終章 白い日付
『絶対にして』
届いた文字を見たまま、予定表の端を持ち上げた。
夏の欄は白い。父の休みも、補習の日もまだ分からない。鉛筆を取り、日付の枠へ先を入れた。紙へ触れる前に、机へ戻す。
携帯が暗くなった。
指で起こすと、同じ四文字がある。
澪は簡単に言う。遠いよ、と言ったときも、行き方送って、と返した。乗り換えると教えたら、調べると言った。私はそのたび、まだ決まっていないことを先に並べた。
予定表を引き出しへ入れようとして、小さな箱へぶつける。
葉の栞が入っていた箱だった。蓋を開ける。台紙の切れ込みだけが残っている。抜いたときの指を思い出し、切れ込みへ爪を入れた。
中身は澪のところにある。
私の本の、百七十二ページ。
折れ跡をつけたのは前の町だ。机の端へ本を寄せ、爪で角を押した。あの二人は次に会う日を決めず、ページの左右へ離れていく。
今は腹が立つ。
どうして何も言わないの、と本へ言いかけた。けれど、机に本はない。自分で澪へ押し戻した。
人は勝手だ。
箱を閉じ、奥へ入れる。引き出しを閉めても、携帯には返事を待つ文字がある。
『予定が分かったら』
打って、止めた。消す。
『行けると思う』
今度は、思う、の二文字だけ消した。残った文の上には、澪の『たぶん?』が見えている。
全部消した。
椅子を引くと、脚が床を擦る。前の家なら畳に跡がついた。ここでは音だけだった。窓を開ける。机の端の紙が浮き、手を戻す前に収まった。
予定表を開き直した。
夏の欄の脇へ、鉛筆で『澪』と書く。消しゴムは机の隅にある。手を伸ばしかけ、そのまま携帯を取った。
『絶対』
送信の印へ、指を近づける。
父に日程を聞く。学校の予定も確かめる。乗り換えを調べて澪へ送る。鉛筆を予定表の間に挟んだ。閉じずに置いたので、名前はまだ見える。
送る。
文字が入力欄から上へ移った。
携帯を机へ置き、台所の母を呼ぶ。夏休みのこと、と言うと、流しの水が止まった。
百七十二ページのことも、春に『それ、ずるい』と送った理由も、会ったら私から話す。返された本を鞄へしまう前に、澪の顔を見て言う。
今度は、秘密にしたままいなくならない。




