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星屑の冒険者たち Re:Quest  作者: 臥裳斗真


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3/11

第1話 はじめての依頼は、迷子探し ③


 夕方、港町冒険者ギルド。


 三人が戻ると、受付係はまず顔、手、足を順番に確認した。


「怪我は」


「ないです」


「対象は」


「見つけました」


 その言葉で、待っていた荷車屋の主人が立ち上がった。


「どこだ」


「森です」


「連れてきたのか」


「いや」


 主人の顔が変わる。


「……なんでだ」


 ルカは順番に話した。幼獣。母獣。罠。傷。そして、置いてきたこと。


 主人は最後まで黙って聞いていた。


「連れ戻してくれと頼んだ」


「はい」


「あれはうちの荷車獣だ」


「……はい」


「半年分の稼ぎを使ったんだぞ」


 声は大きくない。だが、強かった。


「一頭戻らなきゃ、荷車が一台止まる」


 ルカは何も言えなくなった。


「明日から港の木材運びが入ってる。間に合わなきゃ、俺だけの話じゃない。雇ってる連中の仕事も減る」


「……」


「荷車獣一頭ってのは、そういう金だ」


 ルカは初めて、ちゃんと依頼主を見た。


 怒っている。当然だった。半年分の稼ぎも、明日の仕事も、雇っている人間も、全部があの幼獣に繋がっている。


 母獣を助けたことが間違いだったとは思えない。でも、だからといって、目の前の主人が間違いになるわけでもない。


 受付係が依頼票を見る。三人の報告。依頼条件。確認。


「事情は分かりました」


 一拍。


「ただ、依頼内容は幼獣を連れ戻すことです」


 ペン先が帳簿へ触れる。


依頼結果:未達成


 さらに。


報酬:なし


 ルカは無意識に胸元の章へ目を落とした。朝と同じだ。何も変わっていない。


「今回は未達成として記録します」


「……はい」


 ルカは主人の方へ向き直った。


「明日の朝、もう一度見に行きます」


「何を見るんだ」


「母獣の脚です。歩けるなら、親子ごと連れてこられないか確かめます」


「無理だったら」


「無理だったと報告します」


 主人は少し黙った。


「報酬は出ねえぞ」


「要りません」


「……勝手にしろ」


 受付係がもう一行書いた。


 翌日、現場再確認の申し出あり。報酬なし。


「分かりました」


 フィオが言い、ボルも小さく頷いた。


 主人は帳簿を見て、それからその横に置かれた布包みへ目を移す。


「それは」


「罠です」


「母獣にかかってた」


 主人の視線が止まった。


「見せろ」


 布を開く。鉄製の捕獲罠。土。血。側面の、三日月形の小さな刻印。


 主人の目が、そこへ落ちた。


「……これ」


「知ってるんですか」


「うちの首輪にも付いてる」


「同じ印ですか」


「よくあるやつだろ」


 主人は布を戻した。それ以上は見なかった。


 主人は何か言いたそうにして、やめた。背を向け、出口へ向かう。


「でも」


 ルカの声で、主人の足が止まった。


「迷子じゃなかった」


 主人は振り返らない。


「あいつ、逃げたんじゃなくて」


 ルカは続ける。


「母親のところに戻っただけだった」


 沈黙。納得したわけでもない。許したわけでもない。ただ、一度だけ足を止めた。


「……そうか」


 それだけ言って、出ていった。


 ルカは机の上の罠を、もう一度布で包み直した。



「未達成」


 ギルドを出てから、ルカが言った。


「未達成ね」


「報酬なし」


「なし」


「初依頼」


「失敗」


「言い方」


「記録上はそうでしょ」


「……そうだけど」


 ルカは胸の章を見る。朝、受け取った時は、それでも何かになった気がした。今も同じ章が同じ場所にある。


「冒険者って、依頼を達成する仕事だと思ってた」


「違うの」


「……違わない」


「じゃあ何」


「分かんない」


「分かんないんだ」


「でも、次は最後まで見る」


「何を」


「全部」


「……次」


 ボルが言った。


「ん?」


「次の依頼」


「受ける?」


「受ける」


 即答だった。フィオが呆れる。


「未達成の五分後なんだけど」


「じゃあ明日」


「反省する時間そこ?」


「した」


「短い」


「でも」


 ルカはギルドの扉へ目を向けた。その向こう、右側の名札の壁。


 朝は、一番上しか見ていなかった。Aランク。レオ。ミナ。あそこまで行けばどんな依頼を受けられるのか、そればかり考えていた。


 今は、そのずっと下を見る。一番下の段より、さらに下。板も何もない、ただの石壁を。


「……まず、ここからか」


「何が」


「いや」


 ルカは笑った。


「次の依頼」


「条件は」


「見る」


「何を」


「最後まで」


「……よし」


「何でお前に合格出されるんだよ」


「誰のせいだと思ってるの」


 横で、ボルがほんの少し笑った。


 帳簿に残ったのは二行だけだ。未達成。報酬なし。


 ルカの頭に残ったものは、もう少し多かった。


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