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「それでも、アイシテル」 2  #ルート:S





~ジークムント視点~



ひなは今にも目を覚ましそうなのに、モゾりと動いただけで起きる気配がなくなってしまった。


「とりあえず、部屋に寝かそう」


「ああ、そうだな」


ひなをそっと抱きあげて、腕に感じる重みと体温にやっとホッとできた気がする。


生きている。そばにいる。その事実が、たまらなく嬉しくて愛おしい。


「ナーヴ!」


シファルが弾けたような声を出して、いつの間にか下に降りていたナーヴに駆け寄る。


「なんだよ、シファ」


こっちは、心底ウザそうな顔をしているし。まぁ、いつも通りといえばいつも通りだ。


「もう、部屋から出てさ。こっちに来れるよね」


「…あー、まぁ、瘴気もなくなったしな。なるべく顔出すけど、期待すんなよ」


「うん!」


さっきの感じからして、シファルはカルナークとのつながりがそれなりに深かったように見えたけど、ナーヴとも俺が思っていたより仲が良かったんだな。


思っていたよりも、シファルは誰相手でも人当たりがいいってことなのかも。


なんとなく大人しめと決めつけてシファルを見ていたんだと、こんな時になって自分を知った。


まわりを見ていたようで、本当は見えていなかったものが多かったのかもしれないなんて自嘲する。


「あぁ、アレク」


「ん? なんだ、ナーヴ」


「あとで報告書書くのって、どっち?」


といいながら、ナーヴが俺とアレクを指さす。


「今回は俺が書くか。…ジークは、そのまま陽向と一緒にいろ」


「え? 今までその手は俺の仕事だったじゃん」


そういう俺に、まるで兄貴みたいな笑顔で。


「陽向が目を覚ました時に、最初に顔を見たいのはお前の…だろ? きっと」


なんていう。


ひなを抱きあげた俺と、プラス三人と。並んで一緒に歩き出す。


いつもいたはずのカル(アイツ)とは、もう一緒に歩けないんだと改めて感じた。


父親でもある国王にちらりと視線を向けると、何も言わずにそのまま前を通り過ぎるのを許してくれる。


本来であれば、一言だけでも挨拶と状況説明あって然りな状態だから。


「後ほど、報告書を」


とだけ告げて頭を下げたアレクにも、手をスッとあげるのみ。


正直、かなり助かる。疲労困憊って感じだしね。


――あの痛みは本当に体が引き裂かれそうなほどに痛くって、痛みがなくなったはずなのにすぐに思い出せそうなほど。


痛みの記憶はカンタンに消えない。消せない。


その痛みの中、得られたものは大きかった。


腕の中で眠るひなが、死ななかったことと、元の世界にも戻らなかったこと。


それと、ひなを一番愛している人として俺が選ばれたという事実。


そればかりはステータスにも出ないモノだったろうけど、一体どういう風に選ばれたのか不思議だ。


カルはカルの愛し方で、ひなのことを相当愛していたはず。


それも相当重たい愛だったんじゃないかと思うだけに、あの時にカルが自分の愛が認められなくてショックを受けたのも、俺なら理解できる。


カルがいた場所は、もしかしたら…俺の場所だったかもしれないと思えるだけに余計に理解(わか)ってしまう。


いつものように、いつものひなの部屋へ。


慣れた感じで、体を少し起こしてベッドに寝かせる。


人差し指の背で頬を撫でると、ひなはくすぐったそうに首をすくめた。


(…可愛いな)


思わず顔がゆるんでしまう。


「ジーク、顔が危ない」


なんてナーヴが言うもんだから、とっさに顔をそむける。


どうせ、しまりない顔になっていたって言いたいんだろ?


「さ…て、と。ついでにここで話をしてしまおうか、ジーク」


とアレクが切り出し、ドアのそばにいたメイドに手をあげて指示を出す。


程なくして軽食を含めてお茶の準備が整い、俺たち以外は部屋から退室した。


浄化に関係する4人での報告会みたいなもんだよね、これって。


ひなが起きたら云々は俺がベッドに飛んでけばいいし、他の連中はその後にってだけの話だ。…うん。


実質ひなも浄化のメンバーなんだから、うるさくしなきゃいいだけだしさ。


仲間外れみたいになるの、本当は嫌だったんだよな。……うるさくて起きちゃったら、許してくれるかな。ひな


「これを使わせてもらう。すべてをメモするのも、なかなか骨な作業になるからな」


アレクがそう言いながらテーブルの上に置いたのは、つるんとした光の球みたいなもの。


「記録するもの、だったか? ナーヴ」


「時間がなくて今ここにあるのは音声のみだけど、そのうち映像つきのを完成させるから」


ナーヴがそういいながら、指先に魔力をまとわせて球に触れた。


「…ん。いいよ、始めても」


「まずは、被害が少なく、かつ浄化が無事に終わったようだな。ナーヴが普通に過ごせているのが、その証拠だな」


アレクがそういえば「俺は瘴気感知役じゃねえよ」といかにも面白くなさげに、ナーヴが紅茶に手をつける。


「あの陽向の姿は、もう一人の…と単純に考えていいのか? それと言葉のままならば、浄化にまつわる懸案事項がなくなるということで…いいのか? ジーク」


二人でちらりとひなの方を振り返り、俺はそのままの格好で「ああ」とだけ返す。


「もしも瘴気が生まれて人に影響が出そうだったら、それを浄化してくれるってことなんだと思う。それこそ、永続的に。あの言葉を……信じたらね」


―――アレも…コレも、どっちもひなで。


召喚のことで同じことが繰り返されることは望んでいなかったひならしい願いといえば、なんとも優しいエンディングだなとは思うけどさ。


「今後、また瘴気が発生することでも起きない限り、本当に浄化されるのかを確かめられないからね。どれくらい時が過ぎて、信じててよかったなってなるのかなぁ」


ふう…と胸の奥にある重いものを吐き出す。


「結局、アッチのひなが言っていたように、聖女という…国民でも王族でも何でもない全くの他人に、すべての責任をおしつけ苦労だけ与えて、お礼のように与えてきたのが」


シファルがそう言えば、


「聖女としての、名誉。それがメインだろう? だから、聖女って称号がついているだけで持ち上げたり、出来なきゃ下げまくったりしていた教会の態度が、一番明確だよな。そんなもん、誰だってしたくねえよ。拉致軟禁の上に労働なわけだから。しかも、欲しいなんて言ったことない称号をやるからって、それで帳消しになると思っている時点でかなり狂ってる話だよな。……今までそれを当たり前なんだと疑いもせず、今回アイツを召喚した。俺たちみんなが犯した罪を、アイツが尻拭いして、今後同じことがないようにと対策までしてきた。何百年とかけて、何も手を打たなかったことを、わずか数か月の間で」


ナーヴが辛辣な物言いで、自分含めて全員を詰る。


「それがわかってたから、俺はアイツが依頼してきたことをなるべく具現化してやった。瘴気がなくなるなら、俺も生きられるし、話に乗るほかはなかったな。浄化に光属性が必要なのはわかっていても、どう絡めれば浄化につながるのかは、本当にギリギリのタイミングで聞けててよかった。まるで、こうなるってわかってたみたいで、聖女の力かなんか知らないけど、すげぇなって思った。素直に」


真剣な顔つきでそう呟いてから、ベッドに眠るひなの方へと目を向けたナーヴ。


「……それなんだよね」


と、シファルがひなとの会話を思い出しながら、そう話し出した。


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