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「それでも、アイシテル」 6  #ルート:S 





~ジークムント視点~



俺は卑怯者で……臆病者だ。


ひなが目を覚ますまで、内心願っていたことがある。


『ひなが分離したことで、カルのことを忘れていたらいいのに』


存在も何もかも、か、カルと起きたことだけを、か。


ひなが思い出したらツラくなることは、消えてしまえばいいのにって願ったのに。


(俺の願いは、叶わなかったな)


結果だけでいえば、カルと俺のどっちかを選んでくれたわけじゃなく、両方を選んだようで選べなかったのが現実。


最初にカルの話題が出るなんて思っていなくて、カルがいないと呟いたひなに何も言葉をかけられないでいる。


「…ひな? 水を飲むかい?」


シファルがひなに声をかけると、微笑んで肯定を示すひな。


部屋を出ていくシファルに、ここにあるのに? と思っていたら、別の水差しを手にしてきた。


「……はい。これ、あの時、飲みたがっていたよね?」


ただの水にしか見えないのに、ひなはその水を受け取って一口飲んで涙を流す。


「カルナークの……」


本当に嬉しそうに微笑んで、残りの水もゆっくり飲んでいく。


シファルの背中を思わず睨みつける。


(なんでそんなもん持ってきたんだよ)


カルナークを思い出すだろうって思ったし、シファルがやってることの意味が不明すぎる。


「あのね? ひな」


シファルがひなのベッドの横で膝をつき、身を低くして話し出す。


「カルナークから、レシピもらってたんだ。俺。結構前の段階でなんだけど、本人がいるのにどうして? って思って、引き出しにしまったままにしてたんだ」


「カルナークの水の?」


「そう。俺にも作れるようにアレンジしたレシピなんだけど、カルナークがいるなら使うこともないなって思ってた。……のに、ね?」


シファルが、「ね?」と首をかしげて、ひなに笑いかける。


ひなはグラスを手にして、ジッと見つめてから一気に飲み干す。


「美味しいよ? シファルの水も」


そういって、空になったグラスを突き出して「おかわり」っていう。目尻から涙を流しながら。


「よかった、口に合って」


シファルはそれを受け取って、また水を注いだ。


どうすればいいんだ、俺は。この場でどうあるのが正解なんだ?


ひなが目覚めて嬉しいのに、髪色がおそろいだって嬉しそうに笑ったのも愛おしいのに。


恋愛は、付き合えたら勝ちなのか、一緒にいられなかったら負けなのか…答えを持たない俺。


(どうして…? どうして……こんなにも苦しくて切なくなるんだ。確かにそばにいるのに)


アレクとナーヴもやってきて、それぞれに声をかける。


召喚初日を思い出す光景だ。


ナーヴに、ニセモノ扱いされた日だ。すごく昔みたいに感じるけど、たった三か月にも満たないほど前の話なんだよな。


あの時とは違ってて、ひなを囲んでそれぞれに彼女を大事に思っているのが伝わりそうな空気だ。


穏やかな空気の中、俺だけが心を乱されたままで、ひなをまっすぐ見られず佇んでいる。


――心ここにあらずな俺の袖を、誰かが引く。


「…へ」


俺らしくなく、変な声が出た。


いつの間にそこに来たのか、ベッドの縁にひなが腰かけたまま俺の袖を引いていた。


気づけば俺とひな以外はいなくなってて、ひなは形容しがたい表情で俺を見上げてる。


「ジークと話がしたいんだけど、ダメかな?」


俺が断るわけがないのに、こんな風に聞かせているなんてな。


ひなの隣に腰かけて、「ダメなわけないじゃん」って笑ってみせた。


俺がベッドに置いた手の上に、ひなが手を重ねてくる。


柄になくドキドキして、思わず視線をそこから逸らした。


「あのね…ジーク」


「…うん」


何を話されるんだろう。カルナークのことばっかりだったら、俺、どうしていいかわかんなくなるんだけどな。


不安になりながらも、言葉の続きを黙って待つ。本当は話を逸らすのに他の話をしたいけど、今はそれは悪手だろ?


これまでの自分のままじゃダメなんだと思うのに、成長できずにここまで来た気がする。


それじゃ、きっとひなのそばにいられない…多分? 自信ないけど。


何ともいえない間が、心臓に悪すぎる。


「この話は、最初にジークにしたくて、みんなに…出て行ってもらったの」


ひながそこまで言うってことは、よほどの話だよな。


緊張感が増して、のどがカラカラだ。


「…………ごめんなさい、ジーク」


不意に謝られる。


え? と顔を向けると「あたしは残酷な人なんだと思うんだ」と続ける。


そして、視線を落として床を見ながら「ジークに酷いことさせちゃったの。内緒で、ね」って呟く。


「俺、に?」


聞き返すと、コクンとうなずく。


「ホントはね、ジークに使わせるつもりなかったの。剣」


ひなはそう言うけどナーヴから聞いた選択肢は、俺だけか俺とひなの二択のはず。


「それって…?」


戸惑いつつも聞き返せば、人差し指を立てて自分を指し。


「自分で刺すつもりだったの、本当は」


三つ目の選択肢を今、明かしてくる。


ナーヴはそんなこと言ってなかったのに、どうしてそうしようと思ってたんだ?


「自分で自分を刺すってことだろ? それに、そうしたらどんな結果になるかはわかってたのか?」


知らないエンディングに、嫌な想像しか浮かんでこない。


「怒らないで聞いてね? ジーク」


ベッドに置かれたひなの手が、俺の手の下でこぶしに形を変える。


「話してよ、ひな」


最初に俺に話したいと思ってくれたなら、聞くしかないだろ? 不安しかないけれど。


「ナーヴから、二つの選択肢を与えられていたけど、イレギュラーなことが起きたらもしかしたら…と願っていたの。すこしだけ。誰にも言わず、なるべくそれを考えないようにもしていたし」


言っている意味がわからない。なかなか核心に触れてくれないひなに、すこし焦れる。


「どんなエンディングを望んでいたのさ」


自分の声が低くなっているのがわかる。ひなが話しにくくならないようにと思うのに、やっぱり俺はどこかガキで。


ひなが息を飲んだのがわかったけど、重なったままのひなの手を強くにぎる。


長い間の後に、ポツリと。


「帰れるかもって、思ってたの」


そう呟いたひなの表情(かお)は、召喚初日にも見た記憶がある。


どこか苦しそうで、何かを諦めようとするような。


けれど、心に秘めたものがある……そんな顔だ。


「一か八かって言葉があって、切羽詰まった時に天に運をまかせるって意味なんだけど、もしかしたら帰るっていう選択肢が生まれるかもって。……でも、ギリギリまで悩んで……捨てられなかったの。どうしても」


ひなの言葉に「なにを?」とだけ問いかけると。


「未来。――約束した、未来を」


俺をまっすぐに見据えて告げた言葉は、視線と同じに俺の心にまっすぐ突き刺さる。


「好きになりすぎちゃったのかもしれない。ジークのこと…」


上目づかいで、甘えるように見つめてから。


「好きなの…ジーク」


囁くように伝えてから、俺の襟を引いて。


「……好き」


震える唇で、キスをした。




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