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赤毛の職人とぬいぐるみの戦争  作者: 牛熊


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13. 回顧録:白髪の老人

やあ、久しぶりだね。


世界に名だたる工房の副社長ともあろう者が、わざわざこんな遠くまで来るとは。


回顧録のためとはいえ、ご苦労なことだ。



体調はどうかだと?


昔ほど無茶はできないが、それでも好き勝手にやれる程度には元気だ。


それに年を取ることも悪いことではない。


視点が変わることで、今までとは違った見識を得ることが出来る。



まだぬいぐるみを作り続けるのか?


もちろん死ぬまでやるさ。


孫や曾孫には特製のぬいぐるみを欠かさず送っている。



そこで得たフィードバックを元に改善も欠かしていない。


今度、新しい玄孫が生まれるからね。


それに向けて準備を怠るつもりはないよ。



話が横道に逸れたな。


あの時の話はできるが、私が本格的に関係を持ち始めたのは、2度目の展示会からだからな。


それでもいいのかね?



展示会で初めて会った時の話を聞きたい?


そうだな、第一印象は失望の一言だった。



ロックミア共和国の有名な服飾工房。


そこが大臣の命令を受けて、本格的にぬいぐるみ作りを始めた。


しかも元帥の激励付きだ。


期待するなという方が無理だろう。



最初に部下から報告を受けた時の、私の浮かれぶりが分かるかね?


長年待ち望んだ競争相手。


それが遂に登場したのだと興奮したよ。


舞踏会で王子様に招待を受けた少女の如く、踊り出したい気持ちを抑えるのに精一杯だった。



それなのに、いざ会場で見たものがアレだ。


投げ捨てなかった自分の自制心を褒め称えたい。


だからこそ、彼があの場で歯向かって来たのを見て大喜びしたんだ。


拍手喝采したいと本気で思ったよ。


彼の無礼な言動など取るに足らない些細なことだった。



我が工房に憧れてぬいぐるみ作りを始めるところは多い。


商業的な目的であれ、純粋な作品作りであれば、その事自体は良いことだ。


だが、誰もが途中で挫折し、それなりの評価と売上を得て満足してしまう。


私の作品と並べられ批評されると、誰もが薄ら笑いを浮かべながら、勝てなくとも仕方ないと受け入れてしまうんだ



彼らは私の作品に憧れていても、本気で越えようとはしていない。


残念なことにね。


彼と君だけが本気で私を越えようとした。


2度目の展示会で作品を見た瞬間、君たちがどれだけの熱意を込めて来たのかが伝わってきた。


私が孫たちに向けるものとは違うが、それは確かに愛情と呼べるものだった。



彼の悪巧みが好きなところが気に入ったんじゃないかだと?


......まあ、確かにそういう部分は否定できない。


工房設立後も、一緒に色々とやってきたからな。


君たちの工房が大きくなるにつれ、企み事の規模も大きくなっていった。


実にやりがいのある日々だった。



特にあの最初の企みはとても楽しかった。


会談に居並ぶ方々が焦燥を抱き、冷や汗を流す顔。


胸がすく光景とはあのことを言うのだろう。


雲1つ無い晴れた空に降り注ぐ陽光、その下でどこまでも広がる草原に降り立った時のような清々しい気持ちになれた。



ああ、君はチャリティーイベントの方で忙しかったんだな。


あの会談もそうだが、その前の仕込みの時も実に楽しかったぞ。


権力者にプレゼントを送るだろ?


その翌日から、彼らは慌てて関係各所に連絡を取り始めるんだ。



そして私たちはしたり顔で近づくわけだ。


「何かお困り事があるようだ。私たちに協力できることはありませんか?」とね。


最初は疑いの目で見られ、結構だと断られる。


でも、時間が経つと追い詰められ、「やはり助けて欲しい」と言い出す。


驚くほど簡単に山のような貸しを作ることができた。


まあ、やりすぎた結果、ぬいぐるみを賄賂や軍事物資と勘違いした馬鹿も出てきたんだが。



ああ、せっかく来てくれたんだ。


1つ連絡をお願いしてもいいかな?


なに、そんな難しい話じゃない。


君たちが新しく支店を出した国があるだろう?


そこの高位貴族が、家族に隠れてぬいぐるみ収集を始めたという話があってね。


営業や流通の基盤を手軽に作るいい機会だと思わないか?

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