第14話 食い違い
ノックと同時に、執務室の扉が開く。レヴィアスが入ってくる。
「陛下、各地からの報告書が整いました」
差し出された紙の束を、ハルが受け取る。紙をめくる音が間を開けながら聞こえる。
「備蓄から出した食料は順調にまわっているようだな」
「はい。流通量は予定通りあがってきています」
「バークリー領のほうはどうだ」
「希望者の移住は進んでおります。農業指導も始まりまして、農地開拓が進んでいるようです」
「備蓄からの放出は3か月としている。その後の供給は問題ないな」
「はい。バークリー領からの流通にはもう少しかかるでしょう。しかし他の地域からの供給でつなげますので、問題ないかと。ただ……」
ハルは、視線を上げて背もたれに寄りかかる。
「なんだ、何かあるのか」
「いえ……これはあくまで噂なのですが……王都では流通しているようですが、地方には届いていないとの声もあります」
ハルの目が細くなる。レヴィアスの手が、顎を触っている。
「どういうことだ」
「あくまで噂ですので……ただ陳情書の内容は変わらず、同じ地域から繰り返し上がってきています」
ハルの手が机の上で組まれる。人差し指は手の甲を撫でている。
「……供給は足りているはずだ」
「ええ、報告書では十分足りています。流通量も増えています……が、価格が動いていません」
「まだ流通の揺れがあるだけではないのか」
「ええ……その可能性もありますが……一度調査してみましょうか」
「……そうだな」
「かしこまりました」
数日後――。
「陛下、本日の予定は以上となります」
朝の確認事項が終わる。いつも通り、机の上に積まれた書類へ手を伸ばす。レヴィアスの言葉の続きに動きが止まる。
「先日の件の報告があがってきました。特に何も問題なし、とのことでした」
「……そうか……市場の価格はどうなんだ」
「変わっておりません」
ハルの伸ばしたままの手が握られる。
「なぜだ……それでは報告と合わないだろう」
「はい……なぜかは分かりません……もう一度調査してみます」
ハルの視線が落ちる。胸の前で腕が組まれる。
「……表には出すな」
「……調査はされないのですか」
「……暗部にやらせる」
「暗部ですか……」
レヴィアスの声が一段低くなる。ハルの視線が一瞬レヴィアスに向けられる。
「表で調べても分からないんだ。仕方ないだろう」
後ろで重い音を響かせて扉が閉められる。以前来た時より、灯りと人の数は増えている。だが、聞こえるのは息遣いだけで、静けさが部屋を支配している。部屋の中央に置かれた机の前にハルが腰掛ける。レヴィアスの足音が後ろで止まる。向かいにサイラスが座る。
「任務の命令だ。国内の食料の流通に違和感がある。その動きを探ってくれ」
「どこまで調査しますか」
抑えた声量で、抑揚のない言葉が返ってくる。
「動きに不自然なところがないか探ってこい。また命令は出す」
「かしこまりました」
ハルは立ち上がり、振り返ることなく部屋を出た。




