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「それでも、アイシテル」 3  #ルート:S 



~ジークムント視点~



「ひなから聞いた話だとね? 聖女って名前で持て囃されても、別に嬉しくもなんともなかったみたいだし、何がすごいのかわからなかったって。なにかの分野に特化している人間がいて、それぞれに出来ることで文化や医療の部分で救えるものを救うだけ。自分になにかを救いたいものがあれば、そのために勉強をしていくだけで、それが出来るようになってよく出来ましたって褒められるよりも、言われたら嬉しい言葉は違うってさ」


「ん? 何と言われたら嬉しいのだ? それは、陽向も同じなのか?」


アレクがすこし前のめりになって、シファルの言葉の続きを待つと、シファルは「ふふ」と笑ってから。


「“ありがとう”。たったそれだけでいいんだって。褒められるよりも、助かったよって感謝されたいってさ」


会話をした時のひなの表情が安易に浮かびそうなシファルの、どこか弾んだ声。


シファルのその言葉に俺よりも先に反応したのは、ナーヴで。


「たしかに、アイツなら言いそうだな」


あまりかかわる時間がなかったはずなのに、深い仲みたいな含みがあってなんか嫌だ。


「アイツからさ」


とサンドウィッチを食べつつ、ナーヴが言葉を続けていく。


「今回の浄化に際して、いくつかの頼まれごとをされてた。特に浄化に対してってよりも、二度と召喚が行なわれないための方がメインでな」


指先のパンかすを手をこすり合わせて掃ってから、パチンと指を鳴らして小さな魔方陣を出したかと思えば、その中からいくつかの封筒を取り出した。


「別に読ませても問題ないと思うから、みんなで読んでいい。こういうのも、浄化にかかわった者同士で共有する必要あると俺は思う」


それぞれに封筒を開き、中から手紙を取り出す。この世界のペンは慣れないと言っていたけど、確かに文字がたどたどしいな。


三人で順に手紙を読んでいくと、ひなが自分の国でもないのに妙な罪悪感を抱いていたことを痛感させられる。


ニセモノの色持ちで、浄化が本当に出来るのか不確かで、これまでの聖女についての情報も何もまだなかった時の不安定な胸の内が、手紙からにじんでみえる。


なのに、ニセモノでも自分の中には魔力があって、その力がなにかに活かせるのならと逃げることを選ばなかった。


「アイツ、俺が生きたいってことに執着していたの…誰より理解しようってしてくれてた。“今日だけ生きていられたらいいってわけじゃなく、一日一日を繰り返していたら毎日になるでしょ? 結果、毎日不安なく過ごせるよというなら、自分が出来ることはしておきたい。でも、あたしの力だけじゃそれは叶わないから、後押しするとか効果を増やすような魔方陣を開発できない?”ってのが、アイツからの主な依頼だ」


ひなからの依頼の内容をそう説明して、「そういうのをなんて言うか、こう言ってた」と思い出したみたいに人差し指を立てて。


「塵も積もれば山となる。略して、ちりつも…だよ。だってさ」


「塵……って、あの塵か」


アレクが眉間にしわを寄せて、難しそうな顔をする。


「どういう意味だ? 俺は想像力がないから、塵が積もっても塵だろうとしか思えない」


頭上にハテナ? と浮かんでいそうな顔をする。


「意味は、塵のように取るに足らない存在であっても、それが時間をかけて積もっていけば山のようになる…というところに(なぞら)えて、些細な行動なども時間をかけて続けていけばやがて大きな結果につながるよと言ってたはず」


思い出してスッキリした顔のナーヴに、シファルが「それが…」と言葉を追うように続けて。


「一日一日繰り返していたらってことにもつながるって、こと?」


シファルの言葉に、なんとなくひなが言いたいことが伝わった気がして。


「生きることも、まわりを生かすことも、自分を成長させることも、まわりを支えることも。なんでも積み重ねていけば、ちょっとずつしか成長できてないやって毎日感じてしまっても、それがいつか実を結ぶ……ってことでいいのかな」


シファルに「ね?」と声をかけると、「俺がしていることがそういうことだから、よくわかる」とふわりと微笑んだ。


「薬草を育てていると、そういうのは本当に日々感じるよ。結果が出るまで=薬草が役に立つまで育つっていうのには、一日二日で叶うことじゃないからね。種をまく前に土の準備をして、育ちやすい環境を整えてから種を蒔いて、雑草が生えたら抜いて。薬草が育ち過ぎたらある程度抜いたりするし、水をあげ過ぎてもダメ。育てば生のまま使う物と乾燥させるものとで分けたり。もっと薬効があるものがあるかとか、薬草同士の掛け合わせが出来ないかとかも、とにかく時間がかかる。諦めず、腐らず、呆れず。それで願っていた結果が得られた時には、それまでの大変さとか寝不足とか全部なかったことになるくらい嬉しいからね」


やってきたことを指折りしながら順に話して、最後には破顔した。


シファルが魔力の量を元の5分の1まで減らしてしまった本当の経緯は知らないけれど、薬学の方に集中してからはあまりそれほど話すことがなかった俺とシファル。


遠い昔にシファルが望んでいた未来じゃなかったかもしれないけれど、今のシファルは新しい薬学という学びの中で楽しさを得られているんだと知る。


ナーヴもだけどシファルもこんなに話すやつだったなんて、俺は今までなにをどうやって過ごしてきたんだろうな。


誰かを知ろうとしたことがあったのかな? 知ってもらいたがるばかりで、知ろうとしていなかったのかもなんて考えた。


「ところで、さ。ナーヴ」


シファルが紅茶を飲み干して、ナーヴへと体の向きを変えて真剣な顔つきになった。


「ひなを剣で刺した時に、ギリギリで展開された魔方陣あったよね。ひなの体内に一緒に吸い込まれたようになったやつ」


「…あ、あぁ。アレな」


「アレって、どういう効果の魔法だったの? それと、最後に二人が消える前に二人を突き抜けて次元の切れ目に消えるやつ。アレについても、説明が欲しいんだけど。俺、耳がいいからさ。ナーヴがなんかいろいろ仕掛けさせてもらうけどって言ったでしょ? 間違いないよね? ……なに、仕掛けといたの?」


今度はシファルが前のめりだ。


「あー……」


と短く息を吐くように声をあげただけで、ナーヴは視線を右上にずらしただけ。


「なに? 言いにくいような内容なわけ?」


シファルがグググッともっと前のめりになると、「んー」と唸ってから大きく息を吐く。


「前半については誰に話しても報告書に書いてもいいけど、後半については特にアイツには言わない方がいいかもしれない…と、俺は思ってる。ただし、アイツが起きた時の状態次第という条件つきで」


慎重に言葉を選び、ナーヴは説明をはじめた。



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