第15話 歪み
ハルは、捲り終わった紙の束をレヴィアスに渡す。紙をめくる音が、静かに続く。視線を上げると、レヴィアスは赤い日差しに照らされていた。その手の動きを、ただ見ている。
レヴィアスが最後の一枚をめくるのを見て、ハルが口を開く。
「食料の流通に問題はないようだが……」
「そうですね。王都や周辺地域には問題はないようです。しかし、中心区から離れた地域への流通量は、減っているようです……南端地区のソリス・ヴァンテ領へは、全く届いていません。地域による価格差も出ています」
「報告書では、規定数届いている……市場価格も大きな変動はない……どういうことだ」
ハルは、背もたれに寄りかかる。右手の人差し指がひじ掛けをゆっくり叩いている。コツコツという小さな音が聞こえる。レヴィアスの口から零れた言葉が、部屋に残る。
「食料が消えている……?」
「……サイラスからの追加の報告を待つしかないな」
最後の参内者が、謁見室の扉から姿が見えなくなる。ハルが、ひとつ息を吐き、立ち上がる。向きを変えた先で、レヴィアスが陳情書を束ねている。その横をすり抜けて、扉に向かう。
階段を上がった先の扉を開けると、執務室に広がる日差しに目を細めた。後ろから、気配が近付いてくる。ハルは、執務室に足を踏み入れ、机に向かう。椅子に腰かけようとして、動きが止まった。後ろからレヴィアスの声が届く。
「陛下、こちらを……どうされましたか」
視界にレヴィアスの顔が入り込む。視線の先には、机の隅に黒い小さな箱が置かれていた。
ハルが口を開く。
「今夜だ。人払いしておけ」
夜の静けさは、微かな物音も響かせる。レヴィアスが、地下から繋がる隠し扉のレバーを引く。その向こう側には、サイラスが立っていた。表情はない。
ハルは、振り向くことなく立ちあがり、前方のソファーに移動する。サイラスは、微かな足音でその後を追い、向かいに座る。ハルが後ろに目配せをする。レヴィアスがハルの隣に移動するのを待って、サイラスが口を開く。
「追跡調査の結果、王都の外れに倉庫を発見しました。まだ新しいものでした。地方に流れるはずの食料が、そこに運び込まれていました」
ハルの膝に載せられた手が握られる。ハルの口から一段低い声がこぼれる。
「そこの管理者は誰だ」
「南域回送組合です」
ハルの眉間にしわが寄る。
「……なんだ、その組合は」
「南方面の流通を担っている業者です。拠点は王都に構えているようです。代表者は、バルガス・ボンドという男です」
「何者だ」
「金になれば、荷を選ばない男です」




