↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/9

終章 白い日付

『絶対にして』

 届いた文字を見たまま、予定表の端を持ち上げた。

 夏の欄は白い。父の休みも、補習の日もまだ分からない。鉛筆を取り、日付の枠へ先を入れた。紙へ触れる前に、机へ戻す。

 携帯が暗くなった。

 指で起こすと、同じ四文字がある。

 澪は簡単に言う。遠いよ、と言ったときも、行き方送って、と返した。乗り換えると教えたら、調べると言った。私はそのたび、まだ決まっていないことを先に並べた。

 予定表を引き出しへ入れようとして、小さな箱へぶつける。

 葉の栞が入っていた箱だった。蓋を開ける。台紙の切れ込みだけが残っている。抜いたときの指を思い出し、切れ込みへ爪を入れた。

 中身は澪のところにある。

 私の本の、百七十二ページ。

 折れ跡をつけたのは前の町だ。机の端へ本を寄せ、爪で角を押した。あの二人は次に会う日を決めず、ページの左右へ離れていく。

 今は腹が立つ。

 どうして何も言わないの、と本へ言いかけた。けれど、机に本はない。自分で澪へ押し戻した。

 人は勝手だ。

 箱を閉じ、奥へ入れる。引き出しを閉めても、携帯には返事を待つ文字がある。

『予定が分かったら』

 打って、止めた。消す。

『行けると思う』

 今度は、思う、の二文字だけ消した。残った文の上には、澪の『たぶん?』が見えている。

 全部消した。

 椅子を引くと、脚が床を擦る。前の家なら畳に跡がついた。ここでは音だけだった。窓を開ける。机の端の紙が浮き、手を戻す前に収まった。

 予定表を開き直した。

 夏の欄の脇へ、鉛筆で『澪』と書く。消しゴムは机の隅にある。手を伸ばしかけ、そのまま携帯を取った。

『絶対』

 送信の印へ、指を近づける。

 父に日程を聞く。学校の予定も確かめる。乗り換えを調べて澪へ送る。鉛筆を予定表の間に挟んだ。閉じずに置いたので、名前はまだ見える。

 送る。

 文字が入力欄から上へ移った。

 携帯を机へ置き、台所の母を呼ぶ。夏休みのこと、と言うと、流しの水が止まった。

 百七十二ページのことも、春に『それ、ずるい』と送った理由も、会ったら私から話す。返された本を鞄へしまう前に、澪の顔を見て言う。

 今度は、秘密にしたままいなくならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。