」
「こちらの火皿に火種を――」
「ふーん」
興味深そうに指でなぞろうとする。
「触るな」
低い声が飛んだ。
宗茂だった。
「危ない」
「えー」
「見るだけにしてください」
誾千代は不満そうに頬を膨らませる。
だが、すぐにまた火縄銃を覗き込んだ。
目を細め、真剣な顔で。
まるで、仕組みそのものを理解しようとするように。
周囲では怒号が飛び交っている。
槍が運ばれ、兵が走り、火薬の匂いが漂う。
その中で。
周囲が戦を見ている中、誾千代だけは武具の仕組みを見ていた。
九州の夏は、少しずつ火薬の匂いを帯び始めていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




