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第7話 名前のない損失

 ハルは、目を閉じて背もたれに寄りかかっている。

「陛下」

 目を開けると、レヴィアスと従者が、何かを取り出していた。包みを広げると、パイの香ばしい香りが馬車の中に広がる。

「まだ、王都までは時間がかかりますので」

「私はいい。お前たちで食べろ」

 レヴィアスが、ハルの膝の上にナプキンを広げる。従者がパイを差し出す。

「お食事は、私がすべて用意いたしました。ご安心下さい」

 ハルは視線を窓の外に向ける。街灯の明りで、外の景色はまだらだった。周囲を警戒する騎士団の影が映る。

「陛下。最近、服にゆとりができたようですね」

 レヴィアスの顔は微笑んでいるが、その目には温度はなかった。ハルは、ため息をつきながら手袋を外す。

「そういうお前もだろ」

 顎で指すと、従者がレヴィアスにパイを差し出す。ハルはかじる。味を確かめるでもなく、ただ飲み込む。


 パイのかけらが散ったナプキンは片付けられ、水が差し出される。突然、馬の嘶きが響いた。

 もう一度、馬の鋭い嘶きが上がる。騎士団の声が上がり、馬の乱れた足音が響く。馬車が揺れる。ハルの鼻腔に、血と汗の臭いが蘇る。目の前の景色が、わずかにずれる。

 馬車の左側に衝撃が走る。レヴィアスが右側の扉を開け、ハルに向って腕を伸ばす。

 横からの衝撃に、ハルは座席に倒れこむ。目の前からレヴィアスの姿が消えている。隣の気配もない。

 大きく馬車が揺れて、木を裂く音が耳を劈く。黒い外套が揺れ、その隙間から銀の光が閃く。

 目の前が陰る。鈍い音がすぐ近くで鳴る。ハルの上には、まだ幼さの残る兵士が崩れ落ちていた。

 騎士団の怒号と、鎧がぶつかる音が聞こえる。

「押さえろ!縄を持ってこい」

 

 「しっかりしろ」

 レヴィアスと一緒に、兵士を横たわらせる。反応がない。ハルの服には、赤い染みが広がっていた。ハルはその場に膝をつく。握った拳が震える。掌に爪が食い込む。

「またか……」

 


 

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