第13話 委任
「陛下、農業政策の骨子はこちらになります」
レヴィアスは机の上に資料を置き、そのまま続ける。
「ギルバート公爵より、来週の火曜の午後に来城なさるとの返事が来ております」
机の上の資料に目を通し終わると、ハルが顔を上げる。
「バークリー領で農業拡大ができれば、安定を目指せるな」
「はい。あとは、公爵を納得させるだけです」
応接室で、ハルはソファーに腰かけている。侍従が公爵を案内してくる。
「ギルバート公爵、遠路をご足労頂き感謝する」
立ちあがって挨拶をする。
「国のための議にお招きいただき、光栄に存じます」
レヴィアスが席を促す。公爵は、ハルが座るのを待ってソファーにゆったりと腰掛ける。侍従が紅茶を運んでくる。
レヴィアスが朗々と喋りだす。
「今日、公爵にご足労頂きましたのは、農業政策のご相談です。ギルバート公爵の地で作られる馬具や革製品は、とても品質がいいと評判です。職人の高い技術に加えて、肥沃な土地で育てられる牛や羊たち、その素材の良さもあるのでしょう」
「我が領地の自慢です」
「今、我が国では食料不足が深刻となっております。その解決のために、肥沃な土地を有する、バークリー領で農業拡大をお願いしたいのです。そのための、人手として徴兵で戦場に出ていた者たちの移住を支援します。必要な農具は2年間貸与します」
公爵は腕を組んで視線を落としている。
「……わが領地の特性を考えれば当然のお話です。ただ、兵士たちは農業においては素人です。それで利益を出すのは難しいですな……」
「はい。公爵には、農業の指導者となる人材をご用意いただきたい。初年度については、兵士たちの生活保障と食料の支給は致します。また、初年度から3年は免税とします」
公爵の視線は一瞬ハルに送られる。
「農業は、天候に左右される不安定なものです。そこは保証していただけるんですか」
「天候による不作が、一定のラインを下回るときは補填いたしましょう」
「なるほど……わが国には、革製品の腕のいい職人たちがおります。その者たちも農業で生きていくしかないのでしょうか」
「終戦により、需要が減るのは確かでしょう。ですが、騎士団や王室ではこれからも必要なものです。今後、王都で使用する馬具は、バークリー領に依頼する形でいかがでしょう」
「……それでも領地の基盤を揺るがす話ですな」
ハルが口を開く。
「必要なものは与える。――公爵に任せたい」
公爵はしばらくハルを見ていた。そして、小さくため息をつく。
「そう言われたら、受けるしかありませんな……分かりました。やりましょう」
ハルは立ち上がり、右手を差し出す。公爵は悠然とした動きで、ハルの右手を握る。
「公爵の手腕に期待している」




