我が戦友
空は赤く、
遠くで雷鳴が響いていた。
最後の神兵が倒れると、
二人はしばらく立ったままだった。
周囲ではまだ戦いが続いている。
二人は岩陰へ潜むと、
背中合わせに座り、
ヴェトルは剣の血を拭き、
ロキは水袋を取り出した。
ロキが鼻で笑う。
「結局、全部ぶっ壊れたな」
ヴェトルは静かに言った。
「最初から、そのつもりだったんだろ」
ロキは肩をすくめる。
「俺は壊したかったわけじゃない。
退屈だっただけだ」
ヴェトルは横目で見る。
「嘘だな」
ロキは乾いた笑いを溢した。
その時だった。
二人の前に
影が落ちた。
岩陰の向こうに
一人の神が立っていた。
白い鎧。
金の角笛。
ヘイムダルだった。
ロキは笑う。
「門番が来るとはな」
ヴェトルが立ち上がると
ロキはその前へ出た。
ヘイムダルの低い声が
地に響く。
「ロキ。
お前の道はここで終わる。」
ロキは肩をすくめる。
「世界が終わる日に
門番ごっこか?」
槍が閃く。
ロキは身をひねって避けた。
岩が砕ける。
「相変わらず真面目だな」
「相変わらず卑怯だ」
ロキは軽く笑った。
ロキは地を蹴った。
ヘイムダルの槍が振り下ろされる。
ロキは足元へと滑り込み、
その背から短剣を突いた。
しかし同時に__
ヘイムダルの槍も
ロキの胸を貫いていた。
ヘイムダルは倒れた。
ヴェトルは倒れ込むロキを支え、
岩壁の陰に運んでゆく。
だが、その体は
すでに力を失いかけていた。
遠くにいたフェンリルは
父の最期を悟り、
ゆっくりと近づいてきた。
世界は炎に飲み込まれていた。
炎の向こうで、
神々が崩れ落ちていく。
轟音を立てて燃え上がるそれは、
まるで生きているかのように蠢いていた。
それらはすべてを飲み込んでいく。
神々の都アースガルズも、
大地も、
空さえも。
空は大きく裂け、
広い平原は
戦死した兵士たちで埋め尽くされていた。
平原には、かつての緑は
もはや見えなかった。
ロキの隣には、予言に名の記されぬ怪物が立っていた。
「俺より先に死ぬなよ。」
その声は、静かだった。
ロキはふっと笑った。
世界が終わるというのに、
ずいぶんとくだらない心配をするものだ。
その時、倒れ伏したヘイムダルの腕が、
わずかに動いた。
彼の剣は光が刺すように、
ロキに向かって一直線に放たれた。
ヴェトルの目がそれを鋭く捉えた。
すると同時に、ヴェトルはロキの前に立ちはだかった。
ロキが顔を上げると
ヘイムダルの投剣は
ヴェトルの背に深く食い込んでいた。
「…先に死ぬなよ、ロキ。
お前のいない世界は
つまらないからな。」
凍った頬に一滴、雨か血か分からない何かが落ちた。
ヴェトルの言葉は、まっすぐだった。
ロキは顔を伏せ、
言葉は出なかった。
瞳が揺れ、
鼻の奥がツンとした。
二人は“勝てない”のはわかっていた。
それでも並んだ。
勝つためではない。
一緒に立つためだ。
ロキは、自分の中の何かが
ほどけていくのを感じていた。
胸の奥には
二人で過ごした、あのくだらない夜の笑い声がよぎった。
そして薄れゆく意識の中でロキは
ホズをけしかけたあの日を思い出す。
“ああ、あんなことしなければよかった”
手を伝う血は生温かく、
岩壁は冷たかった。
彼は目を細めた。
その頬を
一筋の雫が伝った。
フェンリルは
彼のそばに顔を寄せた。
すると、戦場の音が一瞬だけ遠のき、
炎の色が変わり始めた。
突然、地の底からヘルの声が轟いた。
「…条件は満たされた」
ロキは意識が遠のいていった。




