第20話 届かなかった場所
「それは、どういうことだ」
ハルの目が鋭くなる。尖った声を抑えながら問いかける。
「我がオーリスポート領の現状はご存じですか。ご存じないでしょう」
公爵は薄笑いを浮かべたまま、滔々と話し始めた。
「陛下は、エルアール国との和平条約締結という偉業を成し遂げました。その結果、王都は安定した。しかし、我が領では百を超える荷運びが職を失いました」
ハルは、小さく首を傾げる。
「領民の多くは、流通業で暮らしていたのですよ。鉄の輸送を担っておりましたからね。鍛冶職人や武器職人もおりました。先王時代に、我が領に任された仕事でした。それが、陛下に代替わりしたら、急に和平に方向転換した。仕事を失った領民に、王都は何をしてくださいましたか」
ハルは、動かない。レヴィアスも、じっと公爵を見ている。
「私には、領民を守る義務がある。そのために、食料流通の仕事を手に入れたのです。職を失った者たちを雇用し、生活できるようにした。それでも、足らないのです。全員を雇用することはできない。職人たちも仕事がない。私には、領民を守るための金が必要だったのですよ」
公爵は、言い切ってひとつ息をついた。
ハルの眉間にしわが寄る。顔は下を向いている。苦しそうな顔をレヴィアスが見ている。口を開きかけるが、言葉が出ない。ハルの口からは、絞り出すような掠れた声が出る。
「……守れなかったことは、私に責任がある……しかし、お前は他領の民を飢えさせた……」
公爵は、ハルをまっすぐに見ている。フッと口から笑いが漏れた。
「他領の民ですか……あんな辺境の子爵領を、王都は気にも留めなかった。それを今更飢えさせたとおっしゃるのですか」
レヴィアスの鋭い目が公爵に向けられる。その拳は、固く握られていた。
「アルリック公爵、口が過ぎますよ」
公爵は、小さく笑い、肩をすくめた。
ハルは、大きく息をすることを数回繰り返し、顔を上げた。
「たしかに、辺境の地まで、私の目が届いていなかった。それは認める。だが、それはお前がしたことを正当化する理由にはならない。お前は、超えてはいけない一線を越えたのだ」
「そうですね。だから今日、私はここに呼ばれたのでしょう。断罪するために」




