第17話 公爵の影
レヴィアスがノックと共に執務室に入ってくる。
「陛下。お時間です」
レヴィアスの声が、いつもより固く聞こえる。ハルのペンを走らせていた手が止まる。ペンを置こうとした手が、また紙の上に戻り動き出す。
数分後、ペンを置く音がする。机の上の書類をまとめて、紙の山に重ねる。ゆっくり立ちあがる。レヴィアスが、地下通路に繋がる扉を開く。部屋の中には、二人の動く音だけが重なっていた。
地下通路に降りると、ひんやりと湿った空気が足元からまとわりついてくる。二人の足音がやけに大きく響いている。何度も通った通路なのに、足が重い。
鉄の扉の前で立ち止まる。後ろから、レヴィアスの重い息遣いが聞こえる。扉を叩く前に、内側から開かれる。ハルが部屋に入ると、扉を支えている男は、黙って頭を下げた。
部屋の奥に見える扉が開かれる。中から、サイラスが姿を現す。
「こちらへ」
ハルは、招かれた方へ向かう。部屋に入ると、中央に丸いテーブルと周りに置かれたイスが見える。ハルは奥の椅子に腰を掛ける。それぞれが席に着くと、サイラスは抑揚のない声で話し始める。
「調査結果がまとまりました」
ハルはテーブルの上で手を組んだまま、黙ってうなづく。
「倉庫が建てられていた場所は、オーリス・ポート領公爵アルリック・ド・グレイモン卿が所有する土地でした。公爵邸の使用人が、南域回送組合に出入りしていることも確認しています」
サイラスの言葉が切れると、部屋は静寂に包まれた。ハルの組んだ手が固く握られ、指先は白くなっている。レヴィアスの視線は机の上に落ちて動かない。息遣いはかすかに震えていた。
「……アルリック公爵が関わっているという証拠はあるのか」
「倉庫建築に関わる資金は、グレイモン卿が出資しています。倉庫建築に関わった石工から証書を入手しました」
サイラスは、羊皮紙を広げてテーブルの上を滑らせる。ハルは、それを引き寄せて視線を走らせる。視線を上げると、レヴィアスの方へ羊皮紙を押しやった。
「出資元はコルテス商会となっているが……?」
その問いには、レヴィアスが答える。
「……アルリック公爵家の御用商人です」
サイラスは、それに小さくうなづき、話を引き取る。
「直近で、公爵家から商会へ多額の資金移動が確認されています」
ハルの視線は落ちたまま動かない。レヴィアスの右手は、目頭を押さえている。下を向いたままのレヴィアスから低い声が出る。
「王都へ向かう流通は、公爵領を通るルートになっています」
ハルの口から、ため息が漏れる。机の上で組まれた指が、小さく動いている。
「……流通管理権を持っていたな……その立場なら可能か」
部屋の空気が、重みを増す。サイラスは、二人を黙って見ていた。




